第13話「ほとばしる熱量が、現実世界を変える。」

 「ぼくは片づけ心理小説を書いて、芥川賞をとる。」


 昨日は、3,11。忘れられない、忘れたい、忘れたくない日。命について、生きることについて、考えさせられたあの日。そして、この先も何が起こるかは誰にもわからない。昨日は改めて、毎日自分が何を大切にすべきかを確認した。


 今日は焼き菓子が美味しい「nokka」で深煎りブレンドを注文する。スイーツは、お預けだ。口の中に広がる苦味が、思考を研ぎ澄ませてくれる。これから執筆モードのゾーンに入っていくのが手に取るようにわかる。


 ふと昨日は、何のために人間は生きているのだろうと、大いなる問いが自分の中に生まれていった。考えても、答えはない。だから、すぐに考えないことにする。


 人間が生きる意味はわからないが、自分が生きる意味は分かる。ここに人生の醍醐味があるのかもしれない。今やっていることに、どんな意味があるのだろう。それを考えても、わからない。だから、すぐに考えないことにする。


 ただ、自分がやったことには意味があったのだと、後から気づくことは往々にしてある。だから、自分が生きる意味は後付けでいい。そして、「あれはやって意味があったな」と、後から思える出来事は、往々にして今を全身全霊で楽しんでやっていたことだけだ。


 だから今日も、全身全霊で今を楽しもう。


 パソコンを打つ指先に、不思議とワクワクエネルギーが宿る。打ち出される一文字一文字に、伊藤勇司の全身全霊が込められていようだ。


 「ぼくは片づけ心理小説を書いて、芥川賞をとる。」


 この言葉を見るたびに、楽しいエネルギーが湧き上がる。学生時代は地味に過ごしていたが、本当は目立ちたかったのだろう。華々しいく生きていきたかったのだろう。好きなように、自由に生きていきたかったのだろう。だから、今そうしている。


 過去にできなかったことは、今出来るようになっている。人生はいつからでも、変えていくことができる。未来を作るのは他人ではなく、自分のイマジネーションと行動だ。


 ふと、この文章を読んでくれている、あなたのことが気になった。


 今、どんな気持ちで読んでくれているのだろう。スマホで読んでいるのか、パソコンで読んでいるのか、iPadで読んでいるのだろうか。もしかしたら、透視している視える人だろうか。


 10年前にぼくは、出版が何も決まっていない中で、出版記念講演会をやった。


 原稿もない、出版社のコネもない、お客様も少ない、書く内容も決めっていない。全てが、ないないずくしだ。


 ただ一つだけあったものは、心。


 「そろそろ、出版する時期だ。」


 と、心に決まった自分の中の確信だけである。


 最近宇宙兄弟にはまっているが、主人公の弟であるヒビトが宇宙飛行士を目指す過程で、こんな言葉を言っていた。


 「世の中に絶対はないかもしれないけど、自分の中には絶対があるんだ。」


 兄弟にも、周りにも、何を言われようが、彼はその「自分の中にある絶対」を信じて貫いて、見事宇宙飛行士になる。それを見たときに、とても共感した。

 

 生きていく上で、夢を叶える上で、活き活きと過ごす上で大切にすべきことは、自分の中にある絶対である。それさえ見失わなければ、人生を間違うことはない。


 そう言い切れるのも、ぼくは幾度となく自分の中にある絶対を見失い、取捨選択し続けてきたからだ。漫画の中にいるヒビトのように、潔くかっこいい人間でもない。誰よりも不器用で、真っ直ぐ進めずに、あちらこちら、ふらふらと揺さぶられながら、今日まで生きてきた。


 そうやって揺れながらも、今ようやく辿り着いたように感じている。いや、戻ってきたと言った方がしっくりくる。自分の中にある絶対を、信じ切るという境地に。


 「グルルルルぅぅ・・・」


 いい感じで自分に酔ってきたところで、お腹がなる。3月に入り、食べ方を整えていくことにした。毎日の中で空腹状態を作って、飢餓細胞(サーチュイン遺伝子)を、目覚めさせていくためだ。


 何もない中で突如心に決めた、出版。それを思いついたのは、1月9日だった。


 心で決まったことは、必ず実現する。そして、現実は後からついてくる。やりたいことが決まったときにぼくがやることは、今からできることを、今すぐにスタートさせることだ。


 そこで思いついたのが、出版記念講演会である。


 まだ何も決まっていないが、先に出版記念講演会を済ませておこう。先にやってはいけないという法律は何もないからだ。


 そうと決まったら、ぼくはすぐに検索を始めた。「出版記念講演会」と、グーグル先生にキーワードを入れる。そうすると無数に出版記念講演会が出てきた。


 やりたいことで、やったことがないことは、先にイメージを固めていくことが重要である。出版記念講演会とは、どいうものなのか。それをある程度調べたことで、100名規模のホテルの会場を予約することにした。


 いつも使っている、安い公民館のセミナールームではない。それまで、20名以上の人を集めたことは一度もなかったが、出版記念講演会という前提でやる以上は、そこに基準を合わせて形にする。未来を作っていく上で重要なことは、今の自分を基準にせずに、求める未来の基準で取捨選択を行っていくことが大原則だからだ。


 そうやって、一ヶ月後の2月9日に出版記念講演会をするための会場を予約した。実はこの日が誕生日でもある。


 その次にやったことは、妻に伝えることだった。


 「実は、話があるんやけど、なんと出版することが決まったわ!それで出版記念講演会をやるんやけど、来てくれへん?」


 「えっ!すごいやん!!でも、どうやって決まったん?」


 妻は喜び半分、驚きと疑念の表情を見せていた。その妻に対して、悪びれることもなく、ぼくはストレートに伝えていく。」


 「心の中で、決まってん。」


 その言葉を聞いた瞬間、妻は明らかな落胆の表情を見せた。


 「そんなんええねん!喜んで損したわ!!絶対そんな講演会いけへん!!!」


 そう激怒して、その場を後にする。


 普通に考えたら、そうなるのも理解ができる。これは、想定内のリアクションだ。ただ、ぼくにとっては至って真面目な発想だった。そしてこの講演をあえてやっておくことが、未来のレバレッジにもなっていくことは間違いないと感じていた。

 

 誰も見たことがない世界を、ぼくは見てみたい。いや、自分が見たい世界を見たいと言った方が正しい。人が通ってきた道を通るのは楽だが、面白くはない。わかりきっていることをやっても楽しくないのだ。


 どうせ未来に出版することは決まっているんだから、普通にやっても喜びは大きくならない。未来がもっと面白くなるために、今小ネタを仕込んでおくことは重要なのだ。これはある意味、関西人の気質も少なからずあるのかもしれない。


 その当時を思い出しながら、自然とニヤけている自分がいた。そして、あの出版記念イベントをやっていなかったら、こうして過去をネタにニヤける今はなかっただろう。


 世の中が暗くても、自分は明るい。その光の種は、自家発電である。


 心に決めたことを、信じ切る熱量。その一点にフォーカスして、あとは実行あるのみ。とめどなく溢れるエネルギーをそのままに、ぼくは「nokka」を後にした。

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