第2話 ボクは彼女とエンゲージする

 ぼくはいま、マクファーレンのお屋敷の客室にいた。黒いベルベットの小箱がテーブルの上に置かれている。開けてみると銀色のリングが入っていた。テーブルの遥か彼方。すでにお嬢様の左手の薬指には同じ指輪が冷たい光を放っている。

 どうやらこの指輪が契約の証となるらしい。ぼくはお屋敷の財産のすべてを受け継ぐ。そして、それとひきかえに、機械仕掛けのお嬢様の一生の面倒をみる義務を負う。

 もし、お嬢様を放置したら、ぼくはすぐさま受け継いだ財産をすべて失うばかりかマクファーレン家から違約金を請求され、すべてを失う、と遺言には書かれていた。

 富豪であるリディア・マクファーレンは、ひとり娘を失った心の傷を癒やすため、娘とそっくりに作らせた機械人形をかわいがっていた。そして、自分がいなくなってからも機械人形を永年にわたって世話できる技術者を必要としていたのである。それが彼女がさして親しくもないデンキ屋に遺産を相続させた理由である。奥様はぼくのことをほとんど何もご存知なかった。

 さて、彼女の娘であるお嬢様はどうであろうか。

「お嬢様、わかりますか。相続人のケリーです」

「エンゲージをお願いします」

 お嬢様は鈴の鳴るような声でぼくに言った。

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