番外編「とある一家の家族旅行」

 隆生達が各々の場所で楽しんでいた(隆生と優美子はそうでもないか)頃


「やっと来れたよ。ほんと一度ここへ来たかったんだよね~」

 隆生の前世であるヒトシは埼玉県内ではなく、東京都内のとある場所にいた。


「ここが父上様の来たかった所ですか」

 そう言うのは彼の息子、セイショウ。

 普段の容姿や服装では当然目立つから、今は髪を黒く短く見えるようにしていて、グレーのスーツを着ている。


 彼が何でこの世界にいるかというと、家族旅行で来ているらしい。


「そうだよ~。隆生達も通り道なんだし、こっち来ればいいのに」

「まあいいではないですか。ところで父上様、何故青年バージョンなんですか?」

 今のヒトシは二十代の姿になっていた。

 黒髪で眼鏡をかけていて、紺色のスーツ。

 身長もセイショウとほぼ同じ位。

 この二人が並ぶと兄弟のようにも見える。


「ちょっと力が戻ったのか、三日くらいこの姿を維持出来るようになったんだ。たまにはいいだろ?」


「ええ。普段もいいけど、やっぱこの姿が一番いいわよ」

 そう言って彼に寄り添うのは赤茶色っぽくて長い髪で、顔つきは目がぱっちりした幼い雰囲気。

 服装は白いブラウスに青いデニムパンツ。

 一見すると女子高生かなとも思える女性。


 それはセイショウの母でヒトシの妻、ランだった。


「うん。久しぶりにランを見下ろせるよ」

「あたしもまた、あなたを見上げる事が出来て嬉しいわ」

 そう言って二人はイチャつき出した。


「まったく、この両親は」

「いいじゃない。私達も負けずにすれば」

 そう言うのは藍色のリブニットにベージュのチノスカート。

 髪は茶色っぽく、顔つきが大人びた女性。


 セイショウの妻となった、マオリだった。


「それもそうだな。しかしここは聖地の一つだと聞いたが?」

「間違いないでしょ。この地にいる聖霊達もそう言ってるんだし」 

「……それ俺には見えないし、気配も感じないんだがなあ?」


 彼等がいる場所は東京は中野区にあるサブカルの店が集まっているビルの中。

 たしかに聖地である。

 異論はたとえ神仏が相手でも認めない。


「さ、行きましょ。お義父様とお義母様はもう先に行ってるわ」

「ああ」

 セイショウとマオリは手を繋ぎ、上階へ行くエスカレーターに乗った。



「ムキーッ! 家族旅行なのに、何で私を誘ってくれないのよー!?」

 物陰でそういきり立っているのは、セイショウの義妹キリカだった。


「じゃあ隠れてないで、出て行けばいいだろが」

 その夫、初代タケル(当代は出ないので以降タケルと呼ぶ)が呆れながら言うと


「……マオリとセイ兄ちゃんが並んでるとこ、見たくない」

「は? おのれはまだ彼女を認めてないのか?」

「認めているわよ。でもね、やっぱり」

 キリカは寂しげな表情で俯いた。


「うん。まあゆっくり、な」

 タケルはそう言ってキリカの肩をぽん、と叩いた。

「ええ」


「家族旅行なら何故私達を連れて行かないの? ううう」

「お母さん、お父さんは私達の事、どうでもいいのかな?」

「ごめんなさい。あなたに苦労をかけて」

「そんな。お母さんは悪くないよ、うう」


 とある母娘が二人の後ろで泣いていた。


「なあ、なんであんた達までいるんだよ?」

 タケルがしかめっ面になって言う。


「なんでって、来ちゃダメなの?」

「そうよタケル義兄さん。私、お父さんともっとお話したいの」

 それは完全に蘇った愛染天使タバサと、その娘でつい先日女神となったソウラだった。


「ねえタバサ姉さん、ソウラ。二人共この世界の事知らないでしょ?」

 キリカが何か呆れ顔になっていた。


「ええ。でもいろんな本読んで勉強して来たわ」

「いったい何を読んだのよ? それ、普通のとは違うわよ」


 タバサとソウラが着ていたのは、会いに行けるアイドルの服装だった。

 これが秋葉原なら二人共美人だから紳士がわんさか寄ってくるかもしれないし、変態が来ても彼女達なら消し炭に出来るであろう。


「あのなあ、キリカが着ている服だって何か違うと思うぞ?」

 タケルは無難に紺色のスーツだが、キリカは桃色の振袖と紺色の袴を着ていた。

 キリカは見た目が十代で、この時期が卒業シーズンだった事もあり目立たなかったが、普段なら目を引くだろうか。 


「そう? 隆生が持ってた漫画にあった服装なんだけど?」

 キリカが首を傾げながら言う。

「漫画読むくらいならミカとユカに聞けや。あいつらはこの世界に慣れてるから、似合う服選んでくれただろうに」

 タケルが呆れながら言うと


「あ、言われてみればそうね。気がつかなかったわ」

「お母さん、どうしよ?」

 ソウラが困り顔になって言う。

 

