4 夢の扉

 きみに送ったはずの手紙がまだ手元にあるというのは、いったいどういうわけだろう。ぼくは確かに送ったはずなのに、また手元に舞い戻ってきてしまった。

 これでいったい何回目だろう。きみに同じ内容の手紙を書くのは。今思うと、ぼくにはぜんぶ夢だったような気がしてならない。本当は、ぼくは病院のベッドで寝ていて、きみに手紙を書く夢を見ているのかもしれない。それだったら納得がいく。全部説明がつく。ぼくは精神病にかかり、妄想に悩まされているにすぎない。いや、本当は、きみという人間すらいないのかもしれないと思うことがある。本当のところ、きみという人間がこの世にいないのだとしたら、ぼくは誰に向けて手紙を書いているのだろう。これまでの手紙のやり取りも、ぜんぶ幻想だったとでも言うのか。ああ、ぼくは気が狂いそうだ。これで何度目だろう。今度はちゃんとこの手紙がきみに届くことを祈っている。ぼくはさっさとこの狭い部屋から抜け出したいが、何か恐ろしいことが起きないか気が気でない。いまのぼくの判断はたぶんまったくあてにならない。ぼくが頼りにできるのはきみの判断だけだ。

 ぼくが、聞いて、それから見た通りのことはこうだ。まず、仰々しいラッパの音が鳴り、続いて、壁や天井を揺さぶるような怒号が室内に響き渡った。

『扉を開けよ。おまえの目の前にある。さあ、目を閉じて、見えない扉を開け』

 ぼくはとっさに目を閉じて、右手でそれをつかんだ。金属製の丸いドアノブのようだった。手にふれた感じは、前にこれとまったく同じものを触ったことがある、不思議な懐かしさを覚えた。目を開くと、ぼくの目の前には、見覚えのある木のドアが立っており、不思議なことに、ほかの空間はまったくの暗黒に包まれていた。ぼくが先ほどまでいた部屋は消え失せており、そこには見慣れた木の扉だけが、ぼくに開かれるのを静かに待っているようだった。

 ぼくは前に何度もこれと同じものを見たことがある。ぼくはこれを開けていいものか迷っている。きみの意見が聞きたい。


   (了)

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明晰夢 芳野まもる @yoshino_mamoru

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