エピローグ
●二〇一九年 一二月一四日(金曜日)
そうして時が流れ、運命の日。裁判の判決が言い渡された。
その結果は――
「先程、判決が言い渡されました。新城碧氏の勝訴です!」
現場レポーターがカメラに向かって、熱を漲らせる。報道陣の周囲には野次馬が集まっており、判決にどよめく。
翡翠の親権はこれまで通り碧にあるべき、というのが裁判官の最終判決だった。碧側が裁判所に提出した、例の音声データが大きな武器となったのは確かだ。だが、何よりも判決に響いたのが、真一の社会的立場だった。違法献金に加え、過去の手術ミスの隠蔽による訴訟。親権を得るに相応しくない、と裁判所に判断されるのも当然である。
「今、新城碧氏が姿を現しました! 新城さん、今のお気持ちをお聞かせください!」
裁判所から出てきた碧は、早速報道陣に囲まれる。マスコミはこの泥沼の裁判に注目していた。記者会見で世間に喧嘩を売った性分化疾患患者と、疑惑だらけの転落した元政治家。この二人が翡翠をめぐって醜く法廷で争う姿は、民衆にとって面白い玩具だ。裁判の結果がどう転んで良い見世物となる。おかげで、事件発生から半年以上が経過しているのに、記者の数がほとんど減っていない。
そのマスコミ陣営に対する名誉毀損の裁判も、順調に進んでいる。中には、「このままでは負ける」と判断したのか、示談を持ちかけてくる出版社や新聞社などもちらほらと出てきた。そういった連中には、偏向報道についての謝罪を大きく報じることを、条件として突きつけてやった。
「まずは、今回の件で私を信じ支えて下さった、学校関係者やご近所の方々、弁護士の眉村先生。そして励ましのお言葉をかけて下さった多くの方々に、心より感謝の言葉を申し上げます。本当に、ありがとうございます」
碧は報道陣に対し、あえて愛想の良い笑顔を浮かべ、丁寧な受け答えをする。
結局、碧は白鷺小学校をクビになった。しかし、校長をはじめとした白鷺小学校に勤める教職員達の尽力のおかげもあって、教員免許の剥奪だけは回避できた。『フルール』から引っ越さずに済み、同じ伊勢市内にある小さな田舎町の小学校へと転任している。翡翠は引き続き白鷺小学校に通っており、元気に学んでいるようだ。
「これからは娘と二人、穏やかに暮らしていきたいと思います。マスコミの皆様や、この報道を聞いて下さっている方々、どうかあたたかく見守って下さいますよう、重ねてお願い申し上げます」
世間に振り回されるなど、碧は願い下げだった。碧と翡翠は、彼らの玩具や道化ではない。ただ静かに日々を送っていきたかった。
「お父さぁん!」
そこへ、陽だまりのような子どもの声が、報道陣に割り込んで来る。マスコミはそろって道を開け、声の主を迎え入れた。
翡翠が車椅子を漕いで近寄って来る。碧の面影を強く残したその顔立ちに浮かんでいるのは、向日葵のような眩い笑顔だ。両手を広げる翡翠を、碧は車椅子から優しく抱き上げてやる。翡翠は細腕を碧の首に絡ませ、薄く膨らんだ胸に顔を埋めてきた。(終)
宝石の銘を持つ親子 白河悠馬 @sirakawayuma
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