第2章 騎士(ニャイト)の鎧は呪われている 後編~解放される愛情~

地に足がつかない。


ここはどこだ。辺り一面、白色。地平線があるのかすら、わからない。


けど、地に足がついている。大地はあるのだろう。


おや。ふと目の前に視線を戻すと認識できる泡沫がある。割れないようにそっと手を伸ばしてみる。


その泡沫は丸い形をゆらゆら揺らし、まるで手で引き摺り込むように


一部を伸ばし、私の全身を取り込む。


その光景は私がよく知っている場所だった。


2度と思い出すことはしないと奥に追いやっていた記憶。


「我」を形成してしまった深層心理。


追憶の泡沫は私の拒絶する心を無視して、時を巻き戻す。



私はずっと力が欲しかった。人間共は私にひどい仕打ちをした。


無力故に抵抗できないで、ただ繰り返される暴力を受けてるだけの自分が


とても惨めだった。


生まれてから物心がついた時、親は亡くなっていた。


兄弟もおらず、天涯孤独であらゆるところを転々と渡り歩いて生き長らえていた。


最初に出会った人間はペットショップの店員であったか。


"首輪がついていないところを見ると野良だな。とっつかまえて商品にしてやろう"


奴は鉄の籠を私の前に仕掛けた。


その中には、魚、米、水……私の食欲を掻き立てる魅力な食物の数々。


何日も食べ物にありつけていなかった私は恐れる気持ちを忘れて本能に従い中に入っていった。


退路は閉ざされた。だけど、食物に夢中だった私は知る由もない。


しばらく、闇夜のような中揺れ続けた。食物を食べ終えた私はやっとまわりを見ることができた。


どこに連れていかれるのだろう。規則性のない揺れは私を不快にさせる。


目を閉じ、事が収まるのを待った。


揺れが収まり、私の夜目を細めさせる光が入り込む。


私を容れた籠は運ばれていった。私はやっと捕らえられたのだと理解し


鉄の籠を壊そうと試みる。しかし、幼かった。闇の力も手に入れてなかった私に


人間の狡賢い罠を見抜くこともかわすこともできなかった。疑うことを知らないから。


建物の中に連れ込まれると、様々な種の動物が私を奇異な目で見て迎えた。


皆、狭い場所に容れられていた。私もこの中に入らなければならないのか……


案の定、私も容れられてしまったのだ。唯一の退路が開けられたが、


手慣れた手つきで私の首根っこを掴む。


噛みつくことも引っ掻くこともできず抵抗できぬと諦め、私はまた閉ざされた空間に押し込まれる。


1匹しか入らない広さのようだ。圧迫されているようで落ちつかない。


だが、ここにいれば餌にありつけられるだろう。


しばらく我慢し、様子を見ることにしよう。



餌に困ることはなかった。


だが、毎日、人間に見つめられるのが落ち着かない。


それに、皆を一斉に広い部屋に放される時、私は皆にの中に打ち解けられなかった。


1匹の時も嫌なのだが、皆といる時も孤独でいるような錯覚を感じ、平穏が訪れない。


皆は私に構うことなく遊ぶ。私は決心した。


こんなとこ出て行ってやる。


また、広い部屋に連れて行こうする主人の手を引っ掻き脱走した。


店主の怒りに満ちた声に怯むことなく、逃げ出すことに成功。


奴に後ろ髪惹かれる想いはない。私は駆ける。


見たことのない景色が広がる。


私は足をつけたことのない土地に連れてこられてしまったようだ。


どこへ行けばいいのだろう。


途方にくれるしかない。だが、暗闇なのは好都合。


人間は私を見つけにくい。早く体を休める場所を探さなくては……


ここら一体は木々が多い。身を潜める場所があるかもしれない。


お誂え向きに住処にできそうな穴が開いている木を1本見つけた。


ここを私の住処としよう。そして、良き伴侶がいれば共に住むことも……。


子沢山でも住める。これからは幸せになるんだ……。


安心したとこで眠気に襲われる。私は穴の中に入り深く眠った。


”なんだこいつ。おれらのひみつきちでねてるぞ”


…む、誰かが私をつつく感触で目を覚ます。


ぼやけていた視界が晴れると目の前には人間の子供が2人いた。


”ふほーしんにゅーねこめ!せいばいしてくれる!!”


