まだ未熟で、不安定で、不定形だけれども、何者にでもなれる無限の可能性を秘めてた三人の物語。
思春期から青年期へ向かう過程の中で、自らの先の人生のあり方に悩みながらも、目の前に与えられた使命に、賢明に立ち向かう。そして賢明に立ち向かうゆえに、その中に思春期らしい悩みを解決させるヒントを拾い上げたりもする。人生の不思議、人の物語の数奇さすら書き込んでいる作品です。
大団円を迎える、その結末が、本当にたくさんの可能性が秘められていて、読んでいて心温まる思いでした。これから読まれる方も、その辺りは大船に乗ったつもりで、最後まで読み進められると思います。是非、たくさんの可能性を秘めた若者の門出を共に祝いましょう!
まず読み始めて最初に受けた印象が、「大変読みやすい」ということでした。
余計な装飾が一切なく、それでいて的確に状況を表現される文章をお書きです。
私はプロの作家さんの文章でも、時々読み辛さ……というか、読んでいて胃もたれするような感覚に陥ることがあります。
こちらの作品にはそういうことが一切なく、研ぎ澄まされた文章が静かに、しかししっかりと物語に誘ってくれます。
現代ファンタジーとして、リアルとファンタジーがちょうどよく織り交ぜられていて、現代ファンタジー初心者の私にとって大変勉強になるお話でもあります。
タイトルにもあるように、あらかじめ十日間の出来事であることが分かっているゆえに、「え、この事件十日で片付くの?」と珍しいハラハラ感を覚えつつ読み進めております。
日数的にもおそらくちょうどクライマックスに差し掛かってきた頃で、やはり日を追うごとに面白みが増しているように感じます。
前の日の出来事がきちんと後日の前振りになっているなど、読んでいて「ああ、このお話は出たとこ勝負ではなく、きちんと構成を整えてから書かれているのだな」ということが、随所から感じられるのも一つの魅力でしょうか。
主人公世記の語りが軽妙で微笑ましく、他に登場する人々も皆個性的で、そこに生きているように感じます。
また、作者さんのご気性でしょうか、節々から温かさを感じるのも、このお話をこうして皆さんにお勧めしたい一つの理由です。
世記たちが駆け抜ける濃密な十日間を、ぜひ一緒に追いかけてみませんか?