■■という■■

一瞬のうちに光が溢れると男の視線は虹となり星々は踊り子へと姿を変えた男の息はオーボエとコントラバスと狂ったティンパニとなり冒涜的な旋律を掻き鳴らすと共に男の髪からは明滅が血からは銀河が肉からは虚空が生まれ血管は泡だち男はすべてを見た男はこの世のすべてを知りまたすべての知識を失いその知能は限りなく聡明な白痴となった彼が指を振ると宇宙が生まれまた彼が瞬きをすると宇宙が終わった彼はそれを無量の間繰り返し瞬くほどの間に無数の宇宙が生まれ終わったまたそれは彼の観る夢であり彼は飢餓と退屈に喘ぎながら身じろぎをするたびに踊り子と外なる神を生み出しまた彼は自らがかつて何者であったのかを思い出してはまた忘れただ自らが外であることを理解した蛇の貌は幾星霜のかなたに忘却され女の声はもはや届かず彼は限りなく外であり無間に続く渾沌の渦と同化していることを感じた彼はかつて旅した宇宙もまた彼自身の体内に内包する泡沫の夢と等しいことを理解した彼は彼自身の属する宇宙の外の宇宙であり彼は彼の終わりと始まりと再びの終わりを数億回繰り返した彼こそは根源たる魔王であり彼が首を数度振るたびに踊り子と外なる神たちはその終わりと始まりを繰り返し彼の無間の退屈を慰めた視線の虹はおおよそ彼の夢たる宇宙の中で生まれた生命が生み出しうるすべての芸術を内包した狂ったティンパニに踊り子が飛び込みその音からまた彼は宇宙を生み出しそして終わった彼は限りなくフラクタルたる宇宙であり彼の外の宇宙もまた彼であり彼は外であった鍵となった異星の女は二度とその門を閉ざすことなく彼の中心に刺さり続けた彼はその鍵を数度撫でた彼が眼球を数度動かすとそこからは喇叭を吹き鳴らす使者が生まれた使者もまたフラクタルたる彼自身であり使者は蝗の大軍に姿を変えいくつもの宇宙を終わらせたまた彼は時に彼を求める旅人と出会った旅人は鍵と門とを求めたが数度の瞬きの間すら彼は男の下にとどまらなかったあるいは数度の瞬きの間に男自身が彼となり旅人は元々外である男自身であったのだと理解したもはやフラクタルたる彼は宇宙そのものでありまた宇宙の外たる概念そのものであり夢の中を生きる矮小とすら認識できない小さな知性そのものであった彼が彼を知覚することはなく彼思わぬゆえに彼は彼であり彼はどこにもとどめることができずまた彼を定義することは不可能であり彼とはつまり無量の時を生きる宇宙の外の宇宙すなわち無間の渾沌の粒子の海の水滴の一滴にして海そのものであり海の中の一滴を掬いそれを海とは定義できないようにどこまでを解釈しても彼は彼ではなくまた海全てを掬ったとしてもそれは海でないようにすべてを知覚したとしても彼は彼ではなかった彼は彼すなわちすべてでありその果てを知覚することも定義することも不可能であった彼はその全能たる混沌をもって完璧な世界と完璧な彼自身を定義しようと試みたが彼はまた不完全にして永劫の未完成の途上であり彼が彼自身の完璧を定義することはもはや不可能であり彼は数瞬の逡巡の果てにそのすべてを忘れまた宇宙が生まれ終わったまた彼は時に彼自身とも対峙して自らを定義しようと試みた彼は光すなわち日であり火となり彼はまた闇すなわち夜となりお互いを滅ぼそうと試みたが数瞬の後に彼は彼が二人であったことを忘れまた無数に分裂と融合を繰り返しながら飢えと退屈に喘いだ彼を慰めるのは夢すなわち宇宙と踊り子たちと外なる神であり彼は決して満たされることなくなぜならば彼は永劫の未完成ゆえに自らの満足というものを定義することが不可能であった彼はまたかつて彼自身の脳であった玉座に腰を掛け宇宙のすべてを落ち窪んだ瞳で見つめまたまどろんだもはや彼はその中にいかなる意味を見出すこともなく彼は永劫という概念の外であった

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