闘いのヒロシマ

鶴崎 和明(つるさき かずあき)

闘いのヒロシマ

黒い雨の降り注いだ大地は

 緑の奔流に浚われ

阿鼻叫喚の渦巻いた川は

 排ガスを高らかに吸い上げ

肉を奪われた石のドームは

 世界に確たる宣言を打ち立て


この地は今

 生きている


半世紀以上前に起きた惨劇は

 歴史の年表の中に埋もれ

半世紀以上前に見えた欲望は

 文と絵画の中に嵌められ

半世紀以上前にあった現状は

 人々の心に包まれ

大切に

 大切に

  大切に

保管されている

 陰干しされることもなく

 人目に曝されることもなく

 高らかに礼賛されることもなく

 賤しくも非難を受けることもなく

大切に

 大切に

  大切に

保存されている


石碑の中に刻まれた名は

 静かにこの自然を見詰め

  どのように思うのだろうか


無数に散らばった名も亡き骨は

 静かにこの惨状を見詰め

  どのように思うのだろうか


夜空に昇った幽かな命は

 静かにこの非情を見詰め

  どのように思うのだろうか


投げかけられた問いは重い

 投げかけた問いは想い


ただ

 分かりきっていることは


この世に地獄が存在したということ

この世で幾万もの命が絶たれたということ

この世で正義が紊乱されたということ

この世で悲しみに暮れた人がいたということ

この世の現実は変えられないということ


この世の歴史は失われないということ


ただ

 分かりきっていることは


それでも

 人は未来を信じるしかないということ

 未来が変えられると信じるしかないということ


悲しい運命ではなく

辛い運命ではなく

寂しい運命ではなく

怒るべき運命ではなく


淡々と

 情熱的に

前を向いてゆくしかないということ


この町が

 息を吹き返したように

従容と闘う

 それだけが道だと信じて


また一つ

 悲しい現実が生まれた


また

 前を向いて進む


ただ在る未来のために

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闘いのヒロシマ 鶴崎 和明(つるさき かずあき) @Kazuaki_Tsuru

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