晴れの日は外に出たくなる 晴
今日、7月13日。神明島伝統の祭りがある。そして私たちの関係が壊れてしまうかもしれない。大げさかもしれないが、表面上は仲良くても、心の中ではなにかひかっかる。私には耐えられないだろう。
でもこれを決めたのは私だ。三井野ハルだ。
***
その朝はいつもと違った。
「なんかいつものにおいじゃない?」
俺は体を起こす。体が軽い。カーテンから光がさしているのに気付いた。
ビーっとカーテンをめくると、まぶしさに目がくらんだ。快晴ではないが、久しぶりの太陽が窓の外にあった。カレンダーを見ずとも今日は何日か頭に浮かぶ。今日人生初めての告白をする。複雑すぎる関係を打開するには前に進むしかない。軽くその場でジャンプ。
よし!勢いよく扉を開けた。
集合時間は午後1時。いまはちょうど10時過ぎくらいだ。島はもうお祭りムードであっちこっちで声や音が聞こえる。とくに予定までやることのない俺は落ち着かないからか家の掃除をしていた。掃除、洗濯まで終えるともう11時を指していた。
おなかがすいてきたのでお昼を作ろうと冷蔵庫を開ける。
そこから玉ねぎにバター、チャーシュー、ラップに包まれたご飯。それに卵とねぎを出す。お昼はチャーハンに決定した。
まずは具材をきっていく。玉ねぎはみじん切り。チャーシューは一口大に。ねぎは小口切りに。
次にフライパンにバターをのせ、火にかける。香ばしいにおいが漂ってきたら玉ねぎを入れる。軽く炒めて茶色になったらチャーシュー、そしてご飯を入れる。うん!いい感じだ。ここで鶏がらスープの素、塩コショウをふり、溶き卵をかける。そしてぇ炒める!!
まるで炎の料理人のように炒め上げる。ここでねぎを加え最後に醤油をひとかけ!
焦げ醤油のいい匂いに、チャーシューの甘いにおいが漂う。本当はここにニンニクを入れるのだが、今日は午後から予定があるので自粛する。
テーブルに持っていき、お茶を出し準備完了だ。手を合わせていただきますをする。
スプーンですくい口に持っていく。うん。完璧だ。これ以外に言葉などいらない、と思う。
お昼を食べ終わり少しするとそろそろ集合時間に近づいてきた。俺は普段はめったに着ない外出用の服に身を包む。鏡をもう一度見て髪の毛を整える。
はあ、今から緊張してどうするんだ。そう心の中で思ったが、余計に不安になってきた。
***
お母さんは朝から祭りの準備でいなかったから、一人でお昼ご飯を食べた。朝は雲がかかっていたけど太陽が見えていたが、今は雲に覆われてしまっている。今日は梅雨明けではあったが晴れることはなさそうだ。少し残念。すると食べ終わって食器を洗っていたらインターホンの音が家に鳴った。はいはい、っと答えながら玄関に行くとナツキがいた。
「あれ集合時間って1時じゃないっけ?」
「そうだけどー、ほら!女子チームの作戦タイムってやつだよ。」
なるほど。家が服屋のナツキならコーディネートもばっちりだろう。心強い。
「ほらほらー。そんな恰好じゃ、アキ君振り向いてくれないよ。」
私の背中を押しながら家に入る。ナツキの服はなんていうか大人っぽい印象だが近づくと遊び心のある格好だ。決して派手ではないがかわいい。髪の毛も少し巻いている。やっぱりすごいな。私は振り返り頭を下げる。
「お願いします。ナツキ先生。」
約一時間くらいたって、午後一時少し過ぎ、集合場所の公園に着いた。
***
少し早すぎたみたいだ。腕時計はまだ12時45分前だ。集合場所の公園には子供たちが集まっていたり、カップルや祭りのハッピを着たおじさんなどいろいろな人がいた。
「おーいアキ!」
この声はトウマだ。振り返ると手を振ってこっちに走ってきているトウマがいた。服装はあまりいつもと変わらない軽い感じだ。でもペンダントのような首飾りをつけている。それだけでもかっこいい。
「早いね、アキ。緊張でもしてるのかい?」
「まあな。そういうお前こそ、いつも遊ぶときは遅刻ギリギリなのにやけに早いな。」
「あははは。そりゃ間違いなく、楽しみだからさ。おっと別にいつも遊ぶ時が楽しみじゃないわけではないけど。久しぶりなんだ。みんなで祭り行くの。」
ほう。てっきりトウマはいつもみんなと祭りに行っているもんだと思っていたが。ならば楽しみにもなるだろう。そこからはどうでもいい世間話に花を咲かせて、女子チームの到着を待った。