”おれらがいるかぎり、あくはさかえない”


私は悪者になってしまったようだ。木の棒を構えられている。


よりによって1番敵いそうにない人間の縄張りであったとは……


しかし、譲るわけにはいかない。もう後がないんだ。


住処を失ったあとの安全と幸せは保障されてないのだから!!


他にも居場所がある人間に渡してなるものか!!


「フシャァー!!」


私は毛を逆立て、爪で引っ掻くべく子供達に飛びつく。


”このでんせつのけんで、おまえなどいっぱつだ!!”


”おれたちふたりなら、こんなざこ、らくしょうだ”


子供達は手に持っていた木の棒で、私の爪が届く前に叩き落とす。


「ニャァ……」


”とどめをさすチャンスだ!いっきにいくぞ!!”


”おぅ!!”


2つの木の棒が私の体に躊躇いもなく振り下ろされ続ける。


私の記憶はここで途切れる。


だが、追憶の泡沫はこれ以降の子供の様子を教えてくれた。


”うごかなくなったぞ。でも、どうしてきえないんだ!?”


”ばか、ゲームじゃないんだからきえるわけないだろ”


”じゃあ、きりきざんでやろうぜ。そしてうめてやろうぜ。

 あくは、ここにねむる。みたいにさ”


”やめろ、もうたおしたんだ。それに、どうぶつのしたいなんて、

 きたない。、ほっといてカラスのえさにでもしよう”


”そうだな、もういえにかえってゲームしようぜ!”


子供達は横たえたまま動かない私を放って家に帰っていた。


子供とはいえ、無駄な殺生を行う人間は危ないと学んだ時であった。


あいつらに食われたりしなくて良かった。血肉なってまで生きたくはない。



「ニャア……」


私が目を開けると黒い世界が広がっていた。


目が見えなくなってしまったか。


瞬きを何度かし、もう一度空を見上げる。徐々に視界が戻ってきた。


黒い世界は変わらずだが、輝く星を観測できる。


夜目には眩しいが、星座の導べが私の移動したいという意欲を浮かび上がらせる。


次の居場所を見つけなくては。


少しふらつく体で歩き始める。


夜になると現れる私の分身も同じ動きをしながら後を追ってくる。


木々が多いところ場所を見つけた。他に天敵がいないかと警戒したが


身を隠すにはちょうど良い場所であると中を探索することにした。


木々を通り抜け、草が短く整えられてきている。顔を上げると、


1軒の家が建っていた。


2階建てであり、上の階でトゥルーラディウス型の窓から


大人び始めている少女が夜空を眺めていた。


人間……と一瞬構えたが、不思議と警戒を解いていた。


星明かりと夜の影が魅せる彼女は綺麗だった。


星に夢中になっている瞳も一等星の輝きを放っている。


私も彼女に見惚れていた。


手の届かない星に彼女は何を想うのだろう。


私も彼女に抱くこの想いは何なのだろう。


私は近づいて確かめることにしよう。


手の伸ばせる距離まで。


恐怖心より好奇心の塊となった私に不安は纏わりつかなくなり、


堂々と歩み寄っていけた。


彼女の家を囲む木々を伝っていき、目と目が逢う距離まで近づいた。


それでも彼女の視線は星に奪われたままで私に関心が向けられることはなさそうだ。


「ニャー……」


気づいてもらいたい。


緊張が声を弱くし、届く前に掠れ消えた。


彼女は星を見つめたまま。


フーッ。深呼吸して自分を鼓舞し


「ニャアーッ!」


今度は思ったより強く鳴いてしまった。


自分の声ではないかのようにどぎまぎし、心臓の高鳴りを自覚する。


「……あら、あなたの声だったのね。こんなところに猫が来るなんて珍しい。

 迷子かしら?」


彼女がこちらに振り向き、手を差し伸べてくる。


人間と同じ目線となり、心臓の高鳴りはますます速くなる。


心臓の動きとは反対の動きで、彼女に近づき、手に擦り寄った。


「毛がふわふわ。ずいぶん人馴れしているのね。

 飼い主とはぐれてしまったのかしら。こんな広い森の中で。

 ……あら、ここ」


ズキンッ!


