リリーとケリーは異世界探偵

プラウダ・クレムニク

第1話 ボクは彼女を相続する

 春を待たずして奥様は逝ってしまわれた。

 彼女の葬儀は盛大だった。奥様を悼む者はあまりに多く、西教会に入りきれずに外に溢れた。市長や州知事の弔電が読み上げられ、名前こそ明かされなかったが政府の要人も参列していたという。サングラス姿の屈強な護衛者のほか、教会の塀の外には身の丈10フィートの警備ロボットが待機していた。

 教会での葬式に続き、森林墓苑で行われたお別れの会では、さらに弔問客の姿は多くなり、この町の住民の人数より遥かに多くの人影があった。

 埋葬の直前に公証人が奥様の遺言を読み上げる。わざわざこんな場でとぼくは思ったが、お屋敷の習わしであり、遺産をめぐる争いを避けるためだという。

「ニューアーカムのリディア・マクファーレン女史の財産はすべて、同じ町の機械商、ケリー・ハットン氏に贈与されます」

 遺言の内容にざわめきが起こり、どよめきに変わり、音の波は静かにひいていく。その最期に幾つかの雑言がぼくの耳に届いた。

「奥様の若いつばめトーイボーイめ、すべてをかっさらっていったな!」と男の声。そして、「あのかわいい男の子、実はとっても精力的って感じじゃない…」と今度は中年とおぼしき女性の声。

 ぼく、ケリー・ハットンは咳払いをすると、手をあげ、公証人に小さな訂正を求めるべく小声で発言した。公証人は片眼鏡モノクルを上げてボクをまじまじと見た。その後で彼は訂正に応じてくれたが、その声は弔いの鐘の音にかき消されてしまった。

 そんなことがあったのが先週のことである。


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