嫌いが好きに変わるとき
きつねのなにか
自覚をしちゃう、そんなとき
私は自分が嫌いだ。
たいした美貌があるわけでもない。
たいした知能があるわけでもない。
お金があるわけでも、凄い人脈があるわけでもない。
何か突出しているものは何もない。
だから、私は自分が嫌いだ。
でも、こいつはなぜだか私に絡んでくる。
今朝の登校。やはり、いた。
「よっはー、
中学から高校までずっと同じ学校で、しかもずっと一緒のクラスになってしまっている。最悪だ。
「……」
「あれ、今日も無視?ひっどいなーひどい」
「あんまり私のことみてると」
「なにな――ふぎゃ!」
漫画のように電柱にぶつかり倒れたこいつをよそに、私は学校へと歩いて行くのだった。
「いやー、ぶつかったときは痛かったよ。僕が電柱にぶつかったときは助けてよ、楓ちゃん。変な仲じゃあないんだしさ」
「お前のことなんて嫌いだもん」
「嫌いの反対になってみたらどうかな?」
「嫌いの反対は大嫌い」
「そんなー」
……なんで軽口が合うんだろう、嫌いなのに。
私はそそっかしい。
今日のお昼ご飯を忘れてしまった。
「お金も忘れた……」
そんなとき、あいつが私のところに颯爽と近寄ってきた。
「楓ちゃーん、ここにお弁当が2個あります――」
「いらない」
「なんでぇ」
「施しは受けない」
「えー、美味しいのに」
そんな会話を繰り広げていると。
「あなたたち仲良すぎよねー」
「結婚式には呼んでくれよなっ」
べったりベタベタなカップルから、ヤジが飛んできた。間が悪い。というか、結婚しそうなのは君らでしょうに。
「僕たちより、君たち二人の方が結婚早いと思うんだけどなー?」
「まって、私はあんたと交際すらしていない」
「そっか。じゃあまずこれ食べよう?」
「餌付けなんてされない」
「午後体育だよ?」
「ぐ……」
「本当仲良いわね。でも私たちの方が結婚早いのはそうかもしれないわね。ね、ダーリン♪」
「そうだな、マイハニー。高校卒業したらすぐにでもな♪」
いつの時代のカップルだろう……。
――午後の体育は食べてないせいで死にそうだった。
私は運がない。
放課後になったら、雨が降ってきた。私は傘を持ってきていない。不運だ。
「楓ちゃーん、傘2つあるから一緒に帰ろ」
「施しは受けない」
「冷たいなー冷たい」
「君たちもそろそろカップルになっとけよ、色々と捗るぞ」
「私たちは相合い傘で帰るわー。ね、ダーリン♪」
「そうだな、マイハニー♪」
――古くさいカップルが茶々を入れてきた。
「でも嫌いだし」
「でさあ」
そう割り込むと、カップルの男が続ける。
「なんでそんなに仲が良いのに嫌い嫌い言ってるの、理由、ちゃんとあるんだろ?」
こいつは……
「
「楓ちゃんはないない言っている割には、それなりに持っているじゃない」
「なによ、それ」
私は叶奏を睨みつける。
「なに、見つめてくれちゃって。ついに好きになった?」
「いや、そうじゃない」
「ちなみに僕は楓ちゃんの好きなところを言えるよ」
言うが早いが、叶奏は私の長くてボサボサな髪を一束つかみ――。
「僕は楓ちゃんのさらりとしたこの長い髪が好きだ」
――髪?
「なに、いきなり」
「もちろん内面だって好きだよ」
「ちょっとまってよ」
私の前に立ち、普段の時とは違う、真剣な目で私を見つめて――。
「嫌い嫌い言いながら僕をそばにいさせてくれる、その優しい心が好きだ。大好きだよ」
「――バカ」
そう言うと、私は叶奏の視線から逃れるように雨の中かけだしていった。
雨の中、思う。髪、か。優しい心、か。
家に着く。胸がドキドキする。これは走ってきた為におきた息切れなんかじゃない。
これは――。
私は叶奏のことを――。
私は
明日会ったら、優しくしてやろう。
嫌いが好きに変わるとき きつねのなにか @nekononanika
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます