財力がものをいうハウスディフェンスバトル

ちびまるフォイ

家に挑む攻略者たち

『ハウスディフェンス -攻撃側招待状-』


「ついに……ついに届いた……!」


俺のもとに参加資格がついに届いた。

応募してから時間が空いていたのでもうダメかと思っていた。


指定の住所に向かうとそこは高層ビルだった。


侵入対象の部屋の下見をしたかったのだが、

オートロックで入れないので確認できなかった。


「当日のぶっつけ本番、か」


ハウスディフェンス当日、高層ビルの玄関口には数十人の参加者が集まった。

全員が時間を気にしている。


「なにか準備してきた?」

「もちろん。そっちは?」

「バールは買ってきた」


まるでテスト前にお互いの勉強を確認するかのような時間。

それもハウスディフェンスが始まるまでだった。


「0時だ!!」


参加者の誰かが叫ぶや一気に高層ビルへと突撃。

オートロックのガラスをあっという間にぶち破り入っていく。


ハウスディフェンスでは侵入のためのあらゆる破壊行為が許される。

ただし、無関係の近隣住民に迷惑をかけた場合はゲーム終了後に追放措置。

侵入先の部屋に入るために、隣の部屋を破壊して、壁をぶち抜いて……というのは不可能。


「何階だ!?」

「最上階!!」


どうやってターゲットの部屋を調べたのかわからないが、

俺と違って他の参加者には経験者も多く一気に最上階へと向かう。


エレベーターは防衛側の参加者によりあえてストップさせられているため、

最上階までは階段を使うことに。


が、その階段にはすでに侵入対策が施されていた。


「うあああ!」


階段全体にぬるりとした液体がぶちまけられている。

手すりをつかもうとすると、こっちは接着剤なのか握った瞬間に手が離れなくなる。


先へと急いだ参加者は手すりを掴んだまま動けなくなった。


「バカが。急がばまわれというのを知らんのか」


熟練参加者は動けなくなった他の参加者の服を掴みつつ最上階へと向かう。


指定されたターゲットの部屋に入れば攻撃側の勝利。

ただし報酬は最初に侵入できた一人だけに与えられる。


24時間誰の侵入も許さなければ防衛側の勝利となる。


最上階にたどり着くと、廊下には鉄条網が張り巡らされている。

無理に通ろうとすればズタズタになってしまう。ペンチ持ってくればよかった。


「どけ無能」


後ろから工具箱を持ってきていた攻撃側の参加者が前に出る。


「これくらいのトラップぐらい予想できるだろルーキーが」


工具箱からペンチを取り出して鉄条網を切ったとき。

バチン!と火花が散って、参加者の一人が吹っ飛んだ。


「おいおい……電流つきかよ……」


高層ビルに住んでいるという意味を理解していなかった。

今回の防衛参加者はお金を持っている。

それだけに侵入対策に抜かりはない。


何枚ものゴム手袋をまっ黒焦げにしながら鉄条網の森を抜ける。

ついに指定されたターゲットの名前が確認できる部屋の前に。


そこには最難関の扉が待ち構えていた。


「なんてぶ厚さ……」


侵入先の部屋の名前がターゲットの場所かどうかを確かめるまでもなく、

あきらかにビルの廊下にひとつだけ金庫のようなドアがあるのを見つけた。


「どうするよ」

「どうするって……」

「こんなのどう開けるってんだよ」


専用の特殊な道具を使わない限り開けられないだろうし

開けるにしても時間があまりにかかりすぎる。


攻撃側参加者の多くは諦めて去ってしまった。


「これだから脳筋は。どけっ」


参加者が減って誰も挑戦しなくなったのを確認してから、

ひときわ体の線が細い男が扉の前にやってきた。


ごく普通にインターホンを押す。


「〇〇さん、警察です。ちょっとお話よろしいですか?」


男はインターホン越しにさまざまなことを語りかけた。


ビルを武装したことの許可が下りていないだとか、

近隣から騒音の苦情が出ているとか。


聞いているこっちまで舌を巻くほどの話術。

もしも、自分が防衛側だったらと思うと真に受けて扉を開けてしまうだろう。


それでも、防衛側は固く扉を閉ざしまま動かない。


「チッ。音切ってやがるな」


「まどろっこしいことしてんじゃねぇよ、どけ!」


今度は別の男がインターホンの前に出る。

スマホをカメラの前に突きつけて画面が見えるようにする。


「おい! お前の両親の住所はわかってるんだぞ!