「うーん。あ、そうだわ」

 タバサは目を閉じて何かブツブツ言い出した。

 すると


「あれ?」

「ふえ?」

 三人の服装が変わった。


 キリカは薄い桃色のブラウスに、紺色のスカート。

 ソウラは青いカーディガンに、黒のスカート。

 タバサはグレーのスーツとパンツ。


「これならいい?」

 タバサが確認するかのように言うと

「うん。でもどうやったの?」

 タケルが尋ねる。


「イオリに頼んだのよ。この国の服で私達に合うもののイメージ送ってって」

「なるほど。てかイオリ様って女装コスプレだけじゃないんだな」

「何でああなったのかしら? あいつ昔はちゃんと男の子だったのに」

 タバサは首を傾げながら言った。


「さ、行きましょ。この建物の中なら見失わないわよ」

 キリカがそう言った後、一同はヒトシ達を追った。




 三階の某店にて

「なあ、マオリ」

 セイショウがやや困り顔で言う。

「何?」

 

「ずっとそれ眺めているが、欲しいなら買おうか?」

「え、いいの?」

「夫婦なんだから、遠慮しなくていいんだよ」

「ええ! あなた、大好き!」

 マオリは満面の笑みを浮かべ、セイショウに抱きついた。



「しかし何でそれなんだ? 女の子向けならまだ分かるんだが」

 セイショウが首を傾げながら言う。


 マオリが嬉しそうに抱えているのは、某変形ロボットベースの玩具。

 しかも四十年近く前の当時物で、結構値が張るものだった。

「私ロボットとか戦闘メカ好きなの。カッコイイし」

「そうなのか? それならニコ君なんか最高だったろ?」

「ええ。というかニコ君とあの聖守護ロボットさんを見て目覚めたわ」

「そ、そうか」

 まあ悪い事ではないからいいか、と思うセイショウだった。


「ああ、いつか自分で操縦するロボットに乗りたいなあ~」

 マオリがそんな事を呟くと

「じゃあ今度お願いして作ってもらうか? あの巨大ロボットを作っていたし、そのくらいなら」


「え、そんな凄い方がいるの!?」

 マオリが目を輝かせて言う。

「ああ。今向こうで普及しつつある自動車は彼が作ったものだぞ」

「じゃ、じゃあもっと資料を揃えましょ!」

「え」


 その後、あらゆるロボットや戦闘メカの玩具、漫画、設定集を爆買いしたカップルがいたと噂になったとか。



 その頃、四階にある某古本屋の前。

「ねえ、どうしてここに来たかったの?」

 ランが尋ねる。

「ん? ちょっと探し物したくてね。大阪じゃ見つけられなかったんで、こっちはどうかな~と」

 中は狭く感じたが本棚に年代物の本、主に漫画がたくさん並んでいるのと、ケースには希少価値がありそうな古い本が展示されていた。


「へえ、たくさん本があるし、これって何か想いが篭ってるわね」

 ランがケースの中を見ながら呟いた。


「あるかな~……あ、あった」

 ヒトシは本棚から一冊の古い漫画雑誌を取り、それを買った。


 そしてヒトシとランはビルの外へ出て、近くの複合施設の下でその雑誌を開いた。

「ねえ、その本って何か特別なものなの?」

「それはね、ほら」

「えーと、あれ?」


 その頁は玩具懸賞の当選者発表欄で、ヒトシが指すところを見ると


「隆生さんの名前があるわね?」

「うん。これって隆生が子供の頃、初めて応募した懸賞なんだよ」

「え、いきなり当たったの!? しかもこれ、当選数少ないわよ!」

 ランが驚きの声をあげた。


「そうだよ。本人も後で思い返して驚いたって言ってたよ」

「うわあ……ってもしかしてこれ、応募者が少なかったのかしら?」

「そうかもしれないね。でも初めて当たったのは事実だろ」

「そうね。あ、もしかしてこの本、隆生さんにあげるの?」

「うん。前に『あの本取っとけばよかった』ってボヤいてたしね。それと当たったのと同じ玩具もあそこなら売ってそうだし、どうかな?」

「ええ。きっと喜ぶわよ」


 それを物陰から見ていたタバサとソウラは

「いいなあ。私、お父さんからなんにも貰った事ないのに」