「フニャア”ア”ア”!!」


鈍い痛みが全身に駆け巡る。


私は痛さのあまり威嚇の体制となってしまう。


「あぁ、やっぱり。傷口だったのね。ごめんなさい。

 痛かったわね……。手当しなきゃ」


彼女は窓から離れ、奥の方に行ってしまった。


もしかしたら威嚇したことによって彼女に嫌われてしまったかもしれない。


もう姿を見せたくないと離れていってしまったのかもしれない。


体より心が痛み、目が潤んできている。


手に入れたわけでもないのに何かを失った感覚。


この感覚の正体は何だ……?


「お待たせ。今、手当をするから……って、どうしたの!?

 傷が痛む!?私が触ったからだ、本当ごめんなさい」


私を見つめる彼女も目が潤んでいる、


いつのまにか彼女を傷つけてしまったのか……?


彼女の傷を癒したい。私は彼女の手を舐める。


「くすぐったいよ……。もしかして私がさっきいなくなったから寂しくなった?

 ごめんね、置いてけぼりって不安になるよね」


彼女がまた私を撫でる。心の痛みはひいた。


手と言葉の温かさが痛みを癒すなんて……。


彼女は母のようだ。私は自分の母を覚えていないが、この心地よさを知っているような気がする。


彼女が思い出させてくれた。


「ニャア……」


今までずっと、安心することができなかった。


体も心も冷たく固くしていた。だけど、今一気に解放できてほぐれる。


同時に体の悲鳴が聞こえてきた。


傷口と共に全身が痛む。


「ニャウ……」


「ごめんね、沁みると思うけど我慢してね」


そう言い、彼女は私の体にぬるま湯をかけた。


「ニャア”ア”ア”ア”ア”!!!!!」


傷口に沁みるのと体が濡れた不快感で再び毛が逆立つ。


「ブルルルルルルッ」


そして、体の水滴を払う。


「わぁ、猫って濡れると体を震わせるのね!面白い!!

 本物の猫って図鑑で見るよりとても可愛いわ!

 会えて良かったわ……。

 あ、包帯を巻くから、じっとしててね」


体をタオルで拭かれた後、彼女は私に包帯を巻きつける。


私の青い体に包帯が縞模様をつくるように巻かれていき


体の真ん中は完全な白となった。


「これでよしっと……。ごめんね、このあたりに病院がないから


私の応急処置だけど……。本当は獣医さんに診てもらいたいけどね。


私の薬草の知識は、猫に応用しても大丈夫かな……。


猫って植物が有害になるものが多いからぬるま湯かけて包帯巻くだけにしたけど、


消毒した方が良いのかな?


ん~、こんな時、相談できる人がいれば良いのに……。


でも、きっと大丈夫。私の体調不良だってここに住むことによって回復したもの。


あなたの体も良くなるわ」


彼女の言っていることは難しくてよくわからなかったけど、私の体を治療してくれたようだ。


包帯が邪魔だと感じるが、しばらく白くなっていよう。


「ねぇ、あなたの名前は何て言うの?

 ……あれ?てっきり飼い猫だと思ってたのに首輪がついてなかったのね、

 じゃあ、名前がないのかしら……」


名前……。家族は私に名前をつけていてくれたのだろうか。


「名前を呼びたかったのに……。そうすればあなたともっと仲良くなれると思ったのに……」


彼女が寂しそうな顔をする。


名前とはそんなに特別なものか。


「ニャアー」


私に名前をつけて。


彼女の手に私の手を乗せて、そして見つめる。


「本当、人馴れしているのね。出会ったばかりの私に触れてくるなんて。

 きっと、前のご主人様は愛情深く育ててくれたけど、やむを得ない事情があって

 あなたを手放したのかしら……?」


違う……逆である。人間に愛情深く接してもらったことはない。


「……違うのね。目が泣きそうになってる。辛いことを思い出させてしまったみたいね。

 ごめんなさい。あ、そうだ。これを見たら元気になってくれるかも!!

