第47話 最終話
全員、無事、宝物殿に戻った。
「ふう……」
最後尾についていた総代は、扉をゆっくり閉めて一息ついた。
「さて、我々も祭りの続きに参加するとしましょうか」
「いいですね!」
宮司の言葉に総代は意気揚々と答えた。皆で屏風絵に布をかぶせ終えると、宝物殿の出入口へ向かった。
ふと後ろを振り向く。やはりあの扉は消えていた。
「嵐蔵くん、きっと彼らはまた来年、元気な姿で現れますよ」
心を察したように宮司はそう言い、俺の頭を優しく撫でた。
宝物殿から出ると、祭囃子が途絶える事なく鳴り響いていた。祭りの賑わいは更に大きくなり、その人出の多さから、隣町からも人々が集まって来ている事が窺えた。
ふと、お面売りの出店が目に留まる。可愛らしく作られたキツネのお面を手に取り、嬉しそうに祭りを楽しむ若い娘がいた。隣では、娘の祖母と思しき老婆が目尻を下げ、孫娘を愛おしむように見つめている。手に下げられているのは年季が入った数珠だった。ただ者では無い雰囲気。木の実でできた数珠の珠を左手で一つずつ数えているような仕草……。あの娘の後ろ姿……。
「老婆とすすり泣く女だ……」
そう確信できた時、突然、すすり泣く女が振り向き、目が合った。初めて顔をしっかりと見た。いつも泣いていた娘の顔に涙の痕は無く、輝く笑顔はその美貌を更に際立たせていた。
なっくんは気づいただろうかと思い、ほんの一瞬、女から目を離した。
ありがとう……
間近で聞こえた声にハッと目を向けると、すすり泣く女が老婆と共に俺たちの横を通り過ぎるところだった。
老婆は少し薄笑みを浮かべ、すれ違いざまに俺の頭上で、ジャラリ……! と数珠を鳴らした。
見事じゃ……
老婆の囁きと共に、心地良い風が俺を包む。
振り向いた時にはもう、二人の姿は無かった。
空を見上げると、真っ青な空に白い雲がふわりと浮かび、この爽やかな気分をより一層、盛り立てた。
その時、風が俺に語りかけた気がした。それは風に乗った折座の波動がもたらした演出か。この、清々しくも力強い波動は紛れもなく折座だ。
俺は目を閉じ、意識を空に集中した。
自然と歌が浮かんでくる。どうだろう。初の試みだ。
秋空に 雲が織りなす 福笑い
微笑みかける 青き鬼の如し
すると少し離れた場所にある御神木が大きくうねり、折座の喜びを乗せているかの様に枝葉がバタバタと踊り始めた。きっと折座に違いない。いや絶対に。何故なら今、俺の頭の中に主様の囁きが現れたのだから。
「嵐蔵、上出来だ」と……。
(了)
嵐蔵 樹部るじん @kibe-rujin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます