クリスマスの話

@azuma123

第1話

 クリスマスなのでケーキを食おうと買い物に出かけたのですが、わたしの家の周りには医院、それも産婦人科しかなくなっておりました。わたしの住んでいる日本という国では少子化がひどく進んでおり、困ってしまった政治家達が産婦人科医院をたくさんつくったというわけです。院内では多数の男女が性交を行っており、受精すればそのまま入院が可能です。受精するまでそこで性交を続けてもいいし、諦めて院内にいる他の異性を探してもよいのでしょう。なんにしても無料の宿が手に入るため、皆こぞって利用しているようです。

 少し遠出をする覚悟で、ケーキ屋を探しに歩こうかと思いました。行けども行けども産婦人科医院しかない通りをトボトボと歩いていると、知らない女が「作りすぎちゃって」とわたしを呼び止めます。手にはでかい鍋を持っていたため、何かの料理かとのぞきこんでみました。すると、その中には赤い小さな塊が一つ入っています。「これはなにか」と尋ねたところ、「わたしの赤ちゃんよ」と答えました。わたしはうわっと叫んで逃げ出してしまいました。他人の股から出てきた血まみれの赤い塊なんて、気持ち悪いでしょう。それにしても少子化だというのに、作りすぎるなんて景気のいい話だなあと思いました。

 医院しかない通りを抜けると、やっとコンビニを見つけました。できればケーキ屋のうまいケーキが食べたいところですが、この際、コンビニのケーキでも致し方ありません。わたしはコンビニに入りました。しかし、コンビニの棚は全てガラガラで、デザートの棚にはみたらし団子の三本入りしか残っていませんでした。従業員は一人しかおらず、レジカウンターの奥に設置されているテレビを眺めていました。テレビからは「少子化のため物資の生産が間に合わず、どの地域においても物資不足である」というニュースが流れています。ニュースを読んでいたアナウンサーはガリガリにやせ細り、目はどこをみているのか焦点があっていません。コンビニを一周してみたところ、カップ麺、お菓子、パンなどちらほらと見られます。まだ人類同士で共食いをするほどでもなさそうだと安心し、酒の棚に向かいました。一番多く残っていた百円の紙パック酒を二本とってレジに向かい、テレビを見ている従業員に声をかけましたがわたしのほうをチラとも見ません。数回声をかけるも全て無視されてしまいましたので、紙パックの酒を従業員の頭めがけて投げつけてやりました。紙パックはうまいこと頭に命中し、従業員はそのままうつ伏せに倒れて起き上がってきませんでした。わたしは紙パックの酒を一つだけもらい、そのままコンビニをあとにしました。

 紙パックにストローをさし、チュウチュウ吸いながら歩きます。やはり産婦人科医院ばかりが並んでおり、わたしは残念な気持ちになってしまいました。おいしいケーキは食えないのかなあとトボトボ歩いていると、赤い服のジジイに出くわしました。ジジイは「ほっほっほ」とわたしに笑いかけ、持っていた白い大きな袋に自分の手を突っ込みました。そして、わたしに「今、きみの欲しがっているものをあげようね」と言います。ケーキをくれるんかなあと少し喜びましたが、ジジイが白い袋から出したものは先ほども見たような赤い塊でした。オンギャア、オンギャア、と泣いているそれをジジイの手からはたき落としたところ、ジジイは顔を真っ赤にして怒鳴りました。「子どもは未来だぞ!」

 恐ろしくなり、わたしは自宅に向かって走り出しました。残念ながら、ケーキはしばら食えそうにありません。

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