第11話 鬼ごっこ③
「よしっ!行くぞ!なるべく散って逃げるぞ!!」
田中君の号令でみんなが一斉に散り散り走り出す。僕らの学校のグラウンドは、けっこう広い。端の方にあるジャングルジムに向けて佐野さんが走っていくのが見えた。僕も少しでも体力温存と有利にするためにいつもの通りによく登っている木に向かった。
いつも通りに木に登って、枝分かれして安定しているところにひとまず腰を落ち着ける。万が一、華子さんにあのハサミとかで木に衝撃を加えられた時を考えてだ。(鬼ごっこで木に登った時によく鬼に揺さぶられる)
腰を落ち着けてから状況を確認した。
佐野さんはジャングルジム、吉川さんは滑り台がついているアスレチック、田中君も反対端にある大きな木へ登っている。野上君は未だ決めかねているようで、走りながらキョロキョロ遊具を見まわして、吉川さんのいるアスレチックの方へ向かった(全長が長く、段差もあるし高さもあるからお互いに邪魔にならない)華子さんが野上君の方へハサミを引きずりながら歩いていく。その様子をハラハラしながら見守った。
野上君は不安から後ろを何度も振り返りながら走っていく。華子さんは走っていないのに早い。対して、野上君は足が遅い。その距離がどんどん詰められていく。近づいてくる華子さんに恐怖が増したのか、野上君の足がもつれて転んでしまった!華子さんを間近に見た野上君は腰を抜かしたのか、立てずにいる。
華子さんが野上くんに追いついて、余裕たっぷりに野上君の前に立つ。
そこからは全てがスローモーションに見えた。華子さんがハサミを頭上に振りかざして野上君を見下ろした。真っ赤な口がにぃぃと弧を描いて歯ぐきをむき出して笑っていた。野上君は金縛りにあったかのように動けずにいる。
「野上くん!!!!!!」
野上君の両目がこぼれんばかりに見開いたのが見えた。自分の絶叫が遠くで聞こえた。みんなの悲鳴も聞こえる。華子さんのハサミが野上君の顔に思いっきり突き刺さって血が周りに飛び散った。ハサミが大きすぎて、野上君の顔が原型をとどめられずに肉塊となって地面に落ちるのが見えた。
華子さんがゲハゲハと気味の悪い声で嬉しそうに笑った。今にも手を叩きそうなほどおかしそうに笑っている。
「うわぁぁぁぁああああ!!!!!!…あ…あ?」
いつの間にか、さっきまで野上君がいた場所は地面に突き刺さったハサミだけになっていた。野上君はそこにはおらず、華子さんも何が起きたのか分からないという顔で呆然と突っ立っていた。
僕も、なにが起きたのか理解できずに呆然とその光景を眺めていた。
「野上、逃げろ!!!!」
田中君の怒鳴り声が聞こえて我に返った。みると、華子さんがいる場所から数メートル離れた場所に呆然とした野上君が突っ立っていたけど、田中君の声に弾かれるように一目散にアスレチックへ走っていく。野上君とは思えないくらいめちゃくちゃ早い。
「野上君、足速いじゃん…」
何が起きたか分からないまま、呆然と呟いた自分の声が聞こえた。みんなを見ると叫んだ顔のまま硬直して、何が起きたのか分からないようだった。一番最初に我に返ったはずの田中君でさえ、整理のつかない顔をしている。
(もしかして、カンナギ君がさっき言ってた身代わりってやつ?!)
野上君が無事にアスレチックに着いたのを確認して、改めて華子さんを見た。華子さんはまだ呆然としているみたいだ。なんだかちょっとだけ気の毒になった。
神薙くんと僕 ちゅらろま @churaroma3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。神薙くんと僕の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます