障害者除外法案

@akira050505

障害者除外法案

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません




「仕事だって研究だって何だって効率や改善を求めるだろうが!それと同じだよ!」


男が大声で怒鳴りちらす。


「そうは言ってもですね。この国では全ての国民に人権があるわけだし、障害者を全て排除と言われてもねぇ…」


円卓の向かいに座る髪も髭も白く、眼鏡をかけた男がなだめるように応える。


「そうよぉ。皆違っていいの。それも個性だもの」


女性的な口調の背の高い男性がそれに続く。


「昔は労働力にならない老人を山に捨てに行ってたし身体の弱い子供は口減らししてたよな!なんで今はそれが駄目なんだよ!」


円卓の中央に座る司会者の男性が話の流れを無視して言う。


「さて、それでは今夜はこの辺で。また来週~」


怒鳴る男性に一度カメラが寄り、怒り狂う男性を映しながらカメラが遠ざかり番組は終了。



「くそ!なんで理解できないんだよ!いらねぇだろ、障害者。役に立たねぇあいつらの為に医療費だの事業工事だの無駄な金が流れてんだよ。それを他に向ければもっと世の中は良くなる!そんな無駄な金があるなら俺の物に!…そうだ。俺がそうすればいい。俺が変えればいいだけじゃないか!決まれば誰も文句は言えなくなる!」


人ひとりが持ったとしても何の効力もないこの考えもこの男の場合は違った。やっかいな事にそれを形に出来る立場にいたのだ。

それからと言うもの、国会にも出席せず、他の政治活動も一切行わず、ただの独りよがりな法案を押し通す為だけに日々を過ごした。

身勝手な行動をしていても肩書きと議員であるというだけで生活できるこの国の根本はどこか間違っているように思えた。


月日は流れ、男の法案は形になりつつあった。




「ほら見た事か!俺の言う通りになっただろう!」


お昼の生中継のTV番組の中で男は上機嫌で話す。

国会で度々流れを無視して自分の法案の時間を設けようとする男に周りも対応に困りはて、その話題を強引に終わらせようとした。

その方法が生放送のTV番組で多数決を取り、過半数を超えれば可決しようという案だった。勢いでそんな事を許可してしまうこの国の根本は間違ってるように思えた。


「私には未だに随分と暴力的な法案に思えますけどねぇ」


困り眉で司会者が答える。サングラスをかけているので目からは表情を知る事はできない。


「効率や最善を目指すのなら間違ってないんだよ。さぁ時間も限られてるんだ。さっさと進めてくれたまえ」


男はガハハと笑いながら司会者の背中を叩く。

そうかねぇ。といった風で頭をかきながら司会者は観覧席の観客に説明を始める。


「それでは本日観覧に来ているお客様100人の中から10名、あなたに選んでもらってですね。その10人で投票の結果、可否をきめよう。という事になっておりまーす」


テンションの低い喋りのまま番組を進行する。


「そうか!じゃぁそことそこと、あと眼鏡のお前!あとはそうだなぁ。決まったも当然なもんだし…そこの車椅子のお前!1票くらい反対の票もないと面白くないからな!」


男は会場から100人の中から無造作に10人を選び出した。


「それでは投票結果に行く前に。一旦CMでぇ~す」


軽快な音楽と共に番組はCMに入った




CMの間、選ばれた10人は手元にあるスイッチで可否を選び終えていた。


「それじゃ結果を見てみましょう、どうぞー」


セット中央に置かれた可・否と書かれた下のそれぞれの数字が動き、ドラムロールと共に結果が出された。


可 : 否

4  : 6


「よしよ…し…あれ?これ機械逆なってるよ。まったく、これだからテレビは駄目なんだよ!しかもなんでこんなに割れてんだよ!くそっ!俺が直接集計してやるよ!」


上機嫌から一転、顔を真っ赤にした男が観覧席に詰め寄る。


「車椅子!お前はどうせ反対なんだろっ!解りやすい所から行ってやるよ!」


男は車椅子に座った男を指差す。


「私?…いえ、実は私、可のスイッチを押しちゃいました。元々人口増えすぎだなー。私の手でちょっと減らしちゃう?なんて思ってたので貴方の法案に賛同して今日は観覧に来たんですよぉ。ひょっとしたら法案可決の際に最初の除外者として死後も歴史に名を残すかなー。なんて思っちゃったり!」


