第43話 松川くんの事情6
「悠人、今日はお散歩にいこうか」
「え? おさんぽ?」
俺はとっさに悠人を家に帰してはいけないと思った。虐待って証明するの難しいんだっけ…? ってか、見ず知らずの俺が連れてったら俺がやったって怪しまれるもんかな。虐待されている子どもを救うにはどうしたらいいんだ?
「おにいちゃん…?」
「あ。ごめんな。悲しい気持ちを吹き飛ばすのに歩いてどこかに行こうかと思ってな!」
「うーん。あんまりとおくにいっちゃだめだけど…」
…そうか。悠人は内緒で俺のところに遊びに来ているんだった。
「そうだよな〜…」
「でも、ちょっとだけおさんぽする!」
「おぅ、じゃあ行くか!」
悠人は俺の迷っている顔を散歩ができなくて悲しんでいるとでも思ったのか、散歩をすると言ってくれた。そんなに大人の…まぁ、俺は大人ではないけど。人の顔色を気にする必要なんてないのに…な。
悲しんでいる悠人にしてあげられることは、楽しませてやることだろうと“ぽよりん”の話をしながら散歩を続けた。悠人は泣くのをやめて、俺に笑顔を見せてくれた。こんなにかわいい子どもをどうして…どうして悲しませるのかという気持ちが強まっていった。そして、弟のことが頭をよぎった。ずっと心の支えとなっていた友人を失って死を選んだ弟…。俺は悠人を失ってしまうのではないかと怖くなった。そんな気持ちでフラフラと散歩をして、気づいたら自分の家の前にいた。少し立ち止まっていた俺に悠人が話しかけてきた。
「お兄ちゃん、疲れたよ。ぼくそろそろおうちにかえらないとお母さんにおこられちゃうよ。ねぇ、お兄ちゃん?」
後から考えれば方法はもっと…もっともっとたくさんあっただろう。でも、俺は…。
「悠人、少しの間兄ちゃん家で過ごさないか?」
俺は悠人を自宅でかくまってやろうと考えた。
「でも…」
悠人は戸惑っていた。だが、また痛い思いをするかもしれない…命を落とすかもしれない危険な場所に悠人を帰すわけにはいかないと思った。
「悠人、痛い思いするの嫌だろ?」
「うん、そうだけど…」
「兄ちゃんと一緒にママとかいくんと仲良くなる方法考えよう。思いつくまで、俺の家にずっといたっていいからさ」
「…うん、わかった。ぼく、おにいちゃんといる!」
「おぅ、じゃあ中入ろうぜ」
もう、後には引けない。俺は悠人を守るために、誘拐犯となった。
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