第3話 ボクは彼女と対等な関係になる

 彼女にならって指輪を左手の薬指にはめる。大きすぎると思えた指輪ははめた瞬間に自動的にサイズ調整され、ぼくの指にぴったりになった。

「エンゲージ確認」

 とお嬢様。瞳の奥に一瞬、青い光がともったように見えた。

「どう接したら良いでしょう。あなたはお母様と同じく私の『あるじ』ですか、それとも他のまわりの者と同じく『使用人』でしょうか?」

 お嬢様がぼくに尋ねる。質問のとき僅かに小首をかしげる癖はいつもながら愛らしい。誰が設定したのか知らないが好感度を上げる動きモーションだ。揺らぎのある自然なタイミングが素晴らしい。どんなプログラムで実現されているのかいつか確かめてみたいものだ、と僕は思う。ああ、そうそう、お嬢様に主か使用人か答えなければ。

「どうでしょうね。ぼくはあなたの相続人です。あなたをどうするか決める権利がある。そういう意味ではあなたの『主』と言えましょう。しかし、ぼくはしがないデンキ屋で、あなたを一生世話する義務を持つ者なのです。そう考えると、ぼくはあなたの『使用人』の一人でしょう。どう接するかお嬢様がお決めになってください」

 すこし込み入った言い方をしてしまったがお嬢様がそれを理解できるとぼくは信じていた。彼女は並の人間よりもずっと理解力が高い。創造主の知識を受け継いでいるし、人間より遥かに高速に動作する論理回路を持っているのだから。

「人間であるあなたはお気を悪くされるかもしれませんが、『対等の関係』と認識しました。よろしいですか?」

 なんともお嬢様はお優しい。独断などならさないのだ。

「対等。いいですね。ぼくのことはケリーと読んでください。気を悪くなどはいたしません。私もデンキ屋の端くれです。人間とお嬢様のような自動人形との違いは心得ております。そして、それぞれはまったくの別もので、優劣などつけられないことも」

「では、『友人』として接させていただきますわ。それとも『伴侶』のほうがよろしいでしょうか?」

 お嬢様は左手を上げ指輪を見せながら笑顔で言った。ぼくをからかっているのだろうか。

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