 また、待っててね。私、まだまだあなたとお話しがしたいの!」


そう言い残し、彼女はまた奥の方に消えていった。


戻ってきたら、名前つけてくれるかな。


彼女は駆け足で戻ってきてくれた。少し息が上がっている。


「お待たせ、猫には魚よね!あと、喉も渇いているよね。

 水と鰹のすり身を混ぜたねこまんまだよ!お腹すいてたら召し上がれ!!」


私の前に容器を2つ置き、頬をついて私を見つめる。


ご飯にありつけたのはペットショップ店員が仕掛けた囮の餌以来か。


私はまた、食欲に負け警戒することなく食物に食らいつく。


「ガツッ、ガフッ」


次に水も求める。


「ピチャッ、ピチャッ」


舌が少ししか掬い取れないのがもどかしい。


「うふふ、そんなに急いで食べなくても取らないよ。

 でも動物にとって食事中も安心して食べられないのが本来の姿よね……。

 ここに居ればゆっくり食べることができるよ……?」


彼女の手が頭に置かれ私を見つめてくる。私も彼女を見つめ返す。


「ニャー」


彼女の目が星を見ていた時のように輝いてた。


彼女に抱いた気持ちがわかった。


一緒にいたい。猫と人間だけど。


鳴き声が通じるわけじゃないけど。


声だけが意思疎通の手段じゃないんだね。


目を見つめ合ったら。


手と手が触れ合ったら。


体と心の温かさが伝わってくるんだね……


私も伝えるよ。


手を差し伸べてくれて。


ご飯を与えてくれて。


ありがとう。


人間にも良い人がいることを知ったよ。


1つ我儘を言わせてください。


あなたの特別になりたい。


「ニャー」


この鳴き声にその想いを託した。


「……私、あなたとお友達になりたいな。

 家族につけてもらった名前とは違うだろうけど。

 さっき、あなたがご飯を食べている時に決めたの」


私の名前……特別……


「あなたのその凛々しい眉毛のある顔と、鰹をたべてると姿を見て

 『かつおぶし』にしたわ。武士とかけて。どう?気に入ってくれたかしら?」


かつおぶし……これが私の特別……


「ニャ~!!」


感謝の気持ちで心がいっぱいになった。


「良かった。気にってくれたのね。笑顔が素敵ね……

 じゃあ、私の名前教えるね。

 私は……」



ニャイト「……ハノン」


我の中に人間との記憶があったのか……


今、呟いた人間の名前は我に温かさを思い出させ、


そして弊えないように常に注いでくれる存在だった……!?


何故、我は彼女を忘れていた……!?


「グッ、グゥ……」


どうして、彼女を心に留めておかなかった……!?


またたび「優唯ちゃん、ニャイトの様子が!」


優唯「ニャイトさんの中には、憎悪もあったと同時にある人への

   想いがせめぎ合っていたの。それがハノンさんだね。

   私はこの胸から溢れる光で、ハノンさんへの想いを照らし

   思い出してもらおうとしたの。

   ニャイトさんにもあって良かったよ。これがなければ救うのが

   難しかった。今は誰かを愛する気持ちは何かのきっかけで壊れて、

   散らばって、奥に消えいってしまったんだよ。

   さっき、トゥルース・ライトで見えたニャイトさんの中にいる

   かつおぶし君のの心は粒くらいの光しかなかった」


優唯は、眉を顰め俯く。だけど、顔を上げて、またたびに笑顔を向ける。


優唯「けどね、微かな光も集まれば、また元の輝きを放つよね!」


またたび「闇に埋もれる前に」


優唯「救い出さなきゃ!!」


追憶の泡沫は回想を再開する。



ハノン「私はハノン。「波」に「音」と書いて波音というの。

    あーあ。動物とお話しできればいいのにな。

そうすれば、名前を呼び合うことだって、

    お互い知ることだってできるのに。

    どうしてなのかな。同じ時を生きるもの同士なのに」


かつおぶし「ニャー」


波音…私も波音と呼びたいよ。


この鳴き声では波音と発することはできない。


想いを分かち合いたいよ。


波音「音ってね。空気を震わせて伝わるものなんだよ。

   そしてね、音は振動の他に感情も伝えるの。

   例え、言語がわからなくても音が心を震わせて

   感じさせるの。だから、かつおぶしのこと、

   なんとなくだけどわかるの。

   今のニャーって、私のこと呼んでくれたもんね?」


もう私達は言葉の壁をとっくに取り払っているのかもしれない。


いや、そんなもの最初からなかったのかもしれない。


かつおぶし「ニャア」


そうだよ、波音。波音の名前には素敵な意味が込められているんだね。


私の『かつおぶし』には、どのような意味があるの?


