晴れの日は外に出たくなる 曇

そう思うと私は途端に気が沈んでいく。何一つ勝てるものもないし、第一に親友のことをライバルとして見ることができない。ため息をついて席に座る。


「どうしたのその顔。なんて言うか、死んでるよ?」

もっとオブラートに包んでよ。

「別にー。ただナツキがかわいすぎるなぁって。」

ナツキは、なにそれーといって私の席の前に座る。絶対なんかあったでしょという鋭いまなざしが私の心を見透かされているような気がした。


「んーっと、アキ君のことでしょ。」

ふいに彼女はそういった。図星。やっぱり私は隠し事ができない。でもこれだけは言えない気がする。だまって下を向く。


「そっか、言えないか。初めてだね。ハルが私に相談しないの。全然いいと思うよ。ってか私に何でも相談するのはダメなことなんだから、進歩だよ!」

やっぱりナツキには勝てない。私はありがとうっと言って笑って見せる。そこからは普段通り他愛もない話をする。でもその間も頭の隅に引っかかるものがあった。


***

そっか、菅野が言っていた、いいところを見せろってもたもたしてると、トウマにとられるぞってことだったのか。俺は大きくため息をつく。


「知っているかい。ため息をつくと幸せが3つにげていくらしいよ。」

前からトウマが俺の顔を覗き見るように話しかける。

「なら今この空間は幸せでいっぱいだな。俺はそれだけで幸せだよ。」

「ひねくれてるねェ。でも幸せの中にいるならため息は出ないと思うけどね。」

いつも通りの会話だ。俺は笑いながらポンっとこいつの頭を押す。一瞬不思議そうな顔をした後ちょっと笑って言った。

「何かあったね。ハルのことで。」

やっぱりこいつには勝てない。


***

家に帰るとおじいちゃんが家にいた。

「おう、待っていたぞハルちゃん。」

「こんにちは島長様!」

私は冗談っぽく敬礼して見せる。

「うむ、よろしい。っていうのは置いといて。今年の神明祭の日にちが決まったぞい。今年は7月13日の土曜日じゃ。わしはいつでも空いてるからいつでも連絡待っているぞ。」

と言いながらスマホを手に振っている。

「あ、そうなんだ。今年はけっこう早いんだね。有名人でも来るの?」

私はおじいちゃんの誘いを軽くスルーをする。いつもなら8月に入るか入らないかくらいだったから今年は早い。

「ふふふ。おくぞ言ってくれた。」

おじいちゃんは何かを企んでるかのように不気味に笑う。

「今年はなんとテレビ局が独占で中継してくれるのじゃよ。どうじゃすごいじゃろう。」

嬉しそうに、にこにこしながら言った。まるで遠足を楽しみにしている小学生である。まあこの島にテレビ局が来るなんてすごいな。大変だろうに機材係の人たちはこんな離島に何時間もかけて船に揺られるのだろう。


私はおじいちゃんからいったん離れ自分の部屋に入る。えいっと思いっきりベットにダイブする。バタンっという音を立て振動する。腹部をぶつけてジンジンとした痛みが走る。まだそうと決まったわけではないのになんだか力が出ない。


「お祭りかぁ...。」

カレンダーを確認する。今年はアキ君を誘おうと決めていたが、それと同時にナツキとも一緒に行かせることになる。私には耐えられるだろうか。もちろん、ナツキはトウマが好きである。なので振られると知っていながらもアキ君を誘うということである。そんなアキ君を慰めたら私に振り返ってくれるかな。

いいや、そんなのズルい。あーもうどうすればいいんだろう。なにもわかんなくなって枕に向かってずっと叫んだ。


***

今日も雨が降っている。ベッドからすぐにあるリモコンからテレビをつける。天気予報のキャスターはまったく同じような内容の話を繰り返して言っている。デジャブにも思えたが時計の日付は7月2日だった。なんとも変わらない天気は俺の心を見透かしたような天気をしている。学校を休みたいと思わせるくらいに。


なんて馬鹿げたことを考えたがすぐにほっぺをに2回たたく。心地いい、乾いた音が脳内に届く。昨日のうちから仕込んでおいた、おかずを弁当に詰めて通学用のカバンに入れる。時計をもう一度見る。いつもなら出てる時間だが少しだけテレビを見ながら時間をつぶす。もう8時に近いテレビはどこも今日の天気についてだった。本州でも断続的に雨が続いているらしい。モニターでは大きい雲がこの世界を包んでいるのではないかと思うくらいの大きい雲が日本をかこっていた。最後に梅雨明けの予想が出ていた。本州では7月の中旬と、例年よりはるかに遅くなるらしい。この島は南にあるからもう少し早くなる。九州、四国、近畿、関東、東北、北海道と予想が出て最後に各離島が発表された。


どうやら神明島は7月13日らしい。


***

パッと目が覚める。時計を見ると7時ピッタリ。私にしてはとても早起きだ。なんだか体がだるい。しかもおなかが痛いくらいに空いている。そっか、私昨日あの後寝ちゃったんだ。つまりこのだるさはただの寝すぎってことなのか。ベットから転がるように降りると、一瞬よろける。ふらふらと、まるで小さい頃にふざけて飲んだお酒の後みたいな感覚だ。私は制服に着替えると下に降りる。階段を降りるとお母さんがキッチンで料理をしている。私はぼそっと、おはようっといた。


