第4話「不死の樹海」

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 精霊の泉から街へ戻った俺たちは諸々やるべき事を終え、傷の手当と情報交換のために泉で会った冒険者マーカスを連れて神社にいた。

 「そうか、キリートは錬金術師だったのか。冒険者ギルドの登録がまだだったたぁ思わなかったぜ。」

 「ああ。登録するのは後回しでいいかと思っていたが...まさかギルドの討伐対象と鉢合わせるとは、さすがに想定外だった。」

 あれからマーカスが半魚人の討伐報告に冒険者ギルドへ寄った為、俺たちも一緒に冒険者登録を済ませてきた。これで、冒険者ギルドから依頼を受ける事ができる。

 ちなみに、冒険者ギルドは街の中心街にある。俺の店から神社へ行く途中に通り過ぎた場所だ。

 「で、水の次は薬草って話だったか。だったら街の南門から出て南東に暫く行った場所にいい所があるぜ。但し、それなりに曰くのあるやべぇ場所だがな。」

 「街の南東って言ったら『霊峰』でしょ?っていう事は『霊峰樹海』のこと?」

 男同士の会話にライディが割って入ってきた。

 「おうよ。あの場所は、通称『生きている樹海』って言われてんだ。場所がら、植物の魔物が多く生息してんだが...奥地に入って出られた人間はいねぇって噂があんだよ。」

 「えぇー...そんな危険なところに行くの?」

 「噂だっつってんだろ。そもそもそんな奥まで行くアテはねぇよ。んで、植物の魔物の残骸がいい薬の原料になるし、普通に生えてる薬草もそれなりに質が良い。キリートにとっちゃあ、絶好の採取場所なんじゃねぇかと思ってな。どうだ?」

 「そうなのか。しかし南東に暫くとは...具体的にはどのくらいの距離なんだ?」

 「そうだな...朝イチでここを出たら、昼頃に霊峰樹海に着く。目ぼしい場所を探して帰ってくれば...まぁ日付は変わらんだろうが夜だな。」

 「分かった。情報提供助かる。では、明日の夜明けに街を出るとしよう。」

 「おう。で、もうちょい話を続けさせてもらうがよ、オレ様も一緒に連れてっちゃくんねぇか?」

 それは、俺たちにとって思わぬ提案だった。マーカスは、あの時たまたま俺たちと出会って一緒に魔物を討伐しただけの間柄のはずだ。彼が冒険者で、俺の目的が薬草の採取である以上、一緒に付いてくるメリットが彼にはないと思っていた。

 「何故かって顔してやがんな...まぁ、オレ様の人探しのついでだ。あまり深く語る気はねぇが、見た目が人間に近い機械人の女を一人探してる。冒険者なんてやってんのもそれが理由だ。」

