第12話 別格
不死と言えど動けなくては打つ手がない、ジョードは生と死を繰り返しながら、クロに巨龍を襲うように必死に念じていた。
応じてクロが巨龍に飛び掛かった、両腕の刃を振り上げ、半輪から光線を放つ。彼をもってしても巨龍は数倍する、如何に巨体化が伺えた。
巨龍はクロを認めるとすぐさま回避行動をとった。巨人が不死者を滅する力を持っていることを把握しているのだろう。巨体に反して動きも素早く、悠々と半輪の光線を避けた。
足裏から解放されて息を吹き返したジョードは、アカとキーを握りこんで現在させる。命を吸われて覚醒と死を繰り返しながら、必死にこの苦境から逃れるために命令を下す。
「龍を!」
アカは飛び、キーはジュードを掴み浮き上がった顔で捕食しながら角で電撃を巨龍へ放った。
それぞれの攻撃をかわし、巨龍はクロを巨大な爪で切り裂くと勢いのままに尾で赤を叩き飛ばす。クロはバラバラになって霧散し、アカは投げた小石のように吹き飛んで小さくなってしまった。
驚愕するジョードの前で、巨龍はキーに向かって大口を開いた。無数の牙と赤く醜悪な口内が露出し、いぼだらけの舌が喉奥に引っ込む。
何かが来る。同時にジョードは思い出す、『王龍』が一息で国を『焼き飛ばした』逸話を。
しかし、思い出すまでが限界であった。
巨龍の放った焔の吐息は、キーとジョードを包み込んで一帯を焼き尽くした。ひと時ほども吐き続け、大地を『赤い粥』に変えた龍は満足げに咆哮をあげた。
直後、背後にクロが出現し半輪を輝かせた。煮えたぎる地の下に埋まりながら、ジョードは諦めていなかったのだ。巨人が損傷しても、再度球を握りなおして現在させれば蘇ることを今まで確かめなかった失策を悔いつつ、彼はこの奇襲が成功すると確信していた。
だが、凡人の策は英傑にとっての凡手でしかなかった。
『驚き』はしたものの、巨龍はすぐさま飛び立って光輪を飛び越えるとそのままクロを踏み付け、体重をかけて切断した。
と、不意に空の一点へ鼻を向ける。先ほど吹き飛ばしたアカが、ようやく戻ってきてその姿を視認できる距離まで迫っていたのだ。
大口を開けて舌を収納する、そのまま火焔を吐き出すかと思いきや、喉が大きく膨れ上がり鱗が無数に逆立って異様な姿作り出していた。
「―‼」
吐き出したのは火炎弾である。空気を切り裂き突進したそれはアカに激突し、周囲が紅く染まるほどの大爆発を起こして彼女を消失させた。
ジョードは決心した、ここはやり過ごすしかない。何度不意を打っても疲労しない不死者には、数を重ねての戦法は通用しまい。それよりも、自分が身動きできない状態にされることが危険である。
が、青年の計画は悉く完遂しない。
「『王龍』‼ わたしが誰かわかってるわよね? 『白銀』の英傑シュラサイドよ‼」
シュラサイドがわざわざ名乗りをあげて王龍の前に立ちはだかった。呪術で呼び寄せた雪でただれた大地を鎮火し、湯気の中でこれ見よがしに構えを取る。
ジョードは焦った、このまま大地が冷やされて固まりでもしたら脱出不可能ではないか。手足が傷つくのも厭わずあらん限りの力で足掻いて、どうにか雪の中から顔を出す。溶けた石土が雪に冷やされ固まり、体中にへばりついて来る。
「あれ? 貴様なんで―」
一人の青年と一人の英傑は焔に包まれた。巨龍の息吹で雪は全て溶け去り、再び一帯は灼熱地獄へと化していた。
「……けふっ」
「や、やるじゃないの……でもあたしにこんな―」
焔が途切れ、不死ゆえに未だ立っていた二人へ尾が振り下ろされた。そのまま尾が大地を叩き続け、二人を埋め込んで脱出させまいと苛む。
離れた小丘でペペトナが気だるげにその光景を眺めていた。尾が叩きつけられるのに合わせて、周囲の小石が浮き上がり揺れる。
彼女は焦らないし助けにも向かわない、不死者であるし、『天災』に立ち向かうほど愚かではなかったからだ。
だが、逃げ出さないのには理由がある。
尾を打ち下ろし続けていた巨龍が身軽な動きでその場を飛び立つ。
やや遅れて、アカが長い髪を縦横に伸ばして龍へ光線を浴びせんと現在していた。熱せられ泡立つ地面から二人をかきだし、掌へと乗せる。
溶けた石土に塗れ、再生と破壊、巨人による生命の吸引に晒されながらジョードは鬼気迫る勢いで巨龍を睨みつけているのだった。
英傑シュラサイドはすっかり怯えきっており、直前までの勢いも自信もどこにもなかった。なまじ才に恵まれているだけに、『王龍』との差を痛感してしまったのだった。
「に、逃げるのよ……あんなの……」
「しっかりする、雪で炎を消化して……ほら」
ジョードはそんな彼女を励まし、球を握りこんで巨人を展開させる。貼りつく石土を引っぺがし、死に際する暗転に備えて指示を与える。
「やって!」
「で、でも……」
「やるんだよ『白銀』シュラサイド!」
ペペトナが見たかった、青年が意地だけで足掻く姿があった。現世に何の執着もないが、この青年の野望の行きつく先には興味がある。とはいえ、あくまで傍観するのが目的であり介入はしなかった。
巨人たちは猛攻した。
キーが電撃で巨龍を封じようとし、アカは髪と伸縮する四肢で捕らえんとし、その回避を狙ってクロは光輪を打ち出す。
そのすべてを回避した巨龍であったが、流石に辟易したのかその姿を変じた。巨体よりも人間大の方が当たりずらい。
逆立つ髪とふてぶてしい自信家を覗かせる顔、裸の筋骨隆々とした上半身に刻まれた龍の刺青、背負った槍。『王龍』カララッセの若々しい英傑がそこにあった。
宙にありながら容易く弾幕を潜り抜け着地し、巨人たちとジョードらを睨みながらカララッセは叫んだ。
「リアンドルはどこだ⁉ 俺の友達だ!」
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