Memory 2 学校とお昼ご飯とあたし その2
その後も先輩はなかなかにやらかしてた。
まずみんなと話するとき超ちぐはぐ。
基本、先輩に近づこうとするクラスメイトがほとんどいないんだけど、だからこそ話しかけようとする男子とかもいて。
「よ、渡世くん! 今日からよろしくな!」
「…………」
「……えっと……渡世、くん……?」
「…………ん、ああ……俺のことか。すまない。向こうにいたときは名字を名乗っていなかったせいか、渡世と呼ばれることに違和感がある」
「む、向こう? どっか行ってたの?」
「異世界──いや」
「いせ……? え、なに?」
「……しまった……桑折との約束が……」
「おお、やっぱ渡世くんとナノちゃんって──え? なんで急に頭掴ん、ちょっ、なになになに!?」
「すまない。記憶を消させてくれ」
「き、記憶ー!?」
「──はい先輩ストップストップ~」
ってカンジで、あたしが最後に乱入すること多数……というかいまのところヒャクパー。
授業中にも「渡世は二年ぶりの授業だから」ってセンセーが言ったのを「いや、二〇年ぶりだ」って言ったり、てかタメ語だったり、先輩のうしろに立った人をよくわかんないけど、すごい勢いで押し倒してみたり……あたしが見れなかった男子の体育でもなんかすごいことが起きてたっぽい。
で。
そんなことばっかしてたせいか、最初はただの誤解で根も葉もない先輩のウワサが、昼休みにはもうだいたい真実みたいなカンジになってて。
もう、なんか──限界だった。
「先輩、ちょっと付き合ってもらっていーですか?」
☆★
おそらく、俺は致命的なことをやってしまったのだろう。
確か、事前に桑折と打ち合わせていたのは──
「先輩、学校関連の記憶全然ないんすよね? そしたら……とりあえず考えずになにかするのだけはやめておきましょーか。あと、あのなにもないトコから異世界アイテム出すヤツ、アレもアウトっす。特に剣とか絶対ダメですよ? 魔法は……魔法使うのももちろんダメなんですけど……うーん、いきなりあれもこれもダメってしてもな~……まあとりあえずバレない方向で」
……ある程度は守れた、つもりだった。
なにかしようとする前に考えるのも可能な限り努力したし、『
問題は不慮の事態に際して勝手に反応してしまう体だ。
これだけはどうにもならなくて、何度も周囲に驚かれた。
「…………っ」
……きっと呆れられたのだろう。
その想像に耐えられなくて、黙って前を行く桑折に声をかけることすらできない。
そのまま屋上に辿り着き、こちらに向き直った桑折は、真剣な表情で──真剣な、表情、で?
「──ぷっ、あはははははは、あははははははは!」
突然噴き出す。
笑って。
笑って笑って。笑い続けて。
「は、はー……やっと笑えた~……耐えるのしんどかった~……! あたしマジがんばった……自分に拍手~……いぇ~」
「……耐える?」
「だって先輩……みんなびっくりさせてて……それなのに……きょとんてしてて……ぷーっ、ダメだー! 思い出すと笑うー! あは、あははははっ!」
「……怒って、いないのか?」
「あははっ、あは、は、えー? お、怒るって、なににっすか?」
「桑折は……しっかりと注意すべきことを教えてくれていたのに……俺は」
「あ~まあ確かにヒヤヒヤはしましたけど……しょーがなくないっすか?」
「しょうが、ない?」
「だって、ずっと異世界……っていってもよくわかんないですけど、ココとはぜんぜん違うトコに二〇年もいて、いきなりフツーにやれって言われてもムリでしょ。少なくともあたしは絶対ムリですもん。自分がムリなのに人にやらせて、失敗したら怒るなんてトンデモじゃないですか」
にひっと笑う桑折に、俺はなにも言えなくなる。
「あ、てかすみません! 先輩気にしてたんですね……もっと早く言ってあげればよかった……」
「桑折」
「はい?」
「ありがとう」
本当に。
心から。
感謝の気持ちが湧いてくる。
だからいつまでも頭を下げていた俺に、なぜか桑折は慌てだした。
「ちょ……だ、だから、そーゆーのナシですってばっ、てかこんなの当たり前ってゆーか……」
そうして、はにかむように笑う桑折が愛おしくて──どうにかなってしまいそうになる。
……頼む。
この時間が永遠に続くなら、俺は他に何もいらない──。
★☆
先輩も結構気にしてたっぽい。
ぜんぜんそんな素振りがなかったのでそれがツボってウケちゃってたけど……気にしてたんならシツレイだったかも。
でもじゃあどこがダメだったか聞いてみたら。
「……最初は気のせいだとも思っていた。だが……廊下を歩いているときに周囲の人間が」
「あー……聞こえちゃってました?」
ここまで歩いてくるあいだもそーだけど、先輩はそれはもーすれちがう人すれちがう人にヒソられてた。
たとえば──
「……ねね、あれが例の……?」
「なんか、先生ぶっとばしたって……」
「凶器でドア破壊したらしいよ……」
「柔道全一の男子投げて押さえ込んだって」
「少年院に二年間入ってたんでしょ?」
「なんでうちの学校入れたの……?」
「理事長脅しつけたとか──」
などなどと。
あることないこと……まあだいたいないことだったけど、あながちウソと言えないこともあったし、先輩ぜんぜん気にしてなさそうだったから聞こえてないのかと思ってたんだけど。
「道を譲られていたのは……俺だったんだな」
「………………ん? どゆこと?」
マジどゆこと?
