ランボー者

総真海

ランボー者

 誰だ、冬は慰安の季節だなんて言ったやつは。


 冬は冒険の季節だ、帽子を目深く被り、マスクをつけ、分厚いコートのよろいに身を包んだなら、もうそいつは別人だ、おまえじゃない、外に飛び出すんだ、いままさにおれたちの放浪が始まる。

 おれは機嫌良く歌い出す。おれは架空のミュージカルとなった。街も通行人たちもおれの芝居を無料ただ見する。彼らから観覧料を取ってやろう。お代はアブサン、いや酒なら何でもいい、とにかく悪酔いのするやつだ。まあ、おれはもうとっくに酔ってやがる、酔いどれの船、帆を広げてどこまでも。

 水平線の先に何が待つ。何も待ってやしないさ、ただ夕日が落ちるばかり、見飽きたやつ。だがおれは笑って、あいつに向かってこう叫ぶ、

「野郎、また見つけてやった!」

 ──何を? 

「絶望を! せいに至るやまい(おっと、こっちは女性名詞だった)」。

 そう、おれは死なない、まだ今は死なない、少なくともあの高い塔の鐘が街中に鳴り響き、家々の窓から子どもたちの夢だの希望だのが立ち上って天高く舞い、消えていったかと思うと、紫がかった灰色の鳥の大群が網のようにこの世を覆い、隅々にまで糞を落とし散らすのを見届けるまでは。

 おれはまた歩き出す、今度は二本の足を使って、タコみたいに。

 え? タコは八本足だって? 

 そっちじゃないよ、宇宙から来るやつ、ほら囚われの、哀れなみじめな、それでいておれたち人間なんかよりはるかに高度な文明を持っている、おれたちにその不恰好さで油断させて近づいてきてアタマをバクー!と喰らっちまいそうなやつ。きっとそいつは言うよ、ゲップしてにやにやと歯を見せながら。「ああ、不味かった。なんてひどい罰ゲームだ」。

 おれは仲間を救い出そうとそいつの腹を蹴る。くす玉みたいに割れた頭から汚物が吹き出して虹を描く。きらきらとぐるぐると、やがて集まって銀河になった。

 ダークマターはまだ存在しない、透明の、限りなく無垢の宇宙の誕生。おれはそこへ涙を降り注ぐ、すると宇宙は進化した。何に?

 さあ、答えろ、五秒以内に。おっと振り向くなよ、おまえのいびつな後頭部に銃口がくっついてるのが分からないのか、今。

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ランボー者 総真海 @Ziming22

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