 「そうか、分かった。利益の一致があるなら、こちらも拒む理由はない。」

 「話まとまった?ボク、じっちゃんと姉貴に相談してくるよ!」

 「おう。特に今回の場所は、魔力に長けたお前らみてぇな奴らの力が要る。サボんじゃねぇぞ。」

 マーカスの話も途中に、ライディはぱたぱたと部屋を出ていく。

 「さて、オレ様も宿に帰らぁ。明日の日の出、南門集合。頼むぜ。」

 そう言ってマーカスも立ち上がり、部屋を出ていった。暫くして「邪魔したなぁ、縁がありゃあまた来るぜ!」という声が俺のところまで聞こえた。

 俺も帰ろうと思い立ち上がると、丁度クライン爺が部屋に来た。

 「おぉ、お主も帰るところじゃったか。明日の朝、ライディとエアロナも向かわせるでの。無事に帰って来るのじゃよ。」

 「助力は有難いが...今更だが、本当にここは大丈夫なのか?」

 「ほんに今更じゃのぅ。災厄が終わってから今までずっと、同じような圧力は続いておった。じゃが、今もこうしてここは残っておる。これ以上の説明は要らんじゃろ。」

 「そうか。俺の杞憂というなら、明日も有難く二人の手を借りていこう。」

 クライン爺に一礼し、俺も今日は店へ帰ることにした。



 翌日の朝一番。俺は約束より少々早く街の南門に到着した。

 「よお、お前も約束事には堅いタチか。」

 「おはよう。まぁな。」

 「上等だ。この世界は信頼で成り立ってる。お前も商売を志すなら、忘れんじゃねぇぞ。」

 お前『も』という言葉に若干の違和感を覚えたが、それをマーカスに問う前にエアロナとライディがこちらに向かって走ってきた。

 「すみません、キリートさん、マーカスさん。お待たせしましたか?」

 「いや、俺も今来たばかりだ。」

 「みんな早起きだよねー、ボクたちも大概だけどさ。」

 「うっし、役者も揃ったこったし、行くかぁ!霊峰樹海!」

 その号令に合わせて、俺たちは一路『霊峰樹海』を目指すのだった。


 湖の時もだったが、道中は概ね平和そのものだった。

 時折魔物や獣に襲われたりもしたが、湖の魔物を思えばまさに『雑魚扱い』だった。

 「ねぇマーカス、そういえば昨日さ、私たちの力が要るって言ってたけど、あれってどういう事なの?」

 霊峰樹海に着く直前に、少し早いが昼食を取ろうと手頃な場所で休んでいるとき、ライディがマーカスにそう話しかけた。

 「あぁ?まぁ、辿り着きゃ分からぁ。ついでに、何で『生きている樹海』なんて呼ばれているかも分からぁ。」

 どーせすぐそこなんだからよ、とマーカスは親指で指した。

 そびえ立つ大きな山、あれが『霊峰』と呼ばれる場所で、その周囲を取り囲むように広い樹海が広がっている。

 「これは霊峰の力でしょうか。この距離でも、とても強い力が渦巻いているのが分かりますね...」

 「あぁ、魔力の強いやつは感じるらしい。オレ様はさっぱりなんだが、まぁそういう神聖なのか曰くなのか分からんモンがあるんだろうよ。さて、休憩は終わりにして、先に進むかぁ!」

 「ちょっと思ったんだけどさ、マーカスって結構せっかち?」

 「別にゆっくりでも構わんが、そうなりゃあ最悪野宿になるぜ?どっちがいいかはお前らで決めな。」

 「えぇ...野宿はちょっとなー。」

 「だろ?年頃の女は大概野営なんて嫌がるモンだ。ささっと片付けちまおうぜ。」

 俺が口を挟む間もなく、休憩の片付けは済み、俺たちはすぐそこに見える樹海へと向かった。


 しかし、いざ樹海を目の前にしてみると、遠くから見るのとは違った威圧感のようなものを感じた。

 「何というか...空気が淀んでいるな。」

 「そういう場所なんだよ。霊峰樹海なんて名前もダテじゃねぇってこった。」

 「えっ、それってもしかして...出るってこと?」

 俺とマーカスの会話を聞いたライディが若干後ずさった。

 「だから魔力の高けぇお前らの協力が要るって言ったろうが。」

 と話している最中だった。奥から一匹の木人モンスターが現れた。

 「...なぁんだ、すぐそうやってボクを驚かせようとするんだから...」

 出てきたモンスターを見て何かを安心したのか、ライディは一気に距離を詰める。

 「こんなのボク一人で充分だっ!」

 そのままライディは木人モンスターの胴(頭と胴の区別がつかないが)を蹴り飛ばした。モンスターはその場にボロボロと崩れる。

 「ほら、オバケなんて出なかったらボクだって...」

 「ライディ!まだよ!」

 エアロナが弓を番える。崩れた木の体の中から、怨霊と思しきモノが飛び出し、ライディに飛びかかってきた。エアロナが弓を放つも、霊体の体を通り抜けてしまう。

 「ライディ!」

 エアロナの弓と同時に俺も飛び出したが、ライディの反応は俺の想定を超えていた。

 「...い、いやあああああああああああああ!!!」

 なんと、無意識のうちに両手に雷撃を溜め、霊体をさも何事もないかのように殴り始めたのだった。いや、というかさすがに殴りすぎじゃないか...どれだけラッシュするんだよ...もう完全にサンドバッグ状態じゃないか...ほら、もうモンスター消えかけてるって...明らかにオーバーキルが過ぎるだろう...

