Memory 2 学校とお昼ご飯とあたし その3

「誰すかこの子!!」

 現実の先輩におもいっきり振り返ると。

 先輩は、なんで!? ってくらい、めっっちゃヘコんだカンジで言った。

「正直……二度と見たくない顔だ…………」

「………………えぇ~……?」

 どゆこと……?

 こんな、超のつく美少女に言う? それ。

 あたし、今から一週間はガン見できる自信あるけど……。

 しかもここまで心配されて……ってホント先輩とこの子どーゆう関係なんだろ……?

 ビミョーにモヤったところで、先輩が言う。

「このあとだ……」

 先輩のその言葉が合図だったみたいに美少女が動いた。

 まずパンをちぎって、先輩の口元に持ってく。

 ……先輩食べない。

 次に、パンに指を入れて、それを先輩の口に押しつける。

 ……先輩食べなーい。

 まあそれはそーだと思う……。

『もうっ』

 あ、やけになったのかな?

 ちぎったパンを自分の口に入れちゃった。

 え~咀嚼してるのもカワイイ……てかなんか食べ方キレイだな……地味にお嬢様系?

 とか思ってたら、いきなり口に入れてたパン出して、それを先輩に差し出──さないで、無理矢理先輩の口開いて、突っ込んだ。

「ええええええええええっ!?」

「…………最悪、だろう……?」

「い、いや、まあ…………たしかに……」

 ワイルドすぎる……。ワイルド美少女……。

「あれ? 先輩ぜんぜん抵抗してなくない……?」

 大人しくされるがままに……って、待って。

 なんかワイルド美少女、やたらと先輩の体触ってるっぽい……?

 体の調子見てるにしてはボディタッチ多めすぎな気が……てか顔赤くしてるし。

「……このときは、本当に餓死寸前で……抵抗する力がなかった」

 じゃあ、抵抗できないのをいいことに──ってそれはさすがに言いすぎだよね。

 まあそれはいいとして。

 ……よくないけど。

「もしかしてこのワイルド美少女……えーっと、なんて名前です?」

「◇▼…………シェミ、が音としては近い」

「シェミちゃんこれ、えっと……先輩といいカンジなんじゃ?」

「ありえない」

 断言した先輩は、

「証拠を見せる」

 そう言って、目の前の光景を変えていく。

 ダイジェスト版って感じで、すごい勢いで流れてく映像は、めっちゃリアルでそれだけでも楽しい。

 楽しいんだけど。

 森っぽいところで、大きな蛇を退治してる先輩のそばで、なんかすっごくカッコカワイイシェミちゃんがいた。

 先輩に合わせて、シェミちゃんもすごいスピードで動いてるんだけど、二人は戦ってるあいだずっと言い合いしてる。

 おっきな岩がゴロゴロしてる暗い場所で、ゾウみたいな大きさのトラと一人で戦ってるシェミちゃんは、チラチラこっち見てて、なにかと思ったらそこに先輩がいた。

 先輩はしょーがないってカンジでシェミちゃんを助けたけど、シェミちゃんは顔を赤くしながら「別に助けてほしいなんて言ってない!」とか、ぜんぜん思ってなさそうなことを言って……あ、先輩行っちゃった。

 見てるだけですっごい暑そうな火山っぽいトコで、超迫力ある、トゲトゲで、でっかい翼の……ドラゴン? みたいなのと戦ってる先輩は、ケガしてるシェミちゃんをかばってるんだけど、シェミちゃんは潤んだ瞳で「わたしのことなんて……ほうって、おきなさいよ……」とか言ってて、先輩はマジそれどころじゃないって顔してる。

 他にも街の中で、夕焼けの原っぱで、おっきなお城……お城? え、シェミちゃん何者……?

 とにかく。

 シェミちゃんは先輩にひたすらフクザツな乙女心をゼンカイにしてて。

「──なーるほ~……」

 わかってくれるかって顔で先輩がこっちを見てたので、あたしはコクコクうなずく。

 これはうなずくしかないな~。

「……バッチリおけまる理解です」

 シェミちゃん、めっちゃ先輩のこと好きだわこれ。

 そんで、しゅきしゅき光線の出しかたヘタすぎで引かれたパターンだ。

 よーくわかったけど、先輩には言わない。

 ……てか言えない。

 だからあたしはビミョい顔で黙ってたんだけど、先輩はそれをいいカンジに勘違いしてくれたっぽく、最初の噴水広場に映像を戻す。

「結果的に《メクトレ》ではほとんどコイツと一緒にいることになったんだが……そのきっかけがこれだったせいか、その後誰かと食事を共にできなくなったし、食べかけのものを口にするのも無理になった」

 弱みを見せればつけ込まれるという教訓だ──深刻そうに言う今の先輩と、シェミちゃんにお世話されてる当時の先輩(痩せ)は、ぜんぜん違う顔をしていた。

 フツーに感謝してるっぽい……。

「…………そっすね……」

 まあ、このときの先輩はこのあとシェミちゃんにつきまとわれるとは思ってなかったし、その後つきまとわれて、先輩からしたらよくわかんないこと言われて困ったのかもだけど。

 シェミちゃんこの出会い方ならフツーにしてるだけでもうまくいったんじゃ……?