「ううう。私はいいとしても、実の娘に何もしないなんて」

「お母さん。私、悲しい」

「ごめんね、ごめんね」

 二人してさめざめと泣いていた。


「……ルイもあんな気持ちだったのかな?」

 タケルが胸を押さえながら、ユイとの間に生まれた娘を思い出していた。


「ルイは我慢強い子だったからね。でも兄弟達には話してたみたいよ。『わたしもお兄ちゃんやお姉ちゃん達、お父さんやキリカお母さんと一緒に暮らしたかった』って」


「そうか。ごめんな、ルイ」

「それと私をお母さんと言ってくれて、ありがと」

 二人は空を見上げて言った。



「あら、キリカさんにタケルさん?」

「え? あ」

 声をかけられて振り返ると、そこには大量の紙袋や包装された箱を持ったセイショウとマオリがいた。


「何でそんなにたくさん買ってるのよ?」

 キリカがすっごく呆れながら言う。

「だってカッコイイし。ほら、これなんか最高でしょ?」

 マオリが取り出したのは、これまた年代物の可変戦闘機の玩具だった。


「私には分からないわ。タケルはどう?」

「うーん。いいとは思うが、爆買いするほどじゃないぞ」

 タケルが首を傾げながら言う。


「あの、少しこれ見ててくれませんか?」

「あ、はい」

 タケルが荷物を受け取ると、セイショウはタバサとソウラの側に歩いて行った。


「あ、セイショウ」

「う、見つかった」

 母娘が気まずそうにしていると


「たく、あの親父は母上様に遠慮してるつもりだろうが、話せば分かるのに。さ、一緒に行きましょう」

「兄さん、いいの?」

 ソウラが遠慮がちに言うと

「ええ。ソウラも姉様も、キリカもタケル君も私の家族ですよ」

 セイショウがそういった時


「ごめんね、タバサちゃんやソウラちゃんとは、また別にと思ってたんだ」

 やはり気づいていたのか、ヒトシとランもそこにやって来た。


「遠慮しなくでいいのに。あたしだってソウラを可愛く思ってるのよ」

 ランが腰に手をやって言うと

「姉様、私は?」

 タバサが尋ねる。

「もちろんタバサもよ。あたし達の妹だもん」

「何言ってるの? 私はこの人の第二夫人よ」

 そう言ってヒトシを指さした。


「ま、まあ今は好きに言えばいいわ」

 若干顔を引き攣らせているランだった。


「さて、皆揃ったところで、仕切り直しますか」


 一同は電車に乗り(荷物は神力で家に送った)浅草まで行って浅草寺でお参りした。

 後で聞いたら祭神がビビってたらしい。

 例えるなら地方の小さな営業所に本社の会長と社長と重役がアポ無しで訪ねて行ったようなものだろう。


 その後仲見世通りで土産を買ったりして夕方になった頃、しばらく歩いて着いた場所は


「ここも僕自身として、一度来たかったんだよね~」

 そこは小奇麗な雰囲気の飲食店だった。


「へえ、何故ですか?」

 セイショウが尋ねると

「隆生がここ気に入っててね。昼間は定食屋で夜は居酒屋で、量があって

安くて美味しいんだ。あと店の雰囲気もいいんだよ」

「なるほど。それは楽しみですね」

「うん。さ、入ろ」


 そして一同は席に着いた後(マオリはこっちじゃ未成年というのは別にしても、元々飲まないので烏龍茶だった)乾杯した。


「ねえお父さん、あのね」

「あなた、これ美味しいわよ」


 ランはタバサとソウラをヒトシの両脇に座らせ、自分はタバサの隣に座っていた。

 今くらいはいいかと思って。


「しっかしここ、何というか」

「ええ、ほっとするわね」



 そして


「さ~てと、セイショウ、タケル。もう少し付き合ってよ」

 ヒトシが二人に話しかける。

「ねえ、あたし達も」

 ランが着いて行こうとするが

「いや、男同士の大事な話があるんだ。だから先にホテルに戻っててよ」

 ヒトシが真剣な眼差しで言った。


「……分かったわ。なるべく早く戻って来てね」

「うん」


「父上様、いったい何処へ?」

「それは着いてからのお楽しみ」



 

