そして最終話
「ちょっと待って下さい鷹羽さん。
なんかリング上、ちょっと揉めてますね。青コーナーの大般若陣営ですが、なにやらセコンド陣と大般若選手が言い争っている様子。何を言ってるのか聞き取れませんが、大般若選手と長崎選手が言い争っている模様です。他の大般若興行のセコンド陣が両者の間に割って入ろうというところ」
「これは主催者側も介入した方が良いですよ」
「あー、ジャッジに促されて会場スタッフまで集まってきましたね。ちょっとただならぬ雰囲気です。赤コーナーのパルコ陣営は呆然立ち尽くすのみ。我々同様なにが起こっているのか理解できていない模様」
「何やってんだ」
「パルコ選手の復帰をかけた大事な一戦です。こういうのは本当にやめて欲しい。客席も騒然としてまいりました」
「これは大般若選手と長崎選手を分けなきゃいけませんね。同じリングにいつまでも立たせているようじゃ駄目ですよ。スタッフはなにをやってるんでしょうね」
「ジャッジをはじめ、会場スタッフが頻りに長崎選手にリングを下りるように促していますが、昂奮していうことを聞かない様子。自らリングを下りる気配がありません」
「何しとんねん」
「あーッ! ここで長崎選手が大般若選手に殴りかかった! 大変なことになってしまった! 大変なことが起こってしまいました! 試合開始前に選手とセコンドが乱闘騒ぎ!
長崎選手が大般若孝の上に馬乗りになって乱打!
まさかプラウダのリングでこのようなプロレスまがいの乱闘事件が発生するなど思いもよりませんでした。リング上はもみくちゃであります。両者の姿が群がる人に埋もれて見えない」
「ちょっとやめてもらいたいですね」
「いま、会場スタッフと大般若興行のセコンド陣に引き摺られるようにして長崎選手がリングを下ろされます。強制排除といったところでしょうか」
「遅いよ」
「仰向けに倒れています大般若選手。ドクターのチェックが入る。表情は覗えませんが大丈夫でしょうか。心配ですね」
「流血してますよ」
「本当ですね! 出血してます大般若選手。ドクターと一緒に大般若選手の顔を覗き込むジャッジが頭を横に振っています。これは、これはまさか」
「嘘やろオイ」
「ジャッジがパルコ陣営に駆け寄った。何やら説明をしています。不服そうなパルコ選手。明らかに怒っています。普段喜怒哀楽をあまり
あーッ! いま主催者サイドからノーコンテスト裁定が通知されてきました。ノーコンテスト、無効試合です!」
「あかんやろこれは!」
「観客席に対してもノーコンテスト裁定の会場アナウンス。
大般若選手の
そのドクターを振り切って立ち上がった大般若選手。口の動きから『やれる』と主張しているようですが、その顔面は出血のために真っ赤!
パルコ陣営に釈明するためか、大般若選手が赤コーナーに歩み寄りますがパルコは接触を拒否、リングを下りる。非友好的な態度ですが無理もありません。このような事態がプラウダのリングで許されて良いはずがない!
ここで長崎選手のコメントが入ってきました。
『俺は十年来、大般若孝の首を狙ってきた。いまさらパルコ如きにかっさらわれてたまるか。大般若孝の死に水は俺がとる』。報道陣にそう言い残して会場を去ったということです」
「知らないよそんなこと。
でもまあ、プラウダの経営陣は今後、プロレスラーを総合のリングに上げるという意味について、よく考える必要がありそうですね。
これまで僕を含めてプロレスラーのビッグネームを食って成長してきたプラウダですけれども、大般若孝という猛毒には安易に手を出しちゃいけませんでしたね。プラウダにしてみれば死に至りかねない重度の食中毒ですよこれは。
プラウダは大般若選手にしてやられましたね。今日はあとニ試合残ってますけど、いまの無効試合以上にインパクトのある試合は出来ないんじゃないかな? まあ無理だろうね。
逆に大般若興行としては良かったんじゃないかな? このアングルで少なくとも一年は引っ張れるでしょうからね。特に大般若選手と長崎選手との抗争でね。
プラウダ側が大般若興行のアングルに組み込まれた形だよね。
明日のスポーツ紙は一面この無効試合で埋め尽くされますよ。大般若孝は戦わずして総合格闘技に勝ったといえるでしょうね」
(fin)
パルコvs大般若孝――ノーロープ有刺鉄線電流爆破デスマッチの開祖が総合格闘技に勝利するたったひとつの方法―― @pip-erekiban
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