「おはよーってええ!ハルがこの時間に起きるなんて!」

そんなに珍しいことなのかな。さすがに誇張しすぎだ、失礼だ。でも毎日起こしてもらってるためそんなことは言えない。


「ママ、今日はおかゆがいいな。」

「どうしたの?体調でも悪いの?昨日からずっと元気ないわよ。」

「ううん。大丈夫なんだけど、なんていうかおなかすいてるのに食べたくないみたいな感じなんだよね。」

そういうとお母さんはそうなの、っといって心配そうな顔をしたがすぐにおかゆを作り始める。10分くらいすると卵閉じのおかゆができる。少しだけポン酢をかけてゆっくりといただく。食べ物を受け付けそうになかった口もおかゆが切り開いていく。ポン酢の酸味と卵の風味がマッチしているこのおかゆは私が一番好きな味であり、小さい頃からよく作ってくれたものである。


食べ終わり、食器をキッチンに運ぶと、お母さんからお弁当を受け取る。どうやら私の大好物のハンバーグが入っているらしい。ありがとうっといって洗面所に行く。

鏡を見ると、髪がピョンピョンっと四方八方に飛んでいる。雨の日はいつもこんな感じだ。私は何かにぶつけるかのように、くしで乱暴にとかす。プッという音と軽い痛みがはじける。髪の毛が一本髪からゆっくりと落ちていく。はぁっとため息をはきゆっくり丁寧に髪をとかしていった。


身支度も整え、準備ができる。時計を見るとまだ7時30分を過ぎたくらいだ。いつもなら適当に時間をつぶして同じ時間に行っていたが、今日は家を出ることにした。いつもより30分くらい早く出てみる景色は雨のせいでぼやけて見えた。


「おはよー!ハル。」

前方の歩いている学生をぬかしたとき、その学生が手に持っていたパステルカラーの傘を上げた。カッパのフードを少し上げてみると、その学生はトウマだった。


「あれ?今日はアキ君と一緒じゃないの?」

私は雨の音にかき消されないように少し大きめの声でいう。

「いや別に、毎日一緒に行こうって約束してるわけじゃないよ。でも珍しいけどね、アキが寝坊ってのも。それよりハルのほうこそナツキと一緒に来ないなんて珍しいね。今日は何か学校で仕事でもあるの?」

トウマは多分”ケンカ”というワードを避けているのだろう。別にケンカをしているわけではない、ただ私が一人で騒いでるだけなんだから。


「仕事は別にないけど、ただ早く起きたからかな。私たちもそっちと同じでたまたま一緒になってただけだし。」

私は笑顔でそういう。多分トウマには無理をしているとばれているだろう。でもそれを言わないのが彼の優しいところである。ナツキもこんなところを惚れたのかな。その後も話してくれるトウマと学校に行った。


***

俺は家を出る。歩いていても雨の音は止まることを知らないように流れるている。

傘から流れ落ちてくる水滴は制服に少しかかっている。坂道には大きな川ができており脇道は滝のように水が流れている。昨日よりも早いような気がしたが、気がしただけなのかもしれない。いつもは何気なく通る道は知らないことばかりだ。

雨に打たれても折れない花。

少し曲がっている交通安全の看板。

知らない家の前に置いてある石でできた犬の彫刻。

色々なものが目にうつる。


ああ、この島はまだまだ知らないことばかりなんだな。そうしみじみと感じていると後ろから自転車を押してきた子に声をかけられる。


「やっほー、アキ君。珍しいねこんな遅い時間に登校なんて。」

振り返ると、フレッシュピンクのカッパに身を包む生徒がいた。声の主は菅野だった。しかし、いつも一緒にくる三井野の姿がない。

「おはよう菅野。大変だな、雨なのに自転車なんて。」

「もう、菅野はやめて。ナツキでいいよ。」

そういって俺の横まで自転車を押す。俺はわかった、といって歩き始める。


「そういえばナツキは今日は三井野と一緒じゃないの?いつも一緒に来てたし。」

「それを言うならそっちもでしょ。まあハルは今日はサキに行くって。」

うーん。考えたくないが三井野がトウマと一緒に行こうとしてなのか。ダメだ。考えること全部嫌なことになってる。トウマはナツキが好きで、でも三井野はトウマが好き。そんなこと直接聞けるわけないし。


「そういえばドッチボールの時言った、私の言葉の意味わかった?」

悩んでる俺を横目にナツキは言った。絶賛それでお悩み中なのである。

「うん...。まあ何となくかな。いつから気づいたの?」

俺は三井野がいつからトウマのことが好きなのか気になって聞いてみる。もちろん幼馴染なので小さいときかもしれない。


「ん?ああ、最近かなー。」

最近なのか。彼女は俺の気持ちをしっている。だから体育の時にかっこいいところを見せないとねっと言ったのだろう。もしかするとナツキはトウマのことが好きなのか。ああ、もう何が何だかわからない。もしこれが本当ならトウマとナツキは両想いになる。でもそれは三井野がふられることになるじゃないか。


