第13話 不死英傑と尽きない馳走を憐れむべし
その時のジョードの複雑な気持ちは表現が難しかった。デヨンの誇る二大巨頭が史実通りに親友であったことへの嬉しさ、そしてそれを殺害するよりも、不名誉な状態においている自分たちへの怒りの強さへの恐怖。
カララッセは槍を掴むと、身体を捩じり全力で投げつけてきた。
腕が飛び、握っていた球が吸う命を失いキーが霧散してから、ようやくジョードは何が起きたのかを理解できた。
そして間をおかず、カララッセはジョードに肉薄するともう片方の腕を折り引きちぎった。同じくクロとアカも霧散してしまう。
「巨人は球ありきだな」
巨人のことを完全に把握されているのにジョードは気づいた。あの老人だけとは思えない、他の村人、否、英傑ならば察知されずに情報を盗むことも容易だろう。
「シュラサイド! 助けて!」
こうなっては『白銀』が頼みだった。巨人がなくては文字通り手が出せない。
しかし、肝心のシュラサイドは怯え切っていた。虚勢が圧倒的な実力差を前にして消え去ってしまっていたのだ。
「む、無理よ!」
「無理でも―」
ジョードは倒れこんだ。受け身を取るべき手がないことと、重心の喪失から足を切断されたのだと顔面を地面に打ち付けて、そのまま踏み潰されてから理解できた。
カララッセは球を奪い、ジョードの腰に足を置いて体重を込め動きを封じた。
「リアンドルはどこだ⁉ あいつが消えるわけねえ! どこに隠した!」
「シュラサイド!」
ジョードは必死に彼女の名を呼んだ。何としても球を取り戻さないと決定打が与えられない。
だが、『白銀』はカララッセにひと睨みされただけで戦意を喪ってしまっていた。
「デヨン天に目にもの見せるんだろ⁉」
「む、無理……」
カララッセはシュラサイドを殴り、ジョードの腰を踏み折った。
「どこだ!」
「シュラサイド! 『白銀』の名まで汚す気か!」
シュラサイドの目に光が宿った。
「な、なめるな!」
襲い掛かるシュラサイドをカララッセは容易く捌き、槍で首を吹き飛ばした。
しかし、その一瞬がジョードを解放へと導く。重心が軽くなった隙に抜け出した青年は、カララッセに飛び掛かった。
脅威ではない、しかし、より近い距離にいたジョードを排除しようとしたことがカララッセの失策であった。
シュラサイドが槍に自ら進んで貫かれ、雪を彼の顔面に叩きつけたのだ。拭うために手をやり、握っていた球を落とす。
ジョードはその球を再生しかけの手で握り、死による失神を受けながら現在した。
カララッセは冷静である、巨人の出現に伴い逃走を選んだ。
しかし、その足が止まる。笑みさえ浮かべて恍惚となる。
「リアンドル……お前どこ行ってたんだよ」
青のリアンドルがいた。ジョードが狙ったのではない、偶然の結果である。そしてそれは、より大きな危機を見逃させた。
「クロ!」
ジョードの叫びと同時にクロの光輪がカララッセを抉り取った。
上半身と右肩だけになったカララッセは、その瞬間すさまじい憎悪とともに二人を睨んで吠え、巨龍へと変じようとした。だが、すでにその肉体では異形の肉となるしかない。
さらなる光輪によって、ついに『王龍』も消滅してしまった。
脱力と歓喜でジョードとシュラサイドは座り込んで暫し呆然と互いを見つめあった。
「……あたしに命令したわね」
「……うん」
ひょこりとペペトナが顔を出す。
「おめでとう、ついに『王龍』まで倒したわ」
ジョードは反論する気も起きなかった。
デヨン天の両腕を落としたのは、さほどの勇名もない英傑と肉として飼われていた不死の青年。その事実は徐々にだが世に広まり、やがては不死者を掃討する作戦へと発展していく。
「あの老人は敵だったわ」
「今度から注意するよ」
しかし、当人はいたって虚脱するのみだった。
彼らの歩みはまだ、振り上げて降ろしてさえいないのだ。
不死英傑と尽きない馳走を憐れむべし あいうえお @114514
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます