第7話 地下都市

 古い戦闘機、通称ヤタガラスが東京を飛び去って1時間ほど。操縦をしていた紛居が口を開いた。


「見えました。着陸します。高度を落としたらロードは飛び降りてください」


「ロードなんて年代物の名前で呼ぶな。こいつはスペックスケーラーだ」 


 昔世界中で使われていた人型機動兵器の名を否定して訂正するクレバーズ。彼がスペックスケーラーに並々ならぬ情熱を注いで開発してきたためだろう。


「そういうのはいいだろ、ドクター。コイツのコックピットは2人乗りじゃないから窮屈だし、もう限界だ。さっさと降りて一息つこう」


「でもなあ――!」


「これから俺たちがどうなるかわからないんだから、待遇が良くなる策を考えてくれって」


 夜光がクレバーズを諫める。彼にとっては見ず知らずの土地でこれからどういう扱いをされるのかが一番の気がかりだった。クレバーズはスケーラーの開発者ということで協力的な態度をとれば高待遇で迎えられるのは確実だ。しかし夜光は起点を失って特異体質は対して使えないし、スケーラー開発に携わっていたとはいえ主な仕事はいわゆる”テストパイロット”だ。最悪替えはきく。

 夜光がそんなことを考えていると、眼下にあった市街の一部が大きな隠し通路のごとく動き、その下から大型兵器用と思われるエレベータが現れた。


「こんなところが日本にあるなんて」



***



 リーダーと呼ばれていた男が前を歩く。ヤタガラスを操縦していた紛居は関係各所への連絡やら何やらで忙しいらしく別行動をとっていた。彼らが歩く格納庫はその大きさに比べ格納されているのがヤタガラスが2機とノーフェイス、それに予備パーツがいくらかであった。


「使える機体はこれだけか?俺のノーフェイス以外まともな戦力がないのによく持たせているもんだ」


 クレバーズがなんの気なしにつぶやく。


「こっちはあまり使ってないんだ。外征騎士相手だとデカすぎるだろ?」


 リーダーが聞きなれない単語を使う。外征騎士。夜光には聞き覚えのない単語だ。


「あー、悪いけど外征騎士ってのは?」


「おい夜光。お前は元管制官だろうが。都市外に生存する人間を粛正する装甲騎士の部隊のことだよ。都市に比べて厳しい環境に長くいることになるから生存力の高いか問題があって使い潰したい騎士が選ばれる。騎士鎧も個人に合わせて微調整されている場合がおおい。都市内の騎士よりも強い連中だ」


 スペックスケーラーのほかにも様々な装備の調整・開発をしていたクレバーズには都市の戦力について知る機会が夜光よりあった。だから知っていたのだろうが、彼には自分が知っていることは他も知っていて当然と思う節がある。特に夜光に対してはその傾向が強い。


「俺は都市犯罪関連の部署だったから外のことは知らなかったんだよ」


「外征騎士相手にはオレや紛居のような戦闘向きの特異体質を持ってるのが相手をしてる。フル装備の騎士とはいえ、影響力の大きい体質なら数を相手できるから」


「なるほど。力のある戦闘員を一帯に配置して敵に拠点を悟られないように迎撃してるってぇわけな」


 この地下拠点一帯を守る戦力がどの程度かは夜光たちにはわからないが、都市に比べて戦力が劣っているであろう彼らができる最善策だろう。だが都市が本腰を入れて数を武器にした作戦や管制官を投入した戦いを展開されたら詰みだ。それをしないのは、都市が建設される以前に人類がこの星の資源を消費しすぎていて、さらに環境破壊も無視できないレベルだったことに起因する。

 都市側もそれほど潤沢に資源を保有しているわけではない。事実、都市は下層に行くほど生活レベルが低くなるし、治安も悪くなる。


「さて、ではこちらへ」


 リーダーがエレベーターに乗り込み、後に続くよう2人に促す。


「で、俺たちとノーフェイスをどうする気なんだ?あんたらは」


 クレバーズが、本題に入ろうといわんばかりに切り出す。彼はスペックスケーラーの開発情報をなぜ外の人間が知っていたのか、それに加え開発者ごと奪取した理由が気になっていた。


「端的に言えばスペックスケーラーの小型化が目的。人間が装備できるサイズまでの小型化」


「なら都市で開発したところで変わらなくない?」


 夜光がリーダーの目的に疑問を呈する。都市外ではまともな技術開発環境は用意するのは難しいはずだ。ならば都市で開発されるのを待ったほうが賢明ではないか。今回のように大立ち回りをする必要もなかったかもしれない。


「都市で技術が開発されてしまっては巡り巡って外征騎士の戦力増強にもつながる。都市は特異体質の起点を失った元管制官を外征部隊に組み込んで試すだろうからな。もしそうなれば少なくとも日本の都市外に住む人々の生活はさらに厳しいものになる」


「なんというか、ここでの生活は厳しそうだ」


 夜光はこれからの生活を想像して肩を落とす。そんなことをしているうちにエレベーターが目的の階層についたことを告げる音を鳴らした。


「さ、ついたようだ」


「おいおい、これは」


 エレベーターを降りて目にした光景は高さだけでもスペックスケーラー10機分はくだらない巨大な地下空間に乱立した建物。それらは決して粗末なものではなく都市の中層区画にある住居やビルとそん色ない。それに電気も通っているようで建物から明かりが漏れているのが確認できた。そこの住人達も少なくない数が確認できて、彼らがまとう雰囲気も決して暗いものではなかった。


「少なくとも、都市下層よりは良い暮らしが期待できそうだな」


 地下都市の活気を見たクレバーズが胸を撫でおろすような声色でつぶやいた。

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再起するスペック・スケーラー 九崎 要 @sale-sale

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