 「もおおおおおおおおやだあああああああああああああ!!!」

 最後に雷撃の蹴り上げが綺麗に入り、まるで昇天するかのように天へ消えていった。

 「...ハナっからド派手にやりやがったなぁ...」

 「大丈夫...ではなさそうだな。違う意味で。」

 「ぜぇ...はぁ...も、もう帰る...オバケ嫌い...」

 まだ入り口だというのにこの調子だ。

 「ライディ、もし大変だったらここに残っても...」

 「いや。それは止めた方が良いな。帰りもここに出られるとは限らん。」

 「ここに出られるとは限らない?それはどういう事だ?」

 マーカスの言葉の意図が俺には理解できなかった。

 「百聞は一見に如かずだ。オレ様ずっと言ってんだろ。ここは『生きている樹海』だってな。さぁ、中へ入るぜ。」

 それ以上は議論の無駄だと言わんばかりに、マーカスは森に入っていく。

 「キリートさん、ライディは...」

 「大変だとは思うが、付いてきてもらうしかないな。」

 「うぅ...分かったよ...」

 あまり乗り気でないライディを連れ、俺たちもマーカスの後を追った。


 「もう分かってるたぁ思うが、ここのモンスター共は行き場を失った亡霊どもが、そこらの木の屑やら何やらに乗り移ったモンだ。元々の木屑でも品質はそれなりのモンだが、奴らが憑依した木屑は変質して質が良くなる場合が多い。どういう原理かは知らんがな。」

 「マーカスさんも物の品質が分かるんですね。という事は、錬金術を?」

 「違ぇよ、オレ様は元商人だったんでな。品質の良し悪しやら真贋を見極めるのも仕事だったんだよ。それに...こいつをつけた時、左眼もちょっとな。」

 そう言いながら、羽織りをめくって左腕の砲身を見せてきた。言われて左眼を見ると、確かに普通の目ではないようだ。遠目に違和感は無かったが、これも機械なんだろう。

 「怪我の功名...とまでは言わねぇが、まぁ半機になるのも悪ぃ事ばかりじゃねぇな。」

 マーカスがそう話していると、またしても木人が数体現れた。

 既にマーカスの後ろに隠れるようにライディが移動していたのを、俺は見逃さなかった。

 「さて、お守りに素材採取に一苦労だぜ。ついでにバケモンの相手と来たもんだ。」

 「しかし、物理の攻撃が効かないのは厳しいな。エアロナかライディに頼りっきりになってしまう。二人に負荷が集中するのもな...」

 「ソレなんだがよ、オレ様ちょいと思うところがあるんだよ。まずは試させてもらう事にすらぁ。」

 言って、マーカスは左腕の袖をばっとめくる。

 「えぇ!?ここを焼け野原にするつもりなの!?」

 精霊の泉での、あの破壊力の光線をここで撃つつもりなのかと、ライディも同じことを考えていたようだ。

 「さすがに丸焦げにする気はねぇよ。ただ、さっきの戦い方を見ててな、オレ様にも似たような事が出来っかなと思ってよ。」

 マーカスがそう言うと、左腕の機械のギアが激しく回転を始めた。精霊の泉の時は投げ捨てた手の部分は、今回は付けたままのようだ。ギアが駆動音を響かせると、マーカスの左手に熱が集まっているように感じた。

