二人三脚してる気分でした

「続きましてラヂオネーム『売瀬川売清』さんからのお便りです」

「ありがとーう!」

「『桔梗さん、得体さん、こんばんワセリン』」

「ワセリーン!」

「『突然ですが僕には付き合って一年になる彼女がいます。お互いのことはそれなりに知っているつもりですが、最近は逆に理解できないことが増えてきました。これまでが順調にいきすぎていたのもあり、ほんの少し噛み合わないだけでも不安になってしまいます。お二人はきのことたけのこどっち派ですか?』」

「最後の脈絡がなさすぎる!」

「ヤバいですよね」

「途中までガチな相談だと思って身構えちゃったよ」

「ラヂオパーソナリティの洗礼ですね」

「といってもネタで片付けていいものか悩むよね。ただの前振りに見えて意外と本気の相談かもしれないし」

「確かに、そう考えると最後の一文は照れ隠しとも取れます」

「照れてきのこたけのこ論争おっぱじめるのも大したもんだけどね」

「得体さんはどっち派なんですか?」

「わたし? わたしはチョコレートが苦手だからどっちも食べないなあ」

「あー、そういえばそうでしたね」

「強いて言うならチョコ以外の体積が多いほうが好きかな」

「それだったら他のお菓子食べたほうがよくないですか」

「だねえ」

「ちなみに得体さんがチョコ嫌いな理由ってなんでしたっけ」

「わたし小学生の頃飼育委員だったんだけど、チョコって茶色くて丸――


(突然音声途切れる。一分ほどのCM)


「――というわけなんだよ」

「そんな壮大な理由があったなんて……!」

「ひょっとしてわたしの話聞いてなかった?」

「それどころじゃなかったですね。放送コードで縛って二人三脚してる気分でした」

「どゆこと」

「今の得体さんの話で気が付いたんですけど、さっきのお便りもあながち脈絡がないとはいえないかもしれません」

「わたしにとってはその気付きの脈絡のほうがわかんないけども」

「おそらくこのお便りの方はきのこたけのこ論争で彼女さんと対立してしまったんでしょうね。彼女さんがどちらの陣営かは文面だけではわかりかねますが、おそらくは彼女さんの言い分をどうしても理解できずにこうしてお便りをくださったと」

「桔梗ちゃんが名推理をしている」

「これでも高校の時は推理小説を読みふけっていましたからね。青山剛昌とか」

「コナンの作家さんじゃん。漫画じゃん」

「まあどっちも本ですから」

「それを言うならきのこもたけのこもお菓子だよ……」

「いや菌糸類と竹の子でしょう。全然違いますよ」

「そこは脈絡読んで桔梗ちゃん」

「真面目な話、どっちのお菓子が好きかで言い争えるくらいの関係なら何も心配することはないと思います。どうでもいいことで喧嘩できるのは仲が良い証ですよ」

「だね。そんで譲り合いの精神も忘れずにいれば万事解決」

「そういうわけですので、今回は私の顔に免じてお二人できのこを分け合ってください」

「締めに争いの種を蒔かないで」

「きのこだけに?」

「きのこが撒くのは胞子だよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガールズバンドの中身スカスカトークを延々と聞かされるラヂオ 吉野諦一 @teiiti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