独裁国家
アール
独裁国家
邪悪な王が独裁している、
その王国は大きな森を抜けた先にあった。
先代の王は優しさに溢れ、市民にも慕われるような善政をしていたが、その息子は大違い。
これまでの倍の額の税金を徴収したり、
城下町にいる気に入った美女は奴隷として城へ連れて帰るなど、やりたい放題をやった。
もちろんそんな横暴な王の行為に反対の意を唱える家来や市民は沢山いたが、彼らはすぐに排除される事となってしまった。
そんな王国の噂は至る所にまで広まっていた。
そしてそれは、遥か雲の上に広がる
天界も例外ではない。
天使の1人が近くの森の中から王国を眺め、
こんな事を呟いていた。
「なんと酷いことを。
こんなの人間のやることじゃない。
僕が救ってやらなければ」
背中に生えている大きな翼を目一杯羽ばたかせ、
彼は王国の上空へと上昇した。
彼を含める天使たちには、
とある一つの能力が兼ね備われていた。
人間たちの持つ、不幸のオーラを
感じ取ることができるのだ。
その名の通り、不幸な身の上に陥ってしまっている人間にその不幸なオーラは生まれてしまう。
天使はそれをセンサーのように感知し、その人間のもとに駆けつける。
そしてその人間を救済することが
彼らの仕事なのだ。
「おや。
あの建物から不幸なオーラをたくさん感じるぞ。
行ってみよう」
天使はそういって、黒く汚れた壁が印象的な
一つの大きな建物へとやってきた。
壁をするりとすり抜け、中の様子を伺う。
そして天使は見つけた。
まるで動物園の猿のように
鉄格子のオリに閉じ込められた沢山の人々を。
彼らの身体からは負のオーラが溢れて出ていた。
その表情にはもう外の世界には出れないのだ、
といった絶望の色が宿っているように見える。
「可哀想に。
彼らはおそらく王に刃向かい、閉じ込められた
哀れな人々なのだろう。
こんなの人にすることじゃない。
僕が今すぐに出してあげるよ…………」
そういうと天使は手に力を込め、
何か呪文のような言葉を念じはじめた。
そしてその呪文を唱え終わったのと同時に、
人々を閉じ込めていたオリのロックはすべて解除された。
天使の持つ、魔法のパワーの力である。
「さぁ、お行き。
君たちはもう自由なんだよ」
その天使の声は人間に聞こえないが、
言われずとも彼らはそうしただろう。
理由は分からないが、突然ロックが解除された
ことに人々は驚きと喜びの声を同時にあげ、一斉に外の世界へと飛び出していった……。
一方その頃、城下町では大混乱が起こっていた。
「大変だ、大変だ……。
刑務所にいた死刑囚を含む極悪人どもが一斉に
脱獄したらしいぞ!」
「なんだって。
しかし、刑務所の守りは万全だったはず。
誰かがそのから手引きしたのか……」
その混乱はやがて城にいた王の耳にも入った。
「今すぐ脱獄囚どもを皆殺しにするんだ。
あと、混乱に乗じて国外逃亡をする輩も逃すなよ。
見つけ次第すぐに殺せ。いいな?」
そんなことを玉座で喚いていると、
1人の門を守っていた筈の家来が飛び込んできた。
「お、王様。
大変でございます。
脱獄囚どもが、
城内にある宝を奪おうと乗り込んできました!
私以外の門番は全て殺され、
すぐにここにもやってくるでしょう。
ああ、早くお逃げ下さ…………」
しかし、家来の言葉は途中で遮られてしまった。
何故なら予想以上の速さで、玉座の間に脱獄囚達が乗り込んできたからだ。
「お前たち、何してる。
奴らを殺せ、殺さんか…………」
自分を置いて逃げようとする家臣たちに、王は必死で命令したが、もともと人望など皆無であった彼の言葉に立ち止まるものなど1人もいない。
やがて王を含む、独裁を行なっていた城の連中は
彼らの手によってなぶり殺しにされ、政権は完全に崩壊した。
天使の勘違いにより始まったこの騒動は
こうして混乱に次ぐ混乱によって幕を閉じたが
結局王は倒れ、民衆は救われたのだし、
ハッピーエンドなのかもしれない。
これに当てはまるぴったりなことわざを天使は
思い出した。
終わりよければすべてよしなのだ。
独裁国家 アール @m0120
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