一粒の涙

雨世界

1 ……あなたのことが大好き。

 一粒の涙


 登場人物


 桜島小学校


 間宮桜子 小学校六年生 女子


 瀬田美奈子 小学校六年生 女子


 水野朔 小学校六年生 男子


 山野みちる 先生


 プロローグ


 ……さようなら。ばいばい。


 本編


 桜島小学校の物語


 ……あなたのことが大好き。


 三月  


 間宮桜子が水野朔に出会ったのは、本当に偶然だった。

 桜子は朔と小学校の曲がり角でぶつかった。

 まるで漫画見たいだったけど、本当に、それが二人の初めての出会いだった。


「あ、ごめんなさい」と廊下に転んだ桜子はすぐにぶつかった相手にあやまった。

 でも、ぶつかった相手である朔くんは、なにも言わずに、桜子のことをじっと睨みつけてから、一人で立ち上がって、軽く服の汚れを手で叩いて落としたあとで、一人でまた廊下を走ってそのままどこかに行ってしまった。


 桜子はじっと、そんな走り去っていく朔くんの後ろ姿を見つめていた。


 桜子は、……すごく悲しかった。

 桜子はもう直ぐ、家庭の事情で、転校することが決まっていた。


 このときは、まだ朔くんの名前が水野朔だとは、桜子は知らなかったのだけど、もう直ぐ転校してしまう、自分の大切な思い出がいっぱい詰まっている桜島小学校に通っている、同じ桜島小学校の生徒の男の子に、ぶつかった自分も悪いのだけど、こうして無視されてしまうと、桜子はなんだかひどく悲しい気持ちになった。


 ……いけない、いけない。

 もっと、気持ちを強く持たないと、だめだよ。桜子。


 そう自分に言い聞かせて、桜子は泣き出すことなく、きちんと一人で廊下に立ち上がることができた。

 ……ずっと、泣いてばかりいた、泣き虫の自分にしては、泣きだなかっただけでも、上出来だと思った。実際に、それが、すごく嬉しかった。


 桜子は笑顔になると、走り去っていった男の子とは反対側の階段のある方向に向かって、また元気よく歩き始めた。


 桜子が自分にぶつかった男の子が水野朔という名前の男の子であると知るのは、六年生になって、朔くんと同じ六年一組の教室になった、四月の初めのことだった。

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