波音「私の名前、褒めてくれた!いいでしょ?

   私も気に入っているんだよ。

   え?かつおぶしの名前の由来を知りたいの?」


私は頷いた。波音が込めてくれた気持ちを知りたいから。


波音「えへへ…かつおぶしってね。もともとは鰹を加熱してから

   乾燥させた保存食の名前なんだよ。

   あと、凛々しい眉毛がね。武士に似てるなぁって。

   武士の肖像画って、厳つくて頼もしいの。

   現代にはいないんだけどね。

   ご先祖様は鎧を着て戦っていたみたい。

   今は乱世じゃなくて良かった。

   昔に比べてかなり無防備だけど。

   それだけ、人と人の争いが減ったってことだもの。 

   …けど、なくなったわけじゃないんだよね。

   今だって、見えない武器で戦いは続いている…」


波音の目が潤む。


それは人間だけではない。猫だってある。


どの動物だって、争いは絶えない。


波音「……あ、とにかくね。あなたはかっこいい武士みたいって思ったの。

   鎧を着たら似合うんじゃないかな。

   もしものことがあったら、その時は私のこと、守ってね。なんて」


波音はにんまりと笑う。


武士……鎧……。おそらく見たことはない。私もなれるかな。


波音を守れる強い猫に。


波音「……本気にしなくていいのよ?

