第14話「形から入っていくことで、形ができる。」

  「ぼくは片づけ心理小説を書いて、芥川賞をとる。」


 言葉は言霊だ。自分が発する言葉が、現実となる。そして、その言葉にどれほど自分が確信しているかが、今日を生きるエネルギーに変わっていく。確信を持つためには、言うことだ。何度も、何度も、最初は機械のように繰り返すだけでも良い。100回、1000回、1万回、1億回。何度でも、言葉にしよう。そうなる、その日まで。


 今日は朝からガソリンスタンドへ向かう。いつもはレギュラーだが、今日はハイオクを入れてみよう。心なしか、それだけでハイな気分になっていく。こうして、日常の質を高める微差を作っていくことは、意外と未来に奇跡を起こす要因になっていくものだ。


 雨が降った次の日は、必ず洗車に出かけている。車も、生き物。常に美しい外観でいさせてあげることは、乗り心地にも影響すると思っている。車は一緒に未来へと進んでいく、大切なパートナー。お互い最高にハイな気分で、目的地へと向かいたい。


 ハイオク満タンご機嫌様で洗車をした後に、近くにあったスマイル0円のマクドナルドに寄ることにした。今も、スマイル0円かは定かではないことはご了承いただきたい。今日はここが、執筆場所だ。


 300円のソーセジエッグマフィンセットを注文し、ホットコーヒーを「ブラックで」と、伝えていく。


 ハンバーガーは、ぼくの歴史には欠かせないアイテムだ。今の活動をする以前のお金がなかった時代に、毎日100円のハンバーガーだけを食べて、お昼をしのいでいた時があった。しかしそこは、ロッテリアではあった。正直に言おう。同じ100円でも、ロッテリアの方が美味しかったから、単純にそうしていた。


 ジャンクフードとして、健康などに気を使っている人は、食べないものかもしれない。ただ、ぼくにとっては命をつないでくれた恩人である。だからこそ、今でもたまにハンバーガーは食べるようにする。自分がどれだけ成長しても、お世話になった記憶だけは忘れずに、常に感謝の気持ちで前に進むためだ。


 何よりも、高知県が故郷の親父は親が代々漁師の家系だったこともあり、食べ物に関してとても厳しく言われていたと話を聞いたことがある。命懸けで魚をとってきていた親だからこそ、食べ物に感謝をして残さずに食べる。その発想は、ぼくにも受け継がれていた。


 全ての食事に感謝を込めて。その食べ物にどんな栄養があって、自分にどう影響があるかどうかは関係ない。


 「俺が、君たちが生きて見れなかった世界を見せてあげるよ。」


 そう思って、自分の一部になってくれた食べ物が、生きている時に体験できなかった喜びを届けてあげることが、命を預けてくれた存在に対して自分に出来る、唯一の礼儀だと捉えている。


 ソーセジエッグマフィンを食べ終えると、ホットコーヒーで一息ついた後に、そのまま背伸びをした。そして天井を眺めながら、心の中で言葉にする。


 「さあ、昨日の続きを書こうか。」


 出版が何も決まっていないのに、出版記念講演会をする。普通に考えれば、暴挙とも呼べるような行為なのかもしれない。ただ、これは逆に論理的な発想でもあった。


 何事も、形から入ることはとても大切だ。武道にも基本の型があるように、夢実現においても「夢の型」を、先に体感しておくことで、未来のイメージが具体的になるからだ。


 心に決めただけで、何もない状態。そこから会場を予約し、妻に伝えて激怒され、その次にやったことは、ブログでの告知である。


 「出版記念講演会をやります。」


 と、早速告知をしていった。


 ただ、普通にイベント案内をしても、これまでの実績から考えても形になるはずがない。何より、ぼくがやりたいことは出版記念講演会を成功させることではなく、「可能な限り出版記念講演会という形をリアルにつくる」ということだった。


 出来るだけリアルな形を疑似体験できれば、より実感として自分が目指すべき結果の全体像が見えてくる。そう、疑似体験をしたいのだ。


 そこで考えたことが、「フリをしてくれる人の募集」だった。疑似体験をしたい。形を作りたいだけ。だから、ぼくのファンじゃなくてもいい。


 「当日の2時間だけ、伊藤勇司のファンのフリをしてくれる人」


 を、ブログで募集していった。


 それも集客という発想ではなく「キャスト募集」というスタイルで。この発想の源泉になっていたのは、東京ディズニーランドである。ディズニーで働く人は、キャストと呼ばれている。その発想を元にして、キャスト(夢の共演者)募集という形で、伊藤勇司のファンのフリをしてくれる人を募っていった。


 それだけではなく、全ての役割を「フリ」で募っていく。著者仲間のフリをしてくれる人募集。実際に著者でなくていいので。著名人として祝電を送ってくれる人。実際に著名人じゃなくてもいいので、そのていで。お花を送ってくれる人、司会をやってくれる人、全ての講演が終わった最後で感動のサプライズとしてお祝いの花束を壇上で渡してくれる人。


 可能な限りリアリティーがある形で感動的な出版記念講演会を作るために、細部までイメージを働かせていきながら、出版記念講演会「風」講演会の脚本を描いていく。


 そうやってキャストを募集していくと、口コミでどんどん広がり、気がつけば2週間で大阪会場に100名近くが集まることになった。その反響を見た東京在住の方が「東京でもやってほしいです!」と、メッセージをくれる。よし、わかった。せっかくなので、東京でもやろうじゃないか。


 そう決めてすぐに、渋谷の200名くらい入るシアターを借りることにする。募集期間は2週間くらいだったが、それも結果的に140名くらいの人が集まった。


 実はこの時に使ったシアターは、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が運営している施設であった。今になって知ったことだが「TSUTAYA」を運営する会社である。


 そして、この渋谷シアターでやったイベントに来てくれた人と、今でも繋がりながら、「あなたの部屋が汚いのは、才能がありすぎるから」にも実写で登場して頂くまでにもなっているのだ。この本は、主婦の友社から出ている。そして、主婦の友社は2017年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の傘下となっていた。


 心に決めて、何気なくやったことが、確かな未来に面白い形で影響している。それは、今もなお続いているのだ。そしてこれからも、世界一面白く夢を実現する第一人者として、あの出来事は後世まで語り継がれていくだろう。


 書籍累計100万部が突破した段階で、リアル予告ホームラン的なこの出版記念講演会風講演会の物語を、また本として世に出そうと思っている。そう、過去にこうして笑えるネタを「具体的なアクションとして」仕込んでおけば、未来にまた新たな価値として届けていけるのだ。この小説も、まさにその一つである。


 事実は、小説より奇なり。


 その言葉を改めて認識しながら、ぼくは朝マックを後にした。

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ぼくは片づけ心理小説を書いて、芥川賞をとる。 片づけ心理・空間心理カウンセラー伊藤勇司 @heya-kokoro

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