「キャハハハハ」

 ヒトシはグラス片手に女の子を抱き寄せ笑っていた。


「父上様。あの、ここって」

 セイショウが辺りを見渡しながら言う。

 そこはピンク系の壁にテーブルとソファが六組程あり、中央にステージのようなものがある場所。

 まあ、きれーなおねーさんとお酒飲める店。


「大丈夫だよ。ここはボッタクリじゃないよ」

 ヒトシがそう言う。

「それは分かりますが、この子達人間じゃないですし、そもそも」

 タケルが周りに座っている、見た目は全員二十代位の女性を見ながら言うと


「うん、皆妖怪や精霊、エルフの男の娘だよ~」

 ヒトシが笑みを浮かべて言った。


「誰ですか、こんな店経営してるのは?」

 セイショウが額に縦線走らせながら言うと

「オーナーはイオリだよ。この子達はイオリの女装趣味の同志だって」


「そうですよ。イオリ様はそれぞれに合った働き口を世界中のあちこちにこっそり作ってくれているんです」

「直接手出し出来ないならどうすればいいかと考えて、ですって」

「ここは人間以外の者達だけですが、人間だけの店もありますよ」

 男の娘達が口々に言う。


「へえ~。イオリ様って色々やってんだな」

 タケルが感心して言うと


「まあいいじゃん。さ、飲もう。君達もどうぞ」

「はーい」

 

 その後、酔ったタケルが男の娘に抱き着いたりお触りしたり

 セイショウが酔って歌えばヒトシも負けじと歌い。

 


「あ~、一度息子達とこうやってバカ騒ぎしたかったんだよね~」

 ヒトシがセイショウとタケルを見つめながら言うと


「え、息子達って、俺もですか?」

 タケルが自分を指差して言う。


「そうだよ、迷惑だった?」

「い、いえ。そう言って貰えるなんて」


「イーセも俺の義弟だけどさ~、ここにいないな~」

 セイショウは既に出来上がっていて、口調が砕けていた。


「義兄さん、あの人は誘ってもこういう店来ないでしょ?」

「ああ、あいつはこういう雰囲気が苦手だったな~」

「ま、無理強いはしたくないからね。イーセとはまた別の事で」


 そして

「おーいパパ。そろそろお開きにしよーぜー」

「義兄さん、キャラ変わりすぎ」

「キャハハハ。そうだね、じゃあこの子お持ち帰り」

「してどうする気?」


「!?」

 そこにラン、タバサ、キリカ、マオリ、ソウラが立っていた。



「な、何で分かったの? 気配は感じられないようにしてたのに」

 ヒトシは一気に酔いが覚めた。

「イオリが教えてくれたのよ」

 ランが冷たい目でそう言う。


「そうですよ。兄様達ならお持ち帰り禁止なんか知らんと攫っていきそうだったし、かと言って僕じゃ止められないし」

 イオリもそこにいた。


「あ~、イオリ兄ちゃん、口調や服装が普通だな~」

 セイショウがうつろな目でイオリを見つめる。


 イオリは白いシャツに紺色のネクタイ、黒いズボンという姿だった。

「あのね、流石にラン姉様やタバサの前で男の娘するのは怖いよ。てかお前、酔いすぎだ」

「チッ、皆で襲ってやろうと思ったのに」

 セイショウが舌打ちすると

「いえ、流石に男の娘は」

 タケルがそう言うが

「「おのれが一番ペタペタ触ってただろが?」」

 ヒトシとセイショウが声を揃えてツッコんだ。


「あなた、お話は戻ってからに」

「そうよね」

 ヒトシはランとタバサに両脇を抱えられ


「……ふふふ」

 セイショウはマオリに引きずられ

「さ、今日は私が責めるわよ」

 キリカがタケルを担いでどっか行ってしまった。



「って、置いてかれちゃった。寂しいよう」

 一人ぽつんと残されたソウラだったが


「じゃあ、俺とデートするか?」

「え? あ」

 そこにいたのはソウラの夫、イーセだった。

 彼も紺色のスーツに黒いシャツ、青いネクタイといった服装だった。


「遅れてすまない。さ、二人で仕切りなおすか?」

「うん!」


「あ、じゃあここなんかどう?」

 イオリが案内図を取り出して二人に渡す。

「そこなら静かに飲めるし、マスターは僕の補佐役の神だから遠慮はいらないよ」


「ありがとうございます。イオリ様」

 イーセとソウラは礼を言った後、店を出て歩いて行った。



「ふう、僕もそろそろ相手探そうかな~。てかあの子が良かったんだけどなあ。チャスタ君、ダメとか言わないで会わせてよ。クスン」

 イオリが何かボソッと呟いて泣いていた。

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何でお前らがここ(現実)にいるんだよ!?大番外編 仁志隆生 @ryuseienbu

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