第**話

 空が割れる。海が崩れる。地平線は歪み。水平線は捻れる。

 そんなことを繰り返している内に、不定形の世界が出来上がっていた。

 僕はそれを、藤島という人間の視点で観測していた。

 新しい支配者によってもたらされた世界は、どこまでも偉大だった。しかし、これほど偉大な世界を有していたにもかかわらず、藤島という平凡な人間に頼らなければ、こうして存在を現実のものとできなかった事実は、どこまでも不思議に思われた。


 でも、まぁきっと世界って奴にもいろいろ込み入った事情があるのだろう。その点、僕にはあまり興味が無い。

 この不定形の世界の前の世界。つまりは、人間がいて地球があって宇宙が覆っていた世界のことだけれど。その世界の真理を漏れなく知識として獲得できるのであれば、僕自身はどうなっても良かったし、その他の知識には興味が無かった。だからこそ不定形の奴らのとの取引に応じて、藤島という人間から、藤島という人間のかぶり物に変えてもらったし、不定形の世界のことについてまでは知識をもらわなかった。

 きっと不定形の奴らからすれば、僕はどこまでも理想的な雇われ人間だっただろう。別にそれを悔しいとは思わない。さっきから言っているように、そんなちっぽけな感情なんかどうでも良くて、僕は僕の、産まれ世界の全ての知識さえ得られれば良かったのだ。

 そんな僕の心持ちをよく理解していたからこそ、黄衣を纏った不定形の使者を、僕の下に送ったのだろう?奴が招待してくれた非幾何学の大図書館。あそこでひたすら知識をインプットしていた時間は、恐ろしく幸せな時間だった。ああいや、知識を蓄えきった今も満足感に包まれているし、また違った幸福感があるよ。

 結局何が言いたいかというと、僕は感謝しているんだ。もちろん藤島という人間のかぶり物という立場からね。ああでも、僕に、英雄になるはずだった主人公の少年を踏みにじらせ、英雄に寄り添うはずだったヒロインの少女を殺させた点についてだけは少し不満かな。いくらかぶり物とはいえ、僕だって生まれは人間なんだ。その価値観までは理解できないよ。

 まあ終わったことはもう良いか。これからも永久にここに居ても良いんだろ?ならまあ、そのたっぷりとある時間を使って僕が踏みにじった彼らの、別の結末でも考えてみるよ。謝罪というわけでも無いけれど、僕の妄想の中でくらい、彼らにはハッピーエンドを迎えて欲しいからさ。

 彼らが生きてた世界の知識は全て僕の頭の中にあるんだから、きっと異次元のハッピーエンドが彼らを待っているさ。

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鬼ノ少女 奈淵梟 @fukurounabuchi

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