第44話 松川くんの事情7

「悠人、腹減ってないか?」

悠人を連れてきてから、俺の部屋のものに興味を持つ悠人に色々話をしていたが、そろそろ腹の空く頃だろうと思い始めた。


「…ううん、大丈夫」

お? なんだ?


「どうした? 遠慮しなくていいぞ。悠人、兄ちゃんはずっと悠人の味方だぞ?」

何か言いたそうにしているのに、下を向く悠人にそう言った。


「…食べてもいいの?」


「え…」

俺は衝撃を受けた。話をしっかり聞いてやると、悠人は夜ご飯をあまりもらえていなかったとわかった。給食をたくさん食べて、たまにもらえる朝食や夕食まで腹をもたせていたらしい。痩せている子だとは思っていたが…俺は気づいてやることができなかった。


「悠人、これからは3食きっちり食べような!」


「さんしょく…?」


「あー。朝も昼も、夜も食べるぞってことだ!」


「やったー!!」

悠人が喜んでいる、笑顔になっている姿を見て、こんなにも胸が締め付けられ、悲しい気持ちになったのは初めてだった。




忙しい父さんの分まで夕飯を作るのが、俺の日課になっていた。だからこそ、悠人の分まで飯を作っても怪しまれることはなかった。初めは父さんにも悠人のことを話すつもりだった。優しい父さんだ。きっと、わかってくれる。…そう思った時に、優しい父さんだからこそ、いつか悠人を帰さなければならないときに、父さんは俺を守るかもしれないと思った。父さんを巻き込むのは良くないと思った俺は、悠人を父さんからも隠すことに決めた。


「悠人、俺の家にいることは誰にも内緒だ。それから、今日からお家に帰るまではお外に行っちゃだめだぞ」


「…そっかぁ。わかった!」

少し悩んだ顔をした悠人だったが、了承してくれた。


悠人を危険な家から守れたのはいいが、俺はこれからどうすればいいんだ?

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僕は、ここにいるよ。 オリオン @orion-ringo

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