車椅子の男は少し照れながら答える


「はぁぁああ?お前、おかしぃんじゃねぇの?お前は身体だけじゃなくて頭もおかしいよ!じゃぁ次、お前!」


眼鏡をかけた男を指差す。


「僕は反対。理由はあなたの案だと僕も除外対象になるんだよね。視力が低くて眼鏡を外すとほとんど見えないんだ。知ってた?眼鏡っておしゃれアイテムじゃなくて医療器具なんだよね」


眼鏡の男は右手の人差し指でくいっっと眼鏡を上げながら聞いていない事まで得意気に話した。


「腹立つ言い方!俺の法案が通ればこんな奴も居なくなるから平和なのに!次、お前!」


男はCM前に選んだ残りの8人を順番に指差していく。


「重度の糖尿病でずっとインスリンを打たないといけないので。すみません…」

「色覚異常も除外対象だったので反対を選びました。まだ死にたくないので」

「胸にペースメーカーを入れています。だから反対を押しました」

「お前が嫌いだからお前が困る方を選んだ。以上」

「単純に人権侵害だと思う」

「貴方の意見も一理あるし、俺は除外対象じゃないから可を選んだ」

「左右のスイッチを同時に押したのでどっちを押したか自分じゃ判断効かないッス」

「ワシの左手は義手じゃ。当然、否!そして次にお前はそんなバカな…と言う…」


一通り聞き終えた後に男は膝をついた。


「そ、そんな…バカな…」


怒りに震えた声で男が呟く。


「逆転ちゃ~んす~」


テンション低いままの声で司会者が拳を上げる。


「…は?」


男は口を開けたまま司会者の方を向く。


「いやぁ、このままじゃあんたも帰れないでしょ?実は私が前もって進行に多少問題が出ても可決されるように働きかけてたんですよ」


膝をついていた男を抱え起こしながら司会者はにこやかに話した。


「そ、それじゃ…この多数決は関係なく俺の法案は可決されるのか?」


男は司会者の両肩を掴み、激しく揺さぶりながら怒鳴った。


「落ち着いてー。こっちが私がお願いした案なので、追加された文もあるし確認の為に今から読み上げます。えーーーと」


書類をめくり、司会者が読み上げようとすると同時に


「いや、いい!読まなくていい!読むな!あと5分もしないうちに番組、終わるだろうが!」


司会者が変更点を読み上げようとするのを遮り、書類を奪い取り、男が叫ぶ。


「そうですねー。全部読み上げて確認すると少なくともあと30分は…」


「俺の集大成なんだぞ!生放送中に華々しく可決しようとしてたんだよ!大した変更はないんだろ!どこだ!どこに俺のサインをすればいいんだっ?」


書類を乱暴にめくりながら男が叫ぶ。


「そうですねー。一番最後の紙の一番下に名前と拇印を押せば可決されます」


司会者が言い終わると同時に男は書類の一番最後の紙に署名と拇印を押した。


「こ、これでいいのか!これで可決されるんだな!絶対だな!」


自分の署名を司会者に見せつけながら男は言う。


「そうですねー。これでこの案は可決されました。そしてそろそろ番組終了のお時間です。それでは、また明日もいい天気かな?」

「そうともー!」


少しテンションと声を上げた司会者がカメラに向かってマイクを向け、観覧者が呼びかけに応え、お昼の生放送番組、笑ってそうてん!は終了した。



「流石、名司会だな!あんな根回ししてくれるなんてよ。ホント助かったよ!今夜はいい酒が飲めそうだな…そうだ!あんたも一緒に一杯どうだい?」


男は笑顔で司会者に肩を組みながら話しかける。


「私もご一緒したいんですけどねぇ。残念ながら主役の貴方がいないので」


