おやすみなさい・スゥィート・ハート♡
naka-motoo
ねむれ、ねむれ、おりこうなボク
「たーくん、ひとりでだいじょうぶ?」
「へいきだよ!おねえちゃんがいなくなっても全部できるよ!」
ボクのおねえちゃんはね、ボクよりもすっごく年上なんだ。
ボクはまだ5歳だけどおねえちゃんは20歳。えとがひとまわりはんしてるね、っておばあちゃんは言ってるよ。
そのおねえちゃんがね、あした結婚式なんだ。だからおねえちゃんはおおいそがし。
結婚式場はね、おうちの近くのとっても古いレストラン。
ボクのまちの中でたぶん一番古いたてもので、レストランだけじゃなくてぎんこうとかしやくしょのしゅっちょうじょとかがはいってるんだ。そのビルのなかには神社もあってね、結婚式もきちんとできるようになってるんだって。
「ほら、ケイ。もう寝なさい。明日はあなたの人生で一番忙しい日なんだから」
「うん。わかった。でもお母さん、もうちょっとだけ」
おねえちゃんはね、えもんかけにかかった白無垢のきらきらする着物の前に丸いすを置いてすわってね、しばらく着物を見てたんだ。そしたらボクを呼んでくれたんだよ。
「たーくん。おねえちゃんのお膝に乗っかって」
「えー。はずかしいよー」
「ふふ。ほら、今日でおねえちゃんはこのお家を出て行くんだから最後にもう一回」
なんだかさびしいかんじ。
「わあ・・・たーくん重くなったね」
「そんなことないよ」
「そんなことあるある・・・ほら、見て。きれいでしょう」
ボクはおねえちゃんの膝の上で白無垢をよーく見たよ。
きれいだよ。ほんとうに。
「明日おねえちゃんはここで着付けしてもらって、それで髪も結ってもらってそれから結婚式場へ行くのよ」
「知ってるよ。おねえちゃんはとーっても屋根の高いタクシーにのるんでしょ?」
「そうよ。角隠しが天井にぶつからないようにね。たーくんはレストランのマイクロバスだね」
「うん」
「たーくん」
「うん」
おねえちゃんはどうしてかそのままボクを後ろから、きゅっ、って抱きしめたよ。
「たーくんとおねえちゃんは本当の姉弟じゃないのよ」
「えっ・・・どういうこと?」
「わたしはね、養子なの。おとうさんのおねえさん、つまり伯母さんはね、わたしを産んですぐに亡くなったのよ」
「え?」
「わたしの産みの母親はそのひとなの。父親は男手でわたしを育てるのが難しかったから結婚したばかりで子供のいなかった今のお父さんとお母さんがわたしを養子にしてくれたのよ」
「そ、そうなの?じゃあ・・・」
「お父さんもお母さんもおばあちゃんもわたしが養子だってことはずうっとわたしに知らせずにいてくれたの。でもね、わたしが中学生の時、高校で特待生になる手続きの時に戸籍謄本、っていうのをとらなきゃならなくなってね。それを機に本当のことを教えてくれたのよ」
「じゃあ、おねえちゃんはその時初めてそれを知ったの?」
「ええそうよ。お父さんとお母さんはね、わたしが引け目を感じるかもしれないと思って自分たちの子供をずっと生まなかったの。でもわたしはほんとうのことを知ってね、お父さんとお母さんに弟か妹が欲しい、って言ったのよ」
「そうなんだ!」
「ふたりともとてもはにかんだ・・・まるで十代の恋人同士みたいに。でもおかげでたーくんみたいなかーわいい弟を授かったのよ」
「じゃあおねえちゃんがボクをこの世に出してくれたんだね」
「ううん。それはやっぱりお父さんとお母さんのおかげ。たーくん」
「うん」
「わたしたちのお父さんとお母さんはとても素晴らしい人たちよ。それにおばあちゃんも。だから、たーくん。わたしがいなくなっても、みんなを大切にしてあげてね」
「うん、分かった!約束するよ」
「
あ。お母さんだ。
「太一、明日はおねえちゃんの結婚式でいっぱいお手伝いしてもらわなくちゃいけないんだから早く寝なさい!」
「はーい!わあ・・・叱られちゃった」
「ふふふ。ごめんね、たーくん。もう寝る時間だね」
「うん。ボクもう寝るよ」
「たーくん」
おねえちゃんはボクを抱き上げて、とっ、て丸椅子に座らせてくれたんだ。
それでね、ボクの前にしゃがんで、にっこりとしてね。
ツッ、・・・て。
ボクのおでこにキスしてくれたよ。
「おやすみ。わたしの大切なたーくん」
「うん。おやすみなさい、おねえちゃん」
「おやすみなさい・・・」
おやすみなさい・スゥィート・ハート♡ naka-motoo @naka-motoo
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