 そんなこともお構いなしという事か、木人の魔物はこちらへ向かってきた。

 「良い感じに燃えてきたぜぇ!爆熱!ブレイズナックル!」

 迫りくる木人モンスターを左手の全力でぶん殴る。木人は一瞬で粉砕され、中身が飛び出してくる。

 「一撃で終わると思うなよ!どらっしゃあああああ!」

 マーカスの攻撃は続いていた。爆熱の拳は霊体が飛び出した瞬間に爆発の第二波が発生し、霊体は熱に耐えきれずに蒸発した。

 「よし!オレ様の読みが当たってたぜ!」

 「そっか、ボクが手に雷を溜めてオバケを殴ったのを真似したんだね!」

 「という事は、何らかの属性の加護があれば霊体にダメージが通るという事か...それならば!」

 そう思った俺は、いつものように取り出した剣を大地に突き刺した。

 「”再構築”!刃に大地の加護を!”属性付与(エンチャント)”」

 その状態で力を使う。すると、俺の剣に大地の力が宿った。

 俺の姿に隙があると思ったのか、木人の一体が俺に向かってきていた。

 「試し斬り、させてもらうぞ!」

 俺は地面に刺さった剣を抜き、木人の体を縦に真っ二つにした。

 木人の体は割れ、中身の霊体も一緒に蒸発していったようだ。

 「なるほどな。どうやらこの説は正しいらしい。」

 そういえばあと一匹木人がいたな...と思っていたが、既にエアロナが放った風の矢によって倒された後だった。

 「私だって、負けてられませんから。」

 「別に、張り合っていたわけでは無いのだがな...」

 そう言いながら、俺は両断した木人の破片を拾う。

 確かに、普段よく見かける素材よりは数段質の良い木片だった。

 「この辺りの霊体が憑依しただけで品質が上がるとは...どういう原理なのだろうな。」

 「さぁな。それが知りたきゃ霊体に直接聞きな。話が通じれば、だがな。さぁ、そんな事よりも、お目当てはまだ奥だ。日が暮れねぇうちに進むぞ。」

 マーカスの言葉に、俺たちは奥へと向かった。


 どのくらい樹海を歩いただろうか。

 日の光が届かない樹海のせいで時間の感覚がおかしくなっているように感じた。

 道中も何度か魔物と遭遇したが、対応策ができたおかげで難なく進むことが出来た。

 「見えたぜ、あともうちょいだ。」

 マーカスが指した場所には光が見えていた。

 「樹海を抜けるのか?という事は、この先は霊峰?」

 「いや、あの先もまだ樹海だ。だが、薬草はあの開けた場所にあるはずだ。」

 喋りながらも歩みを進めると、少し広い草原のような場所に出た。

 しかも、よく見るとかなりの数の薬草が群生しているようだ。適当に一つ摘み取ってみたが、品質もかなり良いようだった。

 「さぁキリート。こっからはお前の出番だ。要るモンがあんなら探してきな。その間、オレ様達は休憩でもしてらぁ。」

 「休憩!?やったぁ!ボクもうへとへとだよ...」

 と言いながら、ライディは近くにあった丸太に腰をかけた。

 「キリートさん、私に何かお手伝いできる事はありますか?」

 エアロナは飲み物を俺に手渡しながら、そう尋ねた。

 「いや、申し出は有難いが、マーカスの言う通りここからは俺の仕事だ。まだ帰り道もあるし、今のうちに休んでおいてくれ。」

 俺は一息で飲み物を飲み干し、器をエアロナに返しながらそう答えた。

 「そうですか、では私も休ませてもらいますね。」

 と言って、エアロナもライディの隣に腰をかけた。

 さて、まずは一通り何があるか確認するか...


 そうしてどのくらい経っただろうか。

 こんな一つの場所にいくつもの種類の薬草が群生しているだけでも充分に凄い事なのだが、そのどれもが品質が高い。霊峰が近くにあるせいで、そういった霊的な力が干渉しているためか、或いは元々この辺りの地質が植物にとっての栄養分を多く含んでいるのか。

 興味は尽きないが、三人をあまり待たせるのも悪いと思い、なるべく必要な分だけ薬草を採取していた。そんな矢先の出来事だった。

 急に周囲がざわつき始めたかと思うと、辺りの空気の流れが変わったような感覚に陥った。次の瞬間、周囲の木々が急速に成長し、或いは急激に枯れ、ここに入った時とは違う姿に変わっていった。