ヒソヒソ話のことですらない?
──みんなからめっちゃ避けられてたのを道を譲られてたと思ってたってこと??
「みな桑折に道を譲っているのかと思っていた」
「……いや、先輩はあたしをなんだと思ってんですか」
しかもあたしがみんなに道を譲られるて。
「だが、教室で……桑折はみなに頼られていた」
「んー? 頼られてたかな~?」
別にいつもどおりテキトーとゆーかあたりさわりなっしんというか。
「桑折は、すごく人気があった」
「人気ぃ~? ──まーぶっちゃけそこそこモテますけどー」
「……ああ。だと思う」
「……いやそこは自分で言うんかーいってツッコんでくださいよ……スベったみたいで恥ずいじゃないですか」
なのに、先輩は首を横に振って、真顔で続ける。
「いや、桑折は可愛い。学校に来て、いろいろな女子を目にして……あらためてそう思った。間違いない」
「……ぃゃ、それ、は…………ぁりがと、ござぃます……」
──だから、だから、だーかーらー!
くそ~……先輩はズルい……。
「なにより桑折と話しているあいだ、みな笑顔だった。──男は、特に」
「そーですかね~? 誰にでも同じテンションなんで話しかけやすいってゆーのはあるかもですけど……」
そもそも今日は先輩への対応もあったせいじゃないかなー? とも思う。
てか、あれだけめちゃくちゃしてたのにそんなこと気にしてたんだ……とか、あたしのこと結構見てくれてたんだなーとか、男子が特になんて細かいトコまで──って考えて。
思った。
「ん? 男子は特にって……もしかして先輩ちょっと嫉妬してます?」
わりと、ガチで。
あたしにとってもやっちゃった感ある、軽すぎた爆弾発言は。
「…………っ、…………っ」
──そこまで!?
ってツッコミ入れたくなるほどわかりやすく先輩が真っ赤になってうろたえてくれたおかげで、結果オーライになった。
いやオーライかは微妙かも。
……あたしもめっちゃ顔熱いから。
でもそれ以上に、片手で必死に顔を隠して、向こうを見ようとする先輩に、あたしはにやにやする。
「もー先輩~、子供じゃないんすからー」
……ヤバ。
今めっちゃ声うわずった。
冗談めかしてよゆーを出すつもりが、自爆したカンジになったので、いそいで話を変える。
「と、とりあえずお昼しましょ、お昼」
そうだ。こらえてた笑いをカイホウするのも目的だったけど、イチバンの目的はこれ。
うちの学校は中高一貫校で生徒の数が多いので、いろんな施設とかがおっきかったり多かったりする。
で、いっぱいある屋上もイチバンおっきい高等部第一棟だけが開放されていて、ここ──中等部第三棟はフツーは立ち入り禁止で誰も入れない。
じゃ、なんであたしたちはそんなトコに入れるのかってゆーと、まあいろいろあって昔カギをゲットしたからなんだけど……それはおいといて。
誰もいないのでドクセン状態のフェンス前に座って、購買で買ったパンと飲み物をテキトーに並べて準備かんりょー。
別に、今までも屋上でぼっち飯とかフツーにしてる。
お昼はだいたいトモダチと食べるけど、今日は一人がいっかなーってゆーときもあるから。
でも──隣に座った、まだちょっと顔の赤い先輩に、あたしはどうしようもなくにやける。
「へへ……やー、めっちゃひさしぶりっすねー、こうやって先輩とお昼一緒するの」
あたしは二年ぶり。
先輩は──二〇年ぶり。
ショージキ先輩とまたこんなふーにお昼食べれるって思ってなかったので……カンムリョーです。
「……正直また桑折とこんな風にすごせると思っていなかった」
「──あは、あたしが思ってることパクんないでくださいよー」
照れるじゃないっすか。えへ。
「同じことを……? ……そうか」
……なにそのすっごくイイ顔。
……ムリ。ニヤけすぎる。
きょとんとする先輩に、もう一回笑いかけて、パンとお茶を渡す。
「はい先輩。クルミパンでしたよね? 好きなの。それとも異世界で好み変わっちゃいました?」
「…………」
「なんすかその間~。……もしかしてホントに好み変わっちゃってたり?」
「いや……覚えててくれたんだな」
「え。ああ~。ま、まあクルミパン好きな人って少ないですし……」
ホントはよく先輩のこと思い出してたからだけど……。
「桑折に覚えてもらえていたのは──すごく、嬉しい」
「──」
だから、それ……それ!