「遅いね...。もう十分は過ぎてるんだけど。」
「まあ女子にはいろいろあるんじゃないか。」
トウマは時計をしきりに確認している。さすがに俺も心配になってきた。が、二人組の女子が見えた。
「ごめんごめん。まった?」
ナツキが手を振りながら小走りで来た。後ろには三井野もいた。
「ぜんぜん、いまきたところだよ。っていうかナツキそれ似合っているね。ハルのは、それナツキが言ったやつでしょ。」
トウマはにっこりしながら言う。ほんとにこいつには勝てる気がしない。紳士というわけではないが気が利くのは確かである。
二人の格好はタイプは違うが、似ていた。まあナツキが考えたのなら似ているのだろう。とりあえず三井野がとてもかわいかった。髪の毛もいつもより自由にしているのだろう。とても似合っている。はぁ。かわいすぎる。あまりじろじろ見ないようにしよう。早くも顔が赤くなってきた気がした。
***
待たせてしまっていたと思う。トウマはいまきたと言ってたけど多分嘘だ。あとで謝っておかないと。それにしてもトウマはともかくとして、アキ君の私服...。かっこいいな。私のは、あんまりみてくれてない。やっぱ興味ないのかな。ってネガティブに考えちゃダメ!そう、恥ずかしくて見れないんだよ!多分...。
まずはおみこしの通る沿道へと向かった。いつ告白しようかとナツキと決めた時、夜の花火の時がいいんじゃないか、っとなったため、そこまでお預けだ。
通りに出ると、早くも人がたくさんいた。普段見ない顔もたくさんいて、
今年も来島者が多くなっているのが分かった。
「みて!あれはハルのおじいさんじゃないか!」
トウマの言うままにそちらを見ると、赤いハッピを身にまとい、頭には
【ようこそ神明島へ】とかいてあるハチマキをつけているおじいちゃんがいた。
しかも大きな声で島の魅力を語っている。もう、恥ずかしいなぁ。ちらっとアキ君を見ると少し頬が緩んでいた。よかったのかわからないけど。
「「わっしょいわっしょい」」 「「それっそれっ!」」
おみこしを担ぐ勇ましい男たちの活気あふれる声が島中にとどろく。
担いでいるのは若い男から、60過ぎのおじさんまでたくさんだ。島中の元気自慢が集まっている。筋肉を見てくれと言わんばかりの上裸の若い男が観客のほうに目を向ければ、キャーっという歓声が上がる。
「みてみて!あの腹筋!!さわってみたぁい!」
ナツキまで...。まあナツキが筋肉フェチなのは知ってたけど。と思っていると隣の男子チームも。
「いいねぇ!あの背筋!一回くらい挟まれたいとおもわない?アキ。」
「いや別にそんな趣味は持ち合わせていない。」
「つれないねぇ。お祭り気分に酔わないのかい。」
「俺はまだ未成年だ。」
「ははは。くだらないこと言うねほんとに、アキは。」
ホントにくだらない話をするなあ、男の子って。ってかトウマも筋肉フェチとか。お似合いカップルだなあ。汗と血と涙と筋肉のおみこしを見終わり時間は午後3時を回っていた。
***
「そろそろ屋台にいかない?僕おなかが空いてきちゃったみたい。」
そういえばもう日が暮れてきている。俺たちはおみこしを見た後お祭りセールの商店街を右往左往していた。主に荷物持ちだけど。女子というものはよくわからない。そんなのにお金をかけるのかというものばかりだったが、まあお祭りだからいいのだろう。
「そうね。そろそろおなかすいてくる。」
満場一致で屋台の連なる通りへ行った。そこはこの島でいちばん盛り上がる時らしく、食えや飲めやの大騒ぎだった。赤い提灯で焼きそばや空揚げなどたくさんある。活気と熱が密集している。
「あ、みてみて!これやってみようよ。」
トウマが指をさしている。段々の上に景品がたくさん置いてある、射的だ。
「僕はこう見えても昔はスナイパーと呼ばれていてね。」
トウマは財布からもう500円玉を握っている。
「いつの話だよ。」
「前世さ。」
くだらん。っといつものような話をして仕方なしに財布からお金を出す。
「ナツキ。どれでも好きなものを言ってくれたまえ。」
一世代前のような探偵の真似をしながらトウマはナツキに聞いた。
「おい三井野。欲しいもんあるか?取れるかはわからんけど。」
一瞬三井野が硬直していた。が、すぐに下を向きつつ、あれ。っと指をさす。
おお。なかなか大物のクマのぬいぐるみ。玉は5発。とりあえず頑張ろう。
I can do it.