 「さぁ、始まったぜ。これが『生きている樹海』と呼ばれる理由だ。」

 マーカスがそう言う頃には、入ってきたはずの道は木で塞がれ、違う道が開けていた。

 「...確かに、これでは元来た道には帰れないな。」

 「ほんと、森の前で待ってなくて良かったなぁ...ボク、はぐれちゃうところだったかも...」

 「さて、コレがあったってことは、外もそろそろ良い時間だろう。今日は一旦街へ戻るとしようぜ。」

 「ですが、帰ると言っても道が分からなくては...」

 「そこでコイツの出番ってわけだ。」

 エアロナが心配すると、マーカスはカバンから道具を取り出した。

 針のついた円盤...方位磁石のようなものだろうか。

 「コイツは特殊なマジックアイテムでな...と言っても、まぁ見たままの代物だが。」

 出口はコイツが教えてくれらぁ。とマーカスは話した。

 「道がある程度分かるなら安心だな。俺は大丈夫だ。そろそろ街へ戻ろうか。」

 俺の言葉に残る三人は頷き、指し示された道へと進んだ。


 相変わらず木人の出る道中を進みながら、俺たちは森の外を目指して進んでいた。

 事態はまさに、その途中に起きた。

 「...!!キリートさん、止まって!」

 エアロナの声に足を止めた瞬間、俺たちの目の前を霊体の集団が通り抜けて行った。

 オバケが苦手なライディが、とっさにマーカスの後ろに隠れた。

 「オレ様も何度かここに探索に来たことがあるが、こんなモンに出くわした事は無いな...」

 「良くない前触れでなければ良いが...」

 霊体の集団は思ったよりも長く、俺たちは足止めをくらっていた。

 そして異変が起きたのは、迂回を考えようとしていた時の事だった。

 突然、目の前を大きな鎌が通過し、霊体のうち数体を切り裂いた。そして、霊体の集団を追いかけるように出てきたのは、いかにも死神といった風体の異形だった。

 「...まさか、テメェは...!」

 その姿に反応したのはマーカスだった。そして、即座に左手の砲身を死神に向け、エネルギーを溜めていく。

 「そのツラ、忘れちゃいねぇぞ...今日こそ消し炭に変えてやらぁ!」

 「マーカス!一体何が...」

 「離れてろ!お前らまで巻き込むぞ!」

 こちらの話を聞こうとしないマーカスに、仕方なく一旦離れる事にした。

 死神もこちらを認識したのか、霊体を追うのをやめ鎌を拾った。

 「くたばりやがれド畜生!フルバースト!アカシック・フラッシャー!」

 湖で半魚人のボスを倒した技を、今度は死神に向けて放った。

 しかし、光線は死神に当たる直前に謎のバリアに阻まれてしまう。

 「ちぃっ!またそれかよっ!」

 それでもマーカスは光線を放ち続けるが、次第に威力が弱まっていく。そしてついに光線が途切れ、マーカスも膝をついてしまう。

 こちらを向いた死神は、拾い上げた鎌をマーカスに向かって投げた。

 「危ないっ!大地よ壁となれ!”錬成”!」

 すかさずキリートが錬金術を発動すると、マーカスの前に土の壁が立ち上る。

 だがしかし、死神の鎌に土の壁は切り裂かれてしまう。

 そして鎌の刃がマーカスの機械の左腕を深く傷つけた。

 「ぐっ!畜生がっ!」

 「マーカス!とりあえず一旦逃げるぞ!」

 まだ続けようと言わんばかりに動き出したマーカスをキリートが止める。その声に合わせてエアロナが死神を弓で牽制し、ライディがマーカスに肩を貸す形で死神から離れる。

 「待て!オレ様はヤツとの決着が...」

 「そんな事言っても、帰り道が分かるのマーカスだけなんだから!『元の場所には出られない』んでしょ!?」

 「...ちぃっ!仕方ねぇ!次こそはタダじゃおかねぇからな!」

 そう言うとマーカスは右手で自分のカバンを漁り、先程も観た方位磁石の形をしたそれをキリートに投げて渡した。

 「『魔導磁針』だ!そいつの指す先に出口がある!走るぞ!」

 追撃の準備をする死神の隙をついて、一行は針の指し示す方角へ走り出した。


 逃げるのは決して簡単ではなかった。

 マーカスは左腕の負傷で充分に戦う事が出来ず、逃げ道は木人モンスターが塞ぎ、後方は常に死神からの攻撃が飛んできていた。

 ただ、逸れた死神の攻撃が木人モンスターを潰してくれたのは不幸中の幸いだったか。

 戦闘も最小限に、とりあえず出口を目指す事を優先し、ただひたすらに走った。

 そしてついに、薄暗い森から外に出ることに成功したのだった。

 外は夕暮れ時だったが、それでも死神には陽の光が効いたのだろう。

 奇妙な雄叫びを上げ、森の入り口付近からこちらを見ているようだったが、追跡できないと判断したか、諦めて森の中へ戻っていったようだ。

 「これで...一安心か...?」

 「あぁ、アイツは森の外には出られねぇハズだ...」

 「それよりもマーカス、腕は大丈夫なの?」

 今更心配になってきたのか、ライディが尋ねる。

 「大丈夫...じゃあねぇが、まぁ何とかならぁ。」

 「応急処置が出来れば良かったのですけれど、私では生身の治療は出来ても機械の修理までは...」

 「あぁ、近いうちに修理に行ってくらぁ。それで何とかなるさ。さぁ、暗くならねぇうちに街へ戻るぞ。」

 「...マーカス。事情は説明してもらうからな。」

 「...おうよ、道すがら、な。」

 少々思い出したくない記憶なのか、珍しくマーカスが口ごもったような様子を見せる。

 それなりに収穫のあった探索だったが、やはり色々気になる事もある。

 が、まずはマーカスの言う通り、暗くならないうちに街へ戻る事とするのだった。

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