恋って何だろう。自分以外なら、言っちゃえばいいのにとか思っていたのに自分のことだとこんなに悩むなんて。しかしいつまでも悩んではいられない。

その後はナツキと登校しながら別の話題で話をした。恋愛の話にならないように。


***

朝早く来るのはいつぶりかな、そんな風に思いながら窓の外を見ている。まだクラスにいる人は少ない。トウマはほかの男子と話していている。最初は女子と話していた私も今は自分の席で外を見ている。

雨の日の窓には水滴で曇っていた。指でなぞる。冷たい。小さな子供みたいに絵をかいてみる。


小さな花。

道を書いて看板もつける。

それにワンちゃんも書いてみる。

だんだんと水滴になり下に垂れていく。垂れた跡が窓となって外の世界が見える。


私は目を窓からそらす。見てはいけないものを見た。幽霊でも、UFOでもない。

でも一番怖いものだったかもしれない。


あのカッパには見覚えがある。派手すぎるかな、っと言って高校に上がる直前に見せてもらったものだから。


あの人には見覚えがある。好きな人だから。


涙が出そうになる。濡れた指で目をこする。冷たい指先とは逆に目頭が熱くなっているのが分かる。でも泣かずにはいられない。

悔しいとか、かわいそうとかそういうものではない。ただただ涙が出る。


ナツキとアキ君が一緒に登校するのを見かけてしまったのだから。


***

午前中の授業が終わり昼休みになる。なぜか今日はまったく内容が頭に入らない。

雨でぼーっとしているのだろうか。いや違う。

いやなのだ。


嫌なのだ、


好きな人が親友に、トウマに告白するのが。

結果がどうとか、そういうことじゃない。

たしかに幼馴染なのかもしれない。

たしかに俺は島の外から来たやつかもしれない。


だけど俺は三井野のことが好きなのだ。

一度も遊んだことなんてないのに。一度もちゃんと話したことなんてないのに。

ただなさけなかった。自分が。


「その顔はなにか決心でもついたのかな?」

俺の目の前に一番聞いた声が聞こえる。


「ああ。悩んでもしょうがないってことにな。」

俺は真っすぐとトウマを見る。

「僕もナツキに言おうと思う。いつもあと一押しできてないからね。もう逃げないようにってね。」

どうやらトウマも自分の気持ちを伝えるみたいだ。お互いにグーで手を合わせる。


「よし!そうと決まれば、さっそくいつにするかなんだけど…」

トウマは言いかけた言葉を止めた。横を見ると、ナツキと三井野が近づいてきていた。二人とも少し顔が赤い。いや、多分トウマがいるからだろう。ってこういう考えはもう捨てないと。ゆっくりとこっちの席に着くと、彼女たちは俺らを見ていった。


「今年の神明祭一緒に回ろ!この四人で!」


***

昼休みになり私はお弁当を開ける。朝お母さんが言っていた通り、ハンバーグが入っていた。箸を入れると肉汁こそ出ないが、ぎっしりと詰まっているお肉が見える。

半分にしたハンバーグをほおばる。口の中に豚肉のうまみが広がる。っとそこで前から箸が伸びる。


「いただきまーす。」

半分のハンバーグがすっと持っていかれる。それはしゃべるすきもなく口に運ばれる。うん、超おいしいっと一言。

「ああああ!楽しみにしていたのにー!!」

私は目の前にいるナツキに襲い掛かる。といっても彼女の弁当に入っている唐揚げを狙って。箸が彼女の弁当に一直線で伸びる。もらった。と思ったが彼女はふいっと弁当を遠ざける。勢い余った私は机に頭をぶつける。痛い。


「あんまりだこんな仕打ち。私被害者なのに。」

泣いているふりをして顔を伏せる。

「ごめんごめん、これあげるから。」

彼女は弁当から唐揚げを出すと、ハンバーグが入っていたところにそっと置く。

私はすぐにそれをほおばる。うん、超おいしい。


「あははは、そんなもう取らないって。」

いつもいつもとるじゃないか。もう。


お弁当を少し食べ進めていると私は思い出したかのように言った。

「あ、そういえば今年の神明祭、13日なんだって。なんかテレビ局が来るらしいよ。」

おじいちゃんから言われたことをそのままだが流す。

「へー!結構早いし、この島にテレビ?あはは、機材の人めっちゃかわいそう。」

私と同じ心配をしている。だよねーっと言って一緒に笑う。

今年も一緒にいこうね。っとナツキを誘う。するとナツキいった。


「じゃあ今年はトウマとアキ君も誘うよ。」


私はまだ迷っている。アキ君とナツキとトウマを一緒に行かせていいのかと。

ナツキはトウマに気持ちを伝えるだろう。一緒に行こうとはそういうことだ。

それに私のことを考えて、アキ君を誘うのだろう。


もう自分にも、友達にも、恋にも逃げちゃだめだ。


「うん!二人も誘おう!」

力強く私はそういった。



―――この恋の行方は神明祭へ


次章完結







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