 早くこの扉を開けないとどうなるかわかってんのか!!」


「おいバカ!! ターゲット以外を巻き込むのはルール違反だ!」


それをいさめたのは他の攻撃側参加者だった。


「知るかよ! ゲームマスターだってずっと張り付いてるわけないだろ!

 ようは中に入りさえすれば良いんだ! どうせわかりゃしねぇ!」


「ゲーム終わった後に没収されるんだバカ!!」


「えっ?」


人質作戦を行った参加者も失敗に終わった。

仮に侵入に成功してもルール違反で報酬を失えばなんの意味もない。


「もうダメだよ」

「さすがに今回は無理だ」


攻撃側にはあきらめムードになっていた。

すでに時刻は24時間のタイムリミットに差し迫っていた。


そのとき、バキバキバキと部屋の内側から音が聞こえる。


「まさか……」


信じられなかったが屋上に向かうと、部屋のちょうど真上にバカでかい大穴が開いていた。

窓や扉からの侵入を防ぐために策を講じていた防衛側もよもや天井をこじ開けられるとは想像していなかっただろう。


部屋への侵入に成功した参加者は嬉しそうに防衛側の男と握手していた。


「負けたよ。高層ビルの天井剥がすなんて思いもしなかった」


「相手の想像を超えるところから侵入は成功するんです」


「今度は僕も攻撃側をやってみたいね」


侵入者が一人出たことでゲームは終了。

結局、初参加の俺ができたことといえば他の参加者の背中を見て「すげー」と思うだけだった。


「やっぱり侵入するにはそれなりの知識と準備が必要なんだなぁ……」


ゲームを終えて感じたのは明らかな経験値の差だった。

大量に押し寄せる参加者を侵入させないようにと防衛側も堅牢な準備をする。


軽装でほいほい侵入できるものはない。


自分と他の参加者の明確な差を感じ、ハウスディフェンス候補を抜けようとした時だった。



『ハウスディフェンス -防衛側招待状-』



「は!?」


今度は防衛側の招待状だった。


前回、攻撃側で参加した時にあれだけの準備を持ってしても攻略されていたのを考えて

自分ごときのアパートの片隅の部屋が防衛できるわけがない。


しかし、もしも防衛できたとすれば、攻撃側以上の報酬が受け取れる。


「どうしよう……」


侵入の際に破壊されたものは後で修理して新品になる。

挑戦しなければ報酬がもらえる可能性は確実に0。


俺は参加を決めた。


※ ※ ※


「ここだ。このアパートだ」

「毎回、住所だけ連絡するのやめてほしいよな。いちいち部屋探すのが面倒だ」

「いいじゃないか。今回は楽そうだし」


攻撃側の参加者は武装されたボロアパートに集った。


板がたてつけてあったりと一応の防衛策は行われているものの、

ぼろアパートの住民が捻出できる費用などたかがしれている。


前の高層ビルへの侵入のような金庫扉も電気鉄条網もない。


「今回はスピード勝負だな」


攻撃側の参加者たちは前かがみになって開始を待った。


3。


2。


1。



0時 スタート。


「うおおお!!」


まるで暴徒のように襲いかかる。

立て付けてあったベニヤ板を数秒で破壊して突破。


ターゲットの名前を確かめると、木製のドアをあっという間に破壊した。


中にかかっていた鉄のチェーンは裁縫糸のようにちぎられ、

部屋にいた人がこの騒動に気づくよりも早く侵入した。


俺はただ祈るしかなかった。


「っしゃーー! ゲームクリア! 余裕だぜ!!」


参加者のひとりが早々にゴールしガッツポーズ。

他の攻撃側参加者も侵入終了により諦めて帰っていった。


報酬が届くと、部屋への侵入に成功した男は大いに喜んだ。

が、報酬が目の前を横切るや思わず待ったをかけた。


「おいおいおいおい! こっちだよ! ちゃんと部屋に入ったんだから報酬よこせよ!

 他のやつよりも早くトラップを突破して部屋に入ったんだぞ!」


男には目もくれず、報酬配布人は俺のもとへとやってきた。


「見事、24時間誰にも侵入されませんでしたね。こちらが報酬になります」


俺は報酬を受け取ると照れ笑いをした。


「いやぁ、ぜんぜん準備できなかったです。

 できたのはせいぜい部屋の前の表札を入れ替えたくらいですよ」

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