第38話
ーー その夜 三輪の宿の裏手 ーー
ミーテに木桶と頑丈なロープを貰い、中に(スライムは雑食で特に好き嫌いも無いそうなので)そこら辺から毟ってきた草と飛び出さないように小石を入れる。
「行くぞ!! 作戦開始だ!! 」
桶を井戸の中に放り込む。桶越しに柔らかい弾力が手に伝わる。
段々と縄を引く桶の重量が増していく。
「引き摺り出すぞ!! ぬぅうん!! 」
俺は全力で縄を引っ張る。すると井戸から緑色の透明なジェル状、スライムがその姿の一部を現した。
スライムは桶が井戸の外に出てもまだ少し後から着いてきた。桶を包んだ半透明な緑色の体はバランスボールよりも一回り大きい。
「うわ、もう一体出てきた!! 」
仲間が引き上げられた事に危機感を抱いたのか似たようなサイズのスライムがもう一体井戸から這い出てきた。
蠢く大きな半液体は想像していた可愛らしいものでは無くいざ目の前にしてみるとおぞましさと嫌悪感から背筋に寒気が奔る。
「俺から仕掛ける!!たああッ!!」
聖剣を上段に構えスライムとの距離を詰める。右足を前足に踏み込み斜めに斬り降ろす。大した抵抗も無く刃は二体のスライムの身体を通り抜けて行く。
「ノーダメかよ!!......って、おわああ!?」
「コウイチ君!!」
二体のスライムが俺を包み込もうと上と左右から覆ってくる。が、俺は直ぐに後ろに飛び退き間一髪回避する。
聖剣に付着した細かいスライム片は剣を振って落とす。
少し考えればわかることだった。なにせスライムは流動的な身体をしている。幾ら剣で斬りつけても効果などある筈がない。
ならば、と俺は《
「光よ貫け!!『
突き出した聖剣から、真っ直ぐに光線が放たれる。
光線は片方のスライムを貫きブスブスと黒い煙を上げる。
「焼き切るッ!!セィアアア!!]」
俺が更に力を込めると光線は大きく、光が強くなる。そして剣を振り上げスライムの上部を消滅させる。一体は最早、ドラム缶一杯分程のサイズとなった。それも直ぐに焼き払う。
一方、もう一体と戦っていたイナホも魔法を使っていた。聖剣に電気を溜めているのだろう、イナホの
イナホは白熱球の様に発光する剣の切っ先をスライムに構え突っ込んだ。
「くぅらぁええ!!『ボルタ、クラーーッシュ』!!!!」
突き刺した剣から溜めた電流を一気に放電する。
殆どが水の体に大量の電流を流されたスライムはたちまち黒い煙を上げて溶け出した。電気分解が発生し僅かに刺激臭が漂う。
「任務しゅーりょーっと。」
「イナホ、ガスが発生してるから発火しないように気をつけて。」
「うん、リョーカイ。」
剣に帯びた電荷が収まったのを確認してイナホは剣をスライムから引き抜き鞘に仕舞う。
「ふわぁ......」
夜も深くなってイナホが欠伸をする。思わず失笑してしまったが俺も貰い欠伸をしてしまい、逆に笑われた。
「宿に戻ろうか。」
「そうね。」
これにて依頼は完了だ。
六勇者物語 四々十六 @isoroku4416
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