そう答える司会者は少し残念そうな顔をしているが口は笑いを堪えているようにも見える。サングラスで目の表情は読めない。


「は?いや、俺はここ数年、この案を通す事だけをしてきたんだよ。それがさっき終わったんだ。別にしばらく好き勝手に自由に過ごしたって大丈夫だし、金だって毎月、多分あんたと同じくらいもらってんだ。財布は心配するなって。俺が奢るからよ」


TVの第一線で活躍しているタレントと何もしていない政治家が毎月同じ位の金銭を得る。この国の根本はやはり間違っているのだろう。


「いえ、あなたはこれから可決した法案の除外対象として処刑されるのです。早く行った方がいいですよ。準備とか色々あるでしょうし」


笑顔のまま一瞬で顔を真っ赤にして男が怒鳴る。この類の人種は頭に血がのぼりやすいのだろう。


「言ってる意味がわかんねぇよ!バカ野郎!なんで俺が除外されるんだよ!お前も頭がおかしいのか!」


司会者に掴みかかろうとした瞬間、周りの警備員達に取り押さえられる。


「先程読み上げられなかった法案の追加部分。あれには”他者に肉体・精神に危害を加える者のみ対象とする”という文が追加されてるんですよ。つまりただ障害を持ってるだけでは対象にはならないのです。障害があり、そして他者に害意ある言動を行う者だけ対象という事です。無駄に発言権のある貴方が国会で暴れるのを周りも良く思わず、貴方を排除したかったんでしょうね。そのお陰で私の案もすんなりと受け入れてくれましたよ」


床に押さえつけられている男の前にしゃがみこみ、淡々と司会者は話す。


「ふっ、ふざけんなよ!なんでお前がそんな事するんだよ!視聴率の為か?」


「ふぅ」とため息をついてから司会者が答える。


「貴方は障害者を何もできない者として全て排除しようとした。実は私も貴方の言うところの障害者なんですよ。ほら」


そう言うと司会者はサングラスを外して顔を男に近づけた。


本来、司会者の右目がある箇所には眼球を模した人工物が光っていた。


「…くそっ!じゃぁなんで俺が対象なんだよ!どこも悪くないだろうがよ!」


すでに拘束具を付けられてもなお、床でもがきながら男が叫ぶ。


「いいえ。貴方は精神に障害があると診断されています。メディアを通して不特定多数に堂々と「貴方を殺します」なんて言ってるわけですよ?まともな神経ではないのは明らかでしょう」


司会者はやれやれと首を左右に振った


「国もそういう危険な思想を持つものは排除したいという事で私の案を支持したわけです。今の所、全国民のうち、貴方と観客席に居た車椅子の彼だけが除外対象になっています。と言っても彼はもうこの世には居ないかもしれないですね」


車椅子の彼。つい先程まで観覧席に居た人物の事だろう。


「彼自身も排除を望んでいたし、自主的だと痛みや苦痛も無く処刑されるようです。逆に逃亡や抵抗して期限内に処刑されない場合、全国民が貴方の処刑権を持つようになっています。もっとも除外対象になった時点で既に法には守られない存在なんですけどね」


ようやく死から逃れられないと気付いたのか、男は青ざめた顔で震えだした


「顔色が悪いですが大丈夫ですか?ああ、気をつけてくださいね。怨みとか買ってたら処刑前に監禁されて拷問。そのまま衰弱死なんて可能性もありますから。さて、私からは左目だけで見る世界を貴方に与えましょう。そちらの警備員は前歯3本がインプラントで…おや、ペンチ持参とは用意がいい」



おわり

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