「……どうした、突然変な体勢になって──まさか」
「なんでもないです! ダイジョブです! しまってください!」
先輩油断するとすぐに剣取り出したり魔法使おうとするから、うっかり悶えることもできなくて困る。
学校に来てからは、よけーに。
てか、学校生活を危険な状況とか言ってたし、緊張とかもしてるのかな?
なにせ二〇年ぶりだし……。
やー二〇年って……ホントすごい気がする。
想像しようとしても、あたしはまだ一六年しか生きてなくて、どう考えていいかわかんない。
それくらい長い時間を、先輩はココとは違うトコで、一人ですごしてきた。
考えれば考えるほど、今ここにいる先輩がキセキみたいに思えてきたり……。
「はー……マジすごいっすねー…………むぐ」
「…………おいしいのか?」
「んぇ? このパンすか? まあ……フツーっすね」
どんな流れ? って思ったけど、たぶん今のはあたしが唐突すぎてイミフだった。
パンもぐもぐしながら言ったのですごいのはパンの味だと思ったっぽい。
てか気つかってくれてるんだろーなー。
昔はあたしがなに食べてるとかぜんぜん言ってなかったし。
やっぱり異世界でいろいろあって、変わったところもあったりして……。
……んーそう考えると気になってくる。
「やっぱ異世界でも誰かとご飯一緒したりしてたんですよね?」
あたしが真っ先に思い浮かべたのはシャルティニアさん。
んー……あったんだろーなー。
あんま想像できないけど。
「…………異世界で…………誰か、と…………」
先輩は難しい顔でつぶやくとそのまま黙ってしまって。
あたしはすぐに察した。
「や、話しづらいこととかだったらスルーしちゃってください。ちょっと気になっただけなんで」
「いや」
喰いぎみに。
「どう話すべきか悩んでいたんだが──やはりこれが一番いい」
「え。まさか」
またあの三六〇度映画化の魔法──?
って最後まで言いきる前に、周りが真っ暗になる。
あいかわらず思ってからの行動はっやー……。
あたしはわりとダラダラしちゃうほうなのでそーゆうとこはうらやましい……ってそーじゃない。
「先輩、これ……」
「すぐ切り替わる」
本当にすぐ目の前が明るくなった。
青空の下、石造りの街が広がってる。
なんか、西洋の……ギリシャとか? そんなカンジ。
わりとテキトーめな石畳の道に、露天商っぽいのがいっぱい出てる。
人もすごいいて──
「って、ナニコレ!? 尻尾!? 角!?」
てっきりフツーに人かと思ったら、みんな尻尾とか角生えてる!
うわ~すご……顔は……あれ、フツーに人だ。
てか美形多い。
「■▽●☆◇だ」
「──なんて?」
「…………あー…………《メクトレ》のヒト種は、みな竜の血を引いていて……いわゆる亜人しかいない」
「なるほー」
アジンってゆーのがよくわかんないけど、人っぽいイキモノってことかな?
この世界の人はみんなこーゆう姿をしてるカンジ?
見慣れればそーゆうものかって思えるけど、こんな世界にいきなり行ったら……ビビるし、フツーの人めっちゃ目立ちそう。
先輩ダイジョーブだったのかな……?
「あれ、先輩は?」
「……そこだ」
先輩の指さした先。
噴水っぽいのがある広場のはしっこに、フードをかぶってうつむいてる人がいた。
「あ~、ぽいぽい」
ふんいきでイッパツってカンジ。
近寄って顔をのぞき込んで──
「え、ちょ……めっちゃ痩せてない!? ダイジョーブなのこれ!?」
今の先輩と比べたらアリエナイほど痩せてて、なんかもう今にも死んじゃいそう……こんなのフツーに焦る!
「と、とにかくなんか食べないと──」
『とにかくなにか食べて!』
めっちゃ声カブって。
あたしは隣の子が先輩(痩せ)に声をかけてたんだってわかる。
その子はなんかパン……?とか、スープ……?っぽいのを持ってて、先輩にすすめてる。
まーこの状態の先輩みたらそーするよね……。
と、ゆーか。
その子を正面から見て、フツーにビビった。
「や、待って待って……この子もめっちゃかわいくないっすか……!?」
背はあたしと同じくらいだけど、サラサラの銀髪がゲキヤバだし、顔ちっちゃいし、紫の瞳すっごいキレイだしおっきいし……肌はなにつけてんのこれ!? ってくらいスベスベでキラキラしてる。
よく見ると頭にちっちゃい角が生えてるけど、ぜんぜんそんなの気にならないってゆーかむしろ超キュート。
尻尾……は、ある、のかな……? てか足ほっそ!
はー……いやいや……え~……?
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