盛城東奈、夢の中で蜂子皇子と邂逅

盛城東奈の夢の中

東奈の脳に直接語りかけるように雅な雰囲気をした男の声がする。

「東奈…蝦夷の神子、盛城東奈よ…」

「誰でがんすか…俺さ…はっ!」

東奈の枕元に顕れたのは、全体が黄緑色のかんむりほうらんひらみ表袴うえのはかま長紐ながひもで締め、しとうずを履いた、飛鳥時代風の男性皇族用朝服を着た蜂子皇子本人であった。

「は…鉢子皇子…いや…殿下…!」

「そのように呼ぶでない。余はもう皇族すめらみことの身内ではない。照見しょうけん大菩薩だいぼさつである!」

「ははーっ!」

「表を上げよ。そなたに渡すものがある」

「は、はい…殿下…いえ、照見大菩薩様!」

東奈は一旦は蜂子皇子に対して平伏するも、照見大菩薩と名乗った蜂子皇子に顔を上げるよう告げられた。

「余は憎しみ合う生き方はもう沢山だ。だが身内の天孫族ヤマトは憎しみ合う事しかする事が無い。馬子は余の父上(崇峻天皇)ばかりか、厩戸(聖徳太子)まで巻き込んでしまった。このまま天孫族ヤマトをのさばらせておいたらこの国は六道のうちの四悪趣(修羅・畜生・餓鬼・地獄)ばかりになってしまう。だから余は天孫族ヤマト皇子すめらみこでありながら、この出羽の国津神に帰依し、蝦夷の守護者になる事となったのだ!!天孫族ヤマトの行くところ全てが四悪趣に堕ちる!!」

「なるほど!」

「余は出羽国と陸奥国のその後を全て見てきた。長い、長い間…山を隔てた陸奥国では蝦夷の長、阿弖流為が天孫族ヤマトに最後まで抵抗した。その阿弖流為が復活した!」

「なんだってやぁ!?」

「奥羽は今狙われておる。津軽の地に封印されたハズの上毛野田道が現世に於いて六道輪廻を繰り返す蝦夷の民を鋼の獣に、蝦夷そのものを迷界と化し滅さんと動き出したのだ。それを阻止するために伊氏波イデハ神を始めとする奥羽の神々は阿弖流為を復活させ、更には共に田道や鬼と戦う巫女を選ばせた」

「その、巫女とはもしかして?」

「巫女と言っても2種類ある。六道の四悪趣に堕ち、鬼と化した蝦夷の民「六道獣」と戦う巫女、その鬼を元の蝦夷の民に戻す浄化の羽黒神子、この2人が連携しなくては迷界獣は人には戻らぬ!天孫族ヤマトのように六道を輪廻し続け暴れるだけ!その「浄化の法」を用いて奥羽の大地と民を救うのだ!」

「ひょっとしてこれが… 宇漢迷公宇屈波宇の言っていた“来たるべく更なる災い”の事だか?」

「そうだ。浄化の法に加え、羽黒全ての秘法、そして余からも移動用のエミシノイド一体をお主に授けよう」

「はい?」

蜂子皇子が手を翳すと、光の球が現れ、それはメカ犬鷲に変化した。

「これは…?」

「お主を乗せ、護るエミシノイド「イデハイーグル」だ。明日の朝お主を迎えに来る。その後はお主が使役するがよい!」

「あ…ありがたき幸せにござんす… 照見大菩薩様…!!」

東奈は蜂子皇子に深々と礼をした。

「それから阿弖流為に会ったらこう言伝てはくれまいか?「本来なら天孫族ヤマト天皇おおきみとなる身分であった余は、この出羽国に来るまで誰の役にも立てなんだった…言い換えれば大和国から出なければ、豊葦原瑞穂国とよあしはらのみずほのくに(本州)の現実を見る事すら叶わなんだ。だから阿弖流為よ、伊氏波イデハの力を使え!伊氏波の力と蝦夷の力を併せ持った羽黒神子でなければ、六道獣と化した蝦夷の民は真に救えぬ!」とな!!」

「心得ました!能除仙様!!」

「ではさらばだ!蝦夷の神子よ、己の運命を全うせよ!!」

「照見大菩薩様…蜂子皇子ー!!」

そのように言い残して蜂子皇子は東奈の枕元から消えた。


翌朝、解散式を済ませた神子修行の一行がバスに乗り込もうと列を組む中、神光輝が声をかけてきた。

「あなた、私はこのあと仙台に寄って東京に帰るけどこれからどうするの?」

「仙台さ向かうのすな?ほだばそれなら一緒に仙台かあばいん行きましょう!」

「あら!」

東奈は昨日までの神式の神子装束ではなく、法螺貝ほらがい鉢巻はちまき・藍色の市松模様の摺衣すりごろも結袈裟ゆいけさ・貝ノ緒・括袴くくりばかま剣先脚絆けんさききゃはん・足袋・草鞋を炎に見立てた神の紐隠しで構成された仏式の山伏装束のを見に纏った。

さらに摺衣の袂から護符を取り出し、天にかざした。

オン蘇涅哩瑟吒ソジリシュダ薩婆訶ソワカ!現れ出でよ!北天を守護する妙見菩薩の眷属にして奥羽の天空の守護獣、イデハイーグル!!」

妙見菩薩真言と共に現れたのは、昨夜の夢に出てきたメカ犬鷲「イデハイーグル」だった。

「驚いた!蜂子皇子からの神託にロボットを賜るなんて…」

「さぁ乗らい!荷物しっかり持たい!阿弖流為と阿弖流為が選びし蝦夷の巫女の元へ、急行せよ、イデハイーグル!!」

東奈はイデハイーグルに光輝を乗せると、イデハイーグルを起動させた。

-フォオオオン

イデハイーグルは出羽三山神社の峰中堂前から両翼のファンで垂直離陸した。

その様子を他の神子修行参加者はただただ唖然と見守るしか無かった。

「何アレ?」

「修行で身につけちゃったのかな?チート能力ってやつ?」

-バシュン

ある程度の高さまで垂直離陸したイデハイーグルは仙台を目指して飛行開始した。


「後は頼んだぞ阿弖流為…」

羽黒山から蜂子皇子が2人を見送って行った。

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奥羽の守護神エミシオン 京城香龍 @nahan7

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