第23話 親友の妹が僕のことを狙ってるんだが
「実は
『ラヴ・パーミッション』のことは知らないって言ってたのに、
「城崎さんは、兄のこと好きなんですか?」
え?
いまなんて?
「以前から兄は口を開けばあなたのことばかり話してたんです。だから、兄は城崎さんのことが好きなんだって思ってました」
悠太が僕の話ばかりだって?
僕のことが好きだって?
なにそれ、凄い嬉しい!
「でも、ここ最近はまるで別人みたいになってて……なんか変っていうか違和感というか……」
そう言って俯く恵流ちゃん。
ヒロイン候補の恵流ちゃんも悠太のことが好きなのかも知れない。
みんなに好かれてる悠太早く取り戻さないと。
でも、それもゲーム版の主人公を見つけ出すまでのガマンだ。
この世界がリセットされれば、次こそ悠太を取り返して彼に『好き』って伝えるんだ。
そう思ってたんだけど……。
恵流ちゃんがゆっくりと立ち上がって、さっきまで舞華ちゃんが座ってた僕の隣の椅子に腰掛けた。
そして僕の手の上に自分の指をそっと重ねる。
「あんな不実な兄なんかやめて、私に乗り換えませんか?
え?
驚いて彼女の顔を見ると、色素の薄い瞳がキラキラ光って揺れ動く。
ああ、コレはアレだ。
前回か前々回かもう忘れちゃったけど、僕に近づいてきた長谷川さんと同じ目。
しかも今度は勘違いじゃない。
彼女の方から『乗り換えないか』と言ってるわけで。
つまり、付き合って欲しいってこと?
でも、今の僕は女の子だよ。
うろたえてると、恵流ちゃんは僕の手を握って、両手のひらで包み込んだ。
儚いイメージだった彼女の目に妖艶な色が滲み出す。
素のままで鮮やかなピンク色の唇がゆっくり開く。
「キスしてください」
吐息と共にそう言った。
「ちょっ! 待って! そんな、急に……」
状況がまったく飲み込めない。
僕が躊躇してると、恵流ちゃんはもう唇が触れるくらいまで顔を近づけて囁く。
「あと30秒で
え? え? 10秒って?
ワタワタしてるうちに、階段を登ってくる足音が聞こえてきた。
今、恵流ちゃんはそれが『設定』だと言った。
つまり彼女は『ラヴ・パーミッション』のことを知ってるんだ。
ドアの前で足音が止まる。
もう迷ってる暇はない。
僕は少しだけ体を傾けた。彼女の方へ。
それだけで触れ合う唇。
三度目のキスの相手は、親友の妹だった。
ドアが開く音に続いて、息を飲む声が聞こえる。
振り返ると目を見開いた倉科
「あ、あたし……えっと、ごめんなさい。帰ります……」
彼女はそう言って、自分のコートを掴んで、慌てて部屋を飛び出して行った。
舞華ちゃんに変なとこ見られちゃった。
どう思ったんだろう?
「成功しましたね」
「なんであんなこと……」
したの? ……って聞こうと思ったけど、したのは僕の方だった。
「さっきも言ったじゃないですか。ああしないと、真澄さんはこれから舞華先輩につきまとわれるようになるんです。そのフラグを折るためなんですが、余計なことでしたか?」
意外そうな顔で恵流ちゃんが言う。
「そうじゃないけど……って、そう言えば恵流ちゃんって僕のこと好きな
の?」
つい気になって聞いちゃったけど、彼女は微笑んだまま答えない。
いや、違う。
それも重要なんだけど、今一番聞きたいことは……。
「さっき、『設定』って言ったよね。同じようなことを悠太にも聞いたことがあるよ。恵流ちゃんは何か知ってるの? 知ってたら教えて欲しいんだ」
「わかりました。さっきは変に煽ってごめんなさい。込み入った話をするために単なるヒロインの舞華先輩には帰ってもらったんです。……ところで、真澄さん――あぁ、もう『お姉様』なんて呼ばなくてもいいですよね――あなたが知りたいのは、『ラヴ・パーミッション』の主人公が誰か……ということで間違いないですよね?」
そう言って、ぞっとするほどの美貌で彼女が笑う。
僕は『何か知ってたら教えて』と言っただけ。
それなのに、恵流ちゃんは僕が一番知りたいことをズバリ言い当てた。
「もしかして、恵流ちゃんが『ラヴ・パーミッション』の今の主人公なの?」
もしそうだったら話の辻褄が合う。
舞華ちゃんの行動を正確に読んで対応したし、僕とキス……までする必要があったのかどうかわからないけど、『ラヴ・パーミッション』について詳しく知ってるみたいだ。
単なるヒロインならここまで事情を知らないだろう。
でも恵流ちゃんは首を横に振る。
「いいえ。私は主人公じゃありません。『ラヴ・パーミッション』の主人公は、真純さん……あなたなんです」
恵流ちゃんが微笑んでそう宣言する。
ものすごい
義理でも兄妹だからなのか、恵流ちゃんのセリフがあの夜の悠太と重なる。
「なんだって!」
思わず立ち上がって叫んでた。
テーブルの上で紅茶のカップが音を立てて揺れる。
「だって僕は、その……ヒロイン……の一人なんだよ。なのに主人公だなんて……」
言葉が尻つぼみになっていく。
仕方ないよ。
自分のことを『ヒロイン』だなんて、言葉に出すのも恥ずかしい。
「でもさ。なんで、そんなこと恵流ちゃんが知ってるの?」
驚く僕を見つめて、彼女はミステリアスに微笑む。
「これ、見てください」
そう言って彼女は本棚から文庫本を一冊取り出して僕に差し出した。
表紙には純白のウエディングドレスの美女が描かれている。
そしてイラストに被せるように、ポップな文字の見慣れたタイトルが表紙に躍る。
『ラヴ・パーミッション 4』
第四巻だ。
悠太から借りてたから、家にもあると思うんだけど……そう言えば、フックカバーが掛かってたから四巻の表紙は初めて見た。
でも、これが一体どうしたって言うの?
そう思って恵流ちゃんの顔を覗き込むと、彼女は黙って表紙を指さした。
タイトルの横、ちょっと控えめな文字で書かれているのは著者の名前。
でも、それを読んだ僕は息を呑む。
『
ちょっと待って!
恵流ちゃんが『ラヴ・パーミッション』の作者だったの?
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バレンタインデーが近いとのことで
ラヴ・パーミッション ~ここがギャルゲーの世界だと気づいたけど親友枠の僕は隠しヒロインだった!~ 孤児郎 @kojie
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