勇者達の活躍を密着リポートしてみた

PKT

勇者:タツミ 守護神:ベイト

「では勇者殿、まずは自己紹介を」

「おうぇっ!?なんだよ唐突に」

「言ったでしょう?これは勇者への密着リポートだと」

「何も俺でなくてもいいじゃない!そして、モンスターに四方を囲まれてる今でなくてもいいじゃない!?」

「俗に言うでしょう?鉄は熱いうちに打て、魔王は蘇る前に討てって」

「前者はともかく後者は聞いたことないんですが!何それ!?異世界での慣用句みたいなもんなの!?」

「いや、なんとなく思いついたので言ってみただけですが」

「自作かよ!」

「そんなことより、自己紹介を」

「どうあってもやらせるつもりかよ!?……名前はタツミ!この世界へは昨日降り立った!今は小鬼の群れに囲まれて応戦中!絶賛、パーティと援護を募集中!」

「そんな状況でも自己紹介とは、ずいぶん余裕ですね」

「お前がさせたんだろうがっ!!」

「絶体絶命のピンチにある勇者タツミ!彼はこのまま惨たらしく殺された挙句、勇者の名を穢す恥さらしとして永久に笑い者としての地位を欲しいままにするのか。それとも、足りない頭で逆転への糸口を見つけ出すのか!?」

「煽りに悪意がありすぎる!!」

「後半へ続く」

「テレビ番組!?アイキャッチでも入るの!?」

「このインタビューは、ご覧の勇者と……私たち守護神が、お送りしています」

「そんな提供紹介があるかっ!!しかも、俺は半ば強制だし!!そしてもう一度言うが、テレビ番組かっ!!」

「ツッコミが長いんですけど。尺の関係もあるので、もっとスマートにお願いしていいですか?」

「ボケの内容量が多すぎるんだよ!!」

「お褒めに与り恐悦至極」

「褒めてねえやい!ていうか、定番のボケをするなし」

「はい、それではCM明けまーす」

「だからっ!テレビ番組の生中継か何かですか!?」

「ほらほら、小鬼たちが飛び掛かってきそうですよ?」

「うおっ!?こうなりゃやったる!やったるぞお!!うらああああああっ!!」

「おお、これはすごい!四方から襲いかかってくる敵を、勇者がバッタバッタと斬り倒しています!二日前までは、地球で冴えないフリーター暮らしをしていたとは思えないほどの奮闘ぶりです!」

「最後のは余計だ!」

「何か、戦闘のコツなどはあるのでしょうか?」

「ねえよ、んなもん!神とやらに貰った力をフル活用して、ただ我武者羅にやってるだけだっつーの!!」

「はん!所詮はあんたも、神からの手助けがなければ戦えないパンピ-というわけか。これが勇者だっていうんだから、とんだお笑い草ですなぁ。まさしく草が生えますよ」

「てめえらが勝手にこの世界に呼びつけて戦わせてんだろうが!」

「でも、その手の小説とか読んで、異世界行ってみたいなぁとか、勇者になってちやほやされたいなぁとか思ってはいたんでしょう?」

「それは、まあ、否定できんが。っと!あぶねえ!この小鬼ども、油断も隙もねえ!!」

「なら、この状況は望み通りでしょう。異世界の地で、まさしく勇者として戦い、そしてインタビューを受けているわけですから」

「一番最後のは望んでねえよ!!」

「私たちがこのインタビュー内容を庶民に公開すれば、貴方の知名度と人気はうなぎのぼりですよ?」

「ここまでのインタビューの内容を公開しても、好感度が上がったりましてや尊敬の対象になるとは思えんのだが!!」

「いえいえ、そのあたりは我々が勇者譚にふさわしいように脚色しますので」

「そ、そうか?まあ、そういうことなら」

「小鬼に囲まれた勇者は、しかしたった一人でもあきらめなかった。彼の目から戦意は失われていなかった」

「お!なんかそれっぽいな!」

「勇者は、女子高生の制服を身に着け、スカートの中が見えないよう細心の注意を払った足運びにより、手に持った大根の一撃にて確実に小鬼たちの頭にたんこぶを作っていった!」

「脚色しすぎだろ!元の色が塗り潰されて見えないレベルだわ!!」

「……お気に召しませんか?」

「召しませんねえ!!心底不思議そうに首を傾げてんじゃねえよ!だいたい、俺はちゃんとした防具を身に纏ってるっつーの!軽装だけど、最低限の装備はしてるっつーの!」

「じゃあ、ビキニアーマーという事で」

「軽装過ぎるわ!!女戦士かっ!男がそれ着たって、サービスどころか変態にしか見えねえよ!」

「事実変態でしょうに」

「謂れのない誹謗中傷はやめてもらえますかねえ!!」

「では、服装は修正するとして、大根のくだりはそのままという事でよろしいか?」

「よろしくねえよ!?ちゃんと目ん玉ついてんのか!見ての通り、鉄の剣を振るってるだろうが!事実を描写しろや!」

「勇者は鉄の剣を闇雲に振り回すだけであった。しかし、神に与えられた膂力によって、そんな雑で知性の欠片も見えないチャンバラごっこでも、敵に一定の損害を与えることに成功していた」

「事実!でも、表現に悪意がありすぎるわ!余計な描写は削れ!もっとシンプルにカッコよさを伝える文章で!!」

「勇者は剣を振り回して魔物を倒した」

「シンプルすぎ!あまりにもダサい!ちょっとだけ肉付けして!」

「勇者(童貞)は剣を振り回して魔物を倒した」

「蛇足!誰がそんな情報を付加しろと言ったよ!」

「……注文の多い勇者様ですね」

「そうですかねえ!」

「そんなに描写を気にするなら、相応の立ち回りや剣捌きでも身につければいいでしょうに。自らの未熟を記述で誤魔化そうとするなど、それでも勇者ですか!恥を知りなさい!」

「正論ごもっとも!すいませんねえ、未熟な勇者で!!それは認めるけど、釈然としねえ!!」

「なんだかんだ言いながらも、周囲の小鬼を全滅させている勇者であった」

「ツッコミ入れてたらいつのまにか片付いてたんだよ!」

「さすがは勇者様。片手間で魔物の群れを片付けるとは」

「お褒めに与り恐悦至極と返してやろう」

「では、この後の予定についてお伺いしたいのですが」

「とりあえず、敵の第二陣が来てるんで、それを殲滅するわ」

「えー?もう戦闘描写は充分なんで、他のシーンをお願いしたいんですが」

「いやいやいや!何でお前の都合でシーン転換しなきゃいけないの!?ていうか、魔物を倒すのは勇者の責務だろ!ここは戦わなきゃならない場面だろう、勇者的に!」

「そんな事言っても、同じシーンが続くと飽きてしまいますよ?主に読者が」

「何の心配してんの!?この世界に生きる人達の心配とかしようよ!ていうか、読者って何!?どういう事!?」

「しょうがないですねえ。とりあえず、勇者的には目の前の小鬼たちを殲滅する事を優先すると」

「無論だ!ここで退くわけにはいかないだろう!疲れはあるが、このまま連戦――」

「失せろ雑魚共。私の都合と話しの尺と読者の為に!セイクリッドジャベリン!!」

「うぉい!?小鬼たちが一瞬で消し飛んだ!?どうなってやがる!?」

「さあ、雑魚は殲滅しておきました。心置きなく、次のシーンに参りましょう」

「もうお前が勇者やれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

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