第6話 お試し終了

「馬鹿野郎! 死にてぇのか!?」


 気づくと俺は……道路に座り込んでいた。目の前をトラックが思いっきり横切っていく。


「え……俺……え?」


 俺は意味がわからず、今一度周囲を見る。


 よく見る街の光景、道、建物……間違いなく、俺が今まで過ごしていた街、世界だ。


 でも、俺は確かついさっき、自分でトラックの前に飛び出していって――


「大丈夫ですか?」


 と、背後から声が聞こえてきた。俺は振り返る。


「あ……」


 そこにいたのは……セーラー服姿の銀髪の少女だった。心配そうな顔で俺のことを見ている。


「あ……アンナ……」


「へ? あれ? お兄さん、私と会ったことあります?」


 自然と口から出た名前に俺自身も驚いてしまった。


 あれ……どうして今俺、目の前の銀髪の子をそう呼んだのだろう?


「あ……ごめん。その……知り合いと似ていて……」


「……あぁ。そうですか。ありますよね。そういうこと」


 俺は恥ずかしくなって思わず俯いてしまった。と、なぜか今一度女の子が俺の肩を叩く。


「ちょっと、歩きませんか?」


「え……あ、はい……」


 言われるままに俺は女の子と歩き出す。女の子はなぜか鼻歌を歌いながら、俺の少し前を歩いていた。


「……あ、あの……俺……」


「どうして、死のうとしたんですか?」


 急に女の子は振り返ると、俺にそう言ってきた。俺は……返事ができなかった。黙ったままでいると、女の子は怒った顔で俺の方に近づいてくる。


「アナタ……この世界のこと、分かったつもりですか?」


「え……?」


「私は、この世界のことを知りません。どこに何があって、どんな人がいるのか……まだ、知らないことだらけです……アナタも知りたくありませんか?」


 そう言われても俺は何も言えなかった。ただ――


「……俺、その……近所から、あまり遠出したことないから」


「え? そうなんですか?」


 女の子は驚いた顔で俺のことを見る。その表情も……なぜか、どこかで見覚えのあるものだった。


「……そうなんだ。君の言う通り、俺は……この世界のこと、何も知らないと思う。それなのに、この世界は俺に合わないと決めつけていた気がする……」


 自然と……涙が出てきてしまった。あまりにも自分が情けなくて、俺は……


「だったら、案内させてくださいよ」


 と、女の子は俺に手を差し出してくる。その少し可愛そうなものを見るかのような笑顔も……どこかで見たことのある懐かしいものだった。


「え……案内って……」


「私、結構、遠出するタイプなんです。アナタのこと、初めて会ったはずなのになんだか放っておけなくて……だから、せめて案内させて下さい。きっと、この世界のこと、気に入りますよ?」


 俺は差し出された手を思わず掴む。女の子は嬉しそうに頷いていた。


 俺は心の中で思っていた。


 今度は、あまり文句を言わないようにしよう、と。

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お試し異世界転生 味噌わさび @NNMM

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