***
ビックリした。急に聞かれるものだから。でもかっこよかった。あ、すぐに返事しないと。て、適当にあれ。っと指をさしたのがあんな大物なんて思ってなかった。
でもなんかとってくれそうな気がしちゃう。
***
「ごめんな。まさか隣のやつになるなんて。」
最後一発。打つ直前に隣で喜ぶトウマの腕が当たった。先端がずれた先にあったのは四角いキャラメルの箱だった。でも三井野はまるで最初からそれが欲しかったかのように喜んでいた。まあ隣のトウマたちは欲しいのをナツキが落としたようだが。
「いやーまさかナツキが射的の才能もあるなんて思わなかったよ。」
「べ、べつに才能ってほどすごいことじゃないよ。こんなの全く使う機会ないし。」
使う機会があるほうが怖いな。
その後はぶらぶらと買ったり遊んだりした。そして時間は刻一刻と迫ってくる。
花火の時間だ。そこからは二チームに分かれる。三井野の手を引いて走り出すのは俺の仕事である。そして花火をバックに愛の告白。これはあるあるだが花火の音がでかくて聞こえない。などありえない。検証済みだ、トウマと。手汗やら冷や汗やらが出てくる。暑いのに寒い。緊張が絶賛非好評発売中だ。
***
そろそろ告白の時間が近づいてくる。アキ君はナツキに好意を寄せているのかもしれない。それなのに私が告白していいものなのか。もう一度考える。
でもやっぱりそれを逃げる理由にしてはいけない。正面から伝えるのが大切なんだ。
いま目の前にある大きな背中。私より高い彼の背中は受け止めてくれるはず。やっぱりまだ怖いけど。あーあ笑っていられるかな。今のうちに笑おうとしたけどできなかった。
「あと十分で花火が打ちあがります。ここから先は交通整理にご協力ください。」
アナウンスが入った。ナツキと私の目が合う。
これが合図だ。っと思ったとき、私の手が引っ張られていく。
「え?」
まぬけな声が出る。よく見るとアキ君だった。
***
もうやるしかない。心に誓って走り出す。一心不乱に。彼女の手を引いて走り出す。
どこに着くかなんて、わからない。足を動かしているのかわからない。ただ張っていたテープがきられたように走る。そして町を一望できる高台。学校の近くに来た。
彼女はびっくりしながらも黙ってついてきた。
「ご、ごめん。いきなり、引っ張ってきちゃって。ここなら一番いい花火が見れるかなって。」
足に手をついて息を整える。
「ううん。びっくりしちゃったけど、大丈夫だよ。ってか私たち初めてじゃない?面と向かって話してるの。」
彼女は笑いながら俺のほうを見る。
時計を見る、あと一分を切っていた。のどがカラカラだ。かすれてしまったらどうしよう。
10、9、8...。どこからかカウントダウンが始める。彼女は俺を見つめて何か言いたそうだ。言わなきゃ。言うんだ。言え!
「俺!三井野が好きだ!」
「私!アキ君のこと好きです!」
ドォォン!!
花火とお互いの声がぶつかる。
え、いま三井野が俺のことって。
***
え、いまアキ君が私のことって。
「アキ君はナツキのこと好きなんじゃ?」
「三井野はトウマのことが好きなんじゃ?」
え!えー!!そんなあんなに悩んでたのに思い違いだったの!
ってか私がトウマのこと好きって。二人ともぜんぜん違うこと思ってたなんて。
「つ、つまりってあっはははは!」
アキ君がおなかを抱えて笑った。私も笑った。すごいすれ違いだ。あーあこんなことならもっと早く言えばよかった。
「これからよろしくお願いします。アキ!」
「ああ。よろしくねハル!」
そして私たちは花火をバックに...。
「すいませーん。インテビューいいですか。お二人さん。おめでとうございます。」
え!?だ、誰!?すごいカメラと照明の数。もしかしてこれって、おじいちゃんの言っていたテレビのやつ!何でここに。ってかいつからいたの!
もしかしてあのカウントダウンって。これ撮られていたの!?
急いでアキのほうを見る。手で顔を隠している。
不倫現場を押さえられた俳優か、おのれ。うわー恥ずかしい。学校のネタにされていつかゆすられていくのか...。
「大丈夫ですお二人さん。インタビューのところしか使いませんから。」
そういう問題なのかこれ。まあひとまず安心?まあいいや。今私は幸せの中にいるのだから。すれ違い続けた恋におさらばを!
***
数日後のある晴れた日。
「ハル。そろそろ準備しろ。いい席とられるぞ。」
「日焼け止め塗んないと焼けちゃうでしょ。ほんとに晴れの日は厄介ね。」
俺たちは近くの公園でピクニックをする。夏のバカ暑い日に何でと聞かれたら、
二人でこう答えるだろう。
「晴れた日は外に出たくなるから」って。
終
晴れの日は外に出たくなる 越野 来郎 @kukitaman
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