パルコ・プロトコル入場

「三年前、レスリングフリースタイルをバックボーンにする柴田しばた邦之くにゆきとの総合ルールでの歴史的一戦。そこでの勝利が、この男の運命を大きく変えました。

『打撃系選手は総合ルールに対応できない』

 それが我々の勝手な思い込みでしかなかったことを、劇的な勝利を重ねていくなかでこの男は教えてくれました。

 類い稀ともいえる敏捷性と柔軟性。それらに裏付けられた対応力の高さを存分に発揮して快進撃はとどまるところを知らず、遂に今年、満を持してのプラウダヘビー級王座挑戦をかけたグランプリ出場。

 しかし好事魔多しのたとえどおりというべきでありましょうか、一回戦でまさかの敗退。出直し戦の相手はこれもまさかの大般若孝。謂わばキワモノであります。

 しかしこの男、パルコ・プロトコルは腐りませんでした。

『グランプリ敗退で俺は地獄の苦しみを味わった。再びチャンスをくれるというのであれば、相手が誰であろうとも俺は全力で戦うだろう』。戦前のインタビューで、眉ひとつ動かすことなくそうこたえてのけたパルコに、ファン関係者こぞって戦慄を覚えたものであります。そのパルコが姿を見せる花道の奥!」

「これは、パルコ選手そうとう仕上げてきてますね!」

「あー、物凄い僧帽筋の盛り上がりだ。コンドルマン戦のころと比べると、ひとまわり大きくなっていることがお分かり頂けるかと思います。特に僧帽筋から広背筋にかけての盛り上がりが凄い。

 振り返れば半年前、下馬評ではパルコ圧倒的優位が叫ばれるなか、ロビン・コンドルマン選手の不意の一撃を浴びて何も出来ずまさかのノックアウト負け。ヘビー級王座挑戦は振り出しに戻りました。

 それにしても敗北というものは、もはや完璧とまで思われたパルコ選手にまで更なる進化を促すものなのでしょうか。バトルサイボーグの二つ名に恥じぬ見事な仕上がり!」

「大般若戦が決まったあとも、練習にまったく手を抜いていませんでしたからね」

「見事に作り上げてきましたパルコ選手。復帰第一線の相手、大般若孝が待ち受けるリングにいま、降り立ちます。

 これまで総合のリングで数々のプロレスラーを沈めてきたパルコ・プロトコル。プロレスハンターの異名もとりましたが、今日このときばかりは狩人というより死刑執行人といった風情を醸しております。それほどまでに隔絶した戦力差といっても過言ではないでしょう」

「大般若選手はもう逃げ出せませんよ。もう後戻りできない。覚悟を決めてもらわなきゃいけませんね」

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