星をあげただけなのに……。

サクヤ

短編

 僕の名前は渡辺 剛。


 最近ハマっているものがある。それはネット小説だ。読むたびに作者一人一人の想い描く世界に僕は没頭していった。


 小説は食糧……1週間に最低10万字は読む僕にとってはそう言っても過言ではなかった。


 そんなある時、僕は不思議な異世界ファンタジーの作品に出会った。

 作品名は「トンレセクエ」重厚なストーリー、そして個性的なキャラに僕は惚れ込み、完結まで読み込んだ。


 僕は感動のあまりとにかく作者様にこの想いを伝えたいと感じ、評価の1つである星を3つ付けようとした。


 ふと思い出す……そう言えば、あらすじに『この作品が面白くても星を付けないで下さい』そう書いてあったな。


「まぁ何かの冗談だろ」


 その時の僕は深く考えずに星を付けて就寝した。




 翌朝も僕は感動の余韻が残っており、佳境の部分をサッと流し読みしながら考えた。


「僕もあんな作品を書きたいな~」


 そんな想いが日に日に募っていき、僕はローマ字だけだったアカウントに名前を付けて、SNSに専用のアカウントを作って関連付けた。


 ここから僕もデビューだ!


 僕は親友である春斗にすぐに電話した。


「春斗!僕、小説書くからSNSのフォローよろしくね!」

「おいおい、いきなりだな。まぁいいや、了解した!お前の小説楽しみにしてるぜ?」


 こうして僕はファン第一号を獲得したのだった。



 数日後、仕事中にスマホがやけに振動してるのに気が付いた。休憩時間に通知を見てみると……。


 フォローされました。+100


 え?どういうこと?まだ下書き段階で何も公開してない僕にフォローが100件!?


 アカウントをよく見ると先頭2文字が10と言う数字に、適当なローマ字だけのアカウントばかりだった。


「おい剛!この書類間違ってるぞ!」


 どうやら確認してる間に休憩時間が終わったようだ。僕はすぐさま頭を切り替えて仕事に戻った。


 仕事が終わった後にスマホを確認すると、また大量のフォローが届いていた。


 フォローされました。+50


 アカウントを見ると今度は5と言う数字に適当なローマ字のアカウントばかりだった。さすがに怖くなった僕はアカウントを削除して通勤電車に乗ることにした。


「これで大丈夫だろう……一体僕が何をしたって言うんだ?」


 ここ最近で何か変わった事をしただろうか?自分なりに考え抜いた結果、1つだけ思い当たる事があった。


「まさか……星を付けただけで……?」


 そんなわけないだろう、星もらったら嬉しいはずだし……。


 ブーブーブー


 え?


 僕が再びスマホを開くと、今度はSNSの方でフォローがドンドン増え始めた。アカウントを確認すると今度は3と言う数字に適当なローマ字のアカウントばかりだった。僕は大急ぎでSNSのアカウントも削除してこれ以上スマホが振動しないことを祈った。


 か、数が減ってたよな?


 僕は電車から降りて走って家に帰ることにした。


 そして途中の公園辺りで再びスマホが振動し始めた。恐る恐る画面を見ると『春斗』からの着信だった。


「もしもし?」

「おお!剛か、お前水臭いよな!彼女出来たなら報告しろよ!」


「……は?彼女とかいないよ?」

「またまた~お前、例の専用アカウントに彼女も誘っただろ?お祝いに何か贈りたいけど住所忘れたから教えてくれってDM着たんだわ」


「もしかして……教えたのか?」

「あ?不味かったか?」


 僕は今日の出来事を春斗に伝えた。


「マジ悪い!!」

「いや、いいけど……教えたのはいつ?」


「1時間くらい前だな。とりあえず必要な物だけまとめて鍵掛けとけ!すぐに迎えに行くからそれまでじっとしてろよ?」

「うん、わかった!」


 僕は大急ぎで走ってアパートまでたどり着いた。階段を上って自分の部屋に行く途中、4つ隣の扉が落書きされていることに気付いた。


 そこは誰も住んでおらず、扉には真っ赤な字で『2』と書かれていた。


「うわあああああああああああ!!!!」


 僕は震える手で鍵を開けて中に入り、チェーンを付けて台所のテーブルに突っ伏した。


 テーブルから頭を上げると、ハラリと小さな紙が落ちた。拾い上げて見てみると。


 1→0


 それを見た僕は背筋が凍り、そして背後に何かの気配を感じて───。






 今朝未明、○○県のとある住宅街で住民1人が四肢を切断され死亡する殺人事件が起こりました。


 死亡したのは渡辺剛さんで、死亡推定時刻は昨日の夕方から深夜かけて。死因は四肢切断による失血死でした。


 通報したのは、合鍵を持っていた友人男性で、現在精神状態に異常が見られ、警察同伴のもと病院へ向かいました。


 尚、室内の壁には血文字で『Excellent!!!』と書かれており、警察は友人男性の精神状態が落ち着き次第、事情と共に文字との関連を聞く方針です。

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