   私なんかの命を狙いにわざわざこんな所に来る人なんていないわ。

   ここへの来客は、野菜、薪など生活品を届けてくれる、近隣の村に住む

   私と同じくらいの男性くらいだもの」


波音の顔が仄かに赤らむ。


むむむ……波音にとって大切な存在だというのに、何故か胸が痛む。


波音「この奥に村があるんだけど、そこから定期的に通ってくださるの。

   昨日だったら、かつおぶしも会えたのに、残念ね。

   とても、格好いいの、早く会いたいな」


もうすでに、波音にとっての武士はいるではないか。


食物・その他、生きていくことに必要なものを獲得し提供する。


もはや、伴侶の領域だ。


それに、私なんかいなくても彼女は寂しくないではないか。


波音「そんな顔しないで。また、そのうち会いに来てくれるわ。

   今度からは、かつおぶしのご飯も頼みましょうか。

   私も一応、畑を耕して野菜を育てているけど、たくさん作る

   体力がないし、かつおぶしは野菜食べちゃダメだよね。

   あの人と村の人達のおかげで衣食住不自由なく暮らせているの。

   電気だって通してくれてるから、便利な生活も生活も送れるよ。

   いつか、恩返ししに行かなきゃ。

   それに、あの村の一員になれればあの人と過ごせる時間増えるかな」


「あの人」の話題がでている間、私と彼女の心はすれ違う。


人間と猫を分かつ壁を生じさせ、途端に互いを見えなくさせてしまう。


私も私自身も見失いそうになる。彼女のことを取られたくない。


あの人が、やっと見つけた私の大切な存在を奪うかもしれない。


あの人の許に行ってしまった波音は私のことなど構わなくなるかもしれない。


私のことをわかってくれなくなるかもしれない。


あの人が私と波音を引き裂くのなら……


私は波音を奪われないように、爪を構えるだけ。


のこのこ、来たところを引き裂くだけ。


心意気は武士に近づけたようだ。


波音「あの人に恋人はいるのかしら……。

   村の中に……、いえ、外の人とかしら。

   交流だってあるわよね。

   現に私を夢中にしているわ。

   優しくて格好いい人。きっといるわよね」


心はもうすでに奪われてしまっている。


これ以上はさせない。取り戻す。


私はしばらく厄介になれる機会を得た。


あの人が埋めた以上に、私との思いでを彼女に注ぎたい。


溢れてしまうくらいに。


波音「あ、そろそろ寝なきゃ。星を見てると時間を忘れてしまうのよね。

   今日は流れ星のように突然私の前に、かつおぶしが来てくれて嬉しかった。

   願いの1つが届いたかな。いつまでもいていいからね」


かつおぶし「ニャア!」


これから彼女と過ごせる日々を送れる。


私も共にいることを誓うよ。あなたを守る。


起きたときから眠りにつくまで。


寝ている間なら、すぐに危険を察知して対処する。


波音「でも、その前に……

   お風呂入ろっか。綺麗にして寝ましょ?

   それに、裸の付き合いって距離が縮まるみたいだよ!」

   友達とお風呂入ってみたかったの!!」


かつおぶし「ニャッ!?」


私は波音に抱きかかえられ、共に奥へ消えた。



波音「さっきもお湯かけたけど、私と一緒にお風呂でしっかり汚れ落とそ。

   私も夜風を受けたから砂や埃ついちゃったし。

   先にかつおぶしを洗ってあげるね」


私は波音に抱えられ、脱衣場に来た。


洗面台、タオルなどを入れる棚が置かれており、


棚の空いている部分に私は一旦置かれる。


彼女は身にまとっている服を脱いでいく。


人間は毛を纏わない代わりに服を纏っている。


暑いときは脱げて、寒い時は重ねられて便利だと思う。


反面、いちいちその場所に合わせた格好しなくてはならないのは手間だと思った。


一糸まとわぬ恰好となった波音は、私に巻きつけていた包帯を解いていく。


そして、再び私を抱え、風呂場の引戸を開ける。


湯気が私達を包み、微かに体を湿らせてくる。


お湯のたまり場を見て、恐怖を感じるが、


背中にあたる2つの膨らみが私を安心させる。


私の全身を包み込むほどの大きさ。柔らかい。


波音「じゃあ、かつおぶし。この中に入ってね。」


波音は木の桶にお湯を溜め、その中に私を入れる。


私が座った状態でお腹ぐらいの水嵩である。これなら怖くない。


波音「シャワーかけるよ。目瞑っててね」


上から雨を強くしたような水の大群が浴びせられる。


波音「大人しくしててね」


そう言って、波音の手が私をこすり始める。


かつおぶし「ニャア”ッ!?」


波音「あ、ごめんまた傷口に触れちゃった!?」


お湯が沁みる。人間によって抉られた傷口に深く深く入り込んでくる。


表面にいる私を犯そうとする雑菌よりしぶとい人間に対する憎悪が刻まれている。


お湯ごときでは洗い流せない。


だが、彼女を介してだと憎悪がほぐれてきている。


波音のおかげで、人間を完全に嫌う心はなくなった。


現に、私は彼女といることを望んでいる。そして、触れることを拒まない。


それは、体でもあり、心さえも。気の迷いではない。


まだ素直にはなれないが、徐々に人間と仲良くできたら…とも考えられるようになった。


私の心にゆとりができてくる。ここに、また楽しいとか嬉しいとか


素敵なものを詰められますように…


かつおぶし「ゴロゴロッ♪」


波音「ご機嫌になったの?喉鳴らしてる~。

   さっきはごめんね。気をつけて洗うね」


波音はふわりと頭を撫でてくる。


そして、シャワーを止め私を抱える。


私の入っていた木の桶のお湯を捨て、先程と同じくらいの水嵩を溜める。


再び、私をその中に入れ、その木の桶を浴槽に浮かべる。


波音「私も体と髪洗うから、待っててね。」


波音の髪に、お湯が降り注ぐ。


髪から滴る水滴が、体にも滑り落ちていく。


人間は肌を剥きだしているのは何故だろう。


あんな、やわな肌では、外敵にすぐ傷を発見される。


傷がついて弱っていることが外敵に知られたら、そこを狙われる。


そういえば、人間には鋭い爪や牙がない。


肌を傷つけあうことはなくなったのか…


ならば…好きな者を魅了することに特化したのか。


それなら、あんなに無防備でも仕方ない。


温もりが直接伝わる体の構造か……


人間は交わったらさぞかし、愛が持続するのだろう。


だって、すぐに自分の温かさを相手に伝え合うことができるのだから。


波音「かつおぶし~、そんなに私を見てどうかしたの?