 なんであんな……や、うまくいかれても困るんだけども。

 とゆーか………………う~ん。

 先輩の気持ちもわかるし、シェミちゃんの気持ちも痛いほどわかる。

 先輩にぜんぜん気持ち伝わんなくて、シェミちゃん焦ったんだろーな~……。

 てか、フツーに先輩救ってくれてありがとうだし、めっちゃ感謝……なんだけど。

「……口移しなぁぁ……」

 や、必要だったのはわかる。

 でも他に方法なかったのかな~とか、かなりキワドくない……!? とか、どーしてもモヤって……モヤっちゃうあたしもどーなん!? ってなって。

「あぁあぁあ……っ」

「……桑折?」

 あたしがうめいてるあいだに屋上に戻ってたっぽい。

 先輩が心配そうにこちらを見ていた。

「……や、だいじょぶです」

 すぐに平気っぽい顔をしたあたしは、自分がずっとなにを持ってたのか気づいて。

 ふと思ったら──言ってた。

「えっと……食べます?」

 あたしの食べかけのパン。

 ──誰かと食事をできなくなって。

 ──食べかけのものを口にできない先輩に。

 ってまさにコレじゃん! コレオブコレじゃん!! なにやってんのあたし!?

 自分でもよくわかんない行動にフツーに慌てて、差し出してた手をおもいっきり上にあげたあたしは、「はいあげたー!」ってごまかそうとしたけど、そういえば「パンあげます」とは言ってなかったって気づいて、ダメじゃん! ってなる。

 えーと、えーと……。

「な……なーんてジョーダン──」 

 先輩は。

 あたしの手を掴んで。

「食べる」

 真剣に。

 こっちを見る。

「え…………い、いやいやいや……じょ、ジョーダンですって! だってそれ──食べかけ、ですよ……?」

 あたしの。

 そこまで言ってしまうと、拒否られたときにめっちゃヘコむとか、このゴにおよんでジコチューなあたしに。

「桑折の、なら」

 先輩は、そこで一度止めて、勢いをつけてから言った。

「桑折のなら食べられると思う……いや──食べたい」

「────」

 先輩も先輩で、顔赤い。

 それは、だから、先輩が苦手なことを……トラウマっぽいことを乗り越えようとしてる、ってゆーコトなのに。

 それより、なにより。

 あたしのだから食べたいってゆーのが強く出てて──。

「…………………………ムリ」

「──す、すまん……気持ち悪かったら──」

「あ──ち、違います! そーじゃなくて! それはむしろ食べてほしいです!」

「え?」

 はああああああ!? なに言ってんのあたし!?

 くうううって唸りたくなるのをこらえて、てゆーかもうなんかいーやって気持ちでヤケクソになって。

「あの……すっごい恥ずいこと言っていーですか……?」

 先輩の答えを待たずに言う。

「間接キスって……知ってます?」

 ──いや、うん。

 わかってる。

 わかってる、わかってます。

 自分でもおかしーのは。

 カレシいたコトなくても、告られたことは何回かあったし、男の子と遊ぶのとか別にフツーだし……こーゆうのぜんぜんヘーキなはずなのに。

 はず、なん、だけど。

「……知ってる」

「~~~~」 

 そんな、覚悟を決めたってカンジの顔されちゃうと、自分でもよくわかんない気持ちになる。

 も、ムリ……。マトモに先輩の顔見れない。

 てか、そーなっちゃってる自分が信じらんない──。

「じゃぁ……ぁの…………ど、どーぞ……」

 どーぞて。どーぞてー!!

 頭の中がパンクしそうな中、先輩があたしの食べかけのパンを──口に入れようとしたとこで、パンが消えた。

「──は?」

 思わず空を見て、飛び去った鳥がフツーにくわえてて。

「え…………マ?」

 そんなこと──ある?

 タイミング、神すぎない?

 え。え──。

 ってしてるあいだに先輩が剣を

「すとーっぷ!! ステイステイ!! 先輩パンのためになにする気っすか!?」

「だが……」

 や、ちょ、そんなガチで悔しそうな顔──。

 なんかもういろいろ重なってムリすぎた。

「あ、あはははははっ!! と、鳥が……このタイミングで……!? えぇ~……そ、そんなことありますっ? ヤ、ヤバすぎっ、あははははははは!!」

「………………油断した」

 って先輩ホントに悔しそうだし。すっごい恨めしそうに鳥見てるし。

 も~……カワイイかよ!

 めっちゃほっこりするんですけど~。

「あきらめましょーよ、先輩。てかあたしの食べかけくらい、いつでも──」

 待って。

 あたしの食べかけくらいいつでもあげますって、フツーにキモくない……?

 って冷静に考えてることも笑えてきて、あたしはさらに噴きだす。

 そんなあたしに先輩もつられるように表情をゆるめてくれて、なんかもう体がポカポカしてきた。

 二年前と同じ場所で、二年前にはできなかったこと──。

 二年前より楽しい気持ち、二年前にはなかった……好きって気持ち。

 これからずっと──いっぱい経験できるって考えればなんにも急ぐコトないって思えて。

 だから、今大事なことは。

「やっぱ、先輩と一緒にいると……たのしーですね!」

 それが一番で、それだけでいい。

 あたしは、そう思ってて。

「……ああ、俺も桑折と一緒にいられて楽しい」

 めっちゃ嬉しい言葉と一緒に、そっと笑い返してくれた先輩に、胸がキューってなって……いや乙女か!

 とか、セルフツッコミしてもごまかせない恥ずさと嬉しさに、あたしは身悶えしたりするのでした。まる。


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試し読みは以上です。


続きは2020年2月25日(火)発売

『そうだな、確かに可愛いな』

でお楽しみください!


※本ページ内の文章は制作中のものです。実際の商品と一部異なる場合があります。

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そうだな、確かに可愛いな 刈野ミカタ/MF文庫J編集部 @mfbunkoj

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