   何か変、私の体?」


私は、ふるふると顔を横に動かす。


そういえば、先程の膨らみが当たった背中はとても温かった。


波音「さて、体も洗い終わったことだし、かつおぶしと一緒にあったまろ」


波音が浴槽に浸かる。


私の入っている木の桶の位置が上がり、ゆらゆら揺れる。


波音「えへへ、かつおぶしが私の目線に近くなったね」


波音は私を見つめながら両頬を手ですりすりしてくる。


波音「私、すぐのぼせて長風呂できないから、5分間だけ浸かろうっか」


先程からお湯に浸かっているが、私はまだまだ平気である。


波音が私の浸かるお湯の温度をぬるめにしてくれたのだろう。


5分だろうと10分だろうとへっちゃらだ。


波音「~♪」


彼女は何か歌を口ずさんでいた。


私は目をつぶり、歌に耳を傾ける。


透き通る声に微睡みを感じる。


私は眠気を覚まそうと顔をぐしぐし擦る。


波音「~♪……あ、かつおぶしが顔を洗ってる~。

   明日は雨が降るかな?

   なんて、ここお風呂場だし湿ってるもんね」


違う。波音の歌を眠って聞き逃さないようにしていたのだ。


野生の習性ではないのだ……


なんて、心で言い訳しているうちに波音の鼻歌は終わる。


波音「さて、この曲約4分くらいだから……。

   かつおぶし、後残り1分。私と数えて。いくよ!

   い~ち、に~」


波音の歌は終わってしまい、数字を数えることになった。私も慌ててそれに続く。


ずっと、ニャーニャーしか言えないけどね。


そして、1分とは何かかわからないから余分にニャーと鳴いてしまったのは言うまでもない。


波音はさっきまで着ていた服とはまた別のもの着て、再び私達は彼女の部屋に戻ってくる。


人間は温かい風や涼しい風を吹かせるものをつくれるみたいだ。


あれは気持ちよかった。ドライヤーというらしい。寒くなった時、ドライヤーの前で丸くなりたい。


波音「さっぱりしたね。さぁ、もう一回包帯巻こうか。

   大人しくしててね」


再び、私は体の一部を白くされる。


波音「さぁ、寝ましょうか。あなた専用のベッドを今は用意できないから、

   一緒に寝ましょう」


そうして、辺り一面を黒色にして、それからベッドの近くがオレンジ色に光る。


波音「私、しばらく寝付けないからまたお話ししましょう。

   今日は、素敵な1日になったわ。あなたが家に住んでくれることになって。

   友達であって、家族にもなれたのよ。私このベッド、いつも1人では広いなって

   思ってたの。今は少し狭くなって嬉しい!」


私も誰かと安心して寝られるのは久しぶりだよ、と鳴く。


波音「そうなの。いつまでもいていいからね。強制はできないけど……。

   でも、あなたが居たいと思ったら、ここはあなたの家だからね!

   縄張りだからね!」


ありがとう、波音。


私はあなたと、この場所を守る。


でも、これは勝手に誓ったものだから。


私も波音に強制したくないから。


鳴かずに、目を閉じた。疲れもどっと押し寄せてきて瞼を無理矢理閉じさせたのだ。


大丈夫だ、また朝、目覚めれば波音を見ることができる。


ここで、私の意識は夢に誘われていた。


波音「うふふ、疲れちゃったかしら。私も寝よう。

   この灯り、かつおぶしがいればつけっぱなしにしなくていいわね」


波音は手元のオレンジ色を消し、枕に頭を乗せる。


そして、また私の頭に手を乗せ、ゆっくり撫でてくれていた。


波音「おやすみ、かつおぶし」


そして、彼女も目を瞑りしばらくして寝息をたてていた。


私は、いざとなれば目を覚ましたが、この日は目を覚ますことはなかった。


私と彼女の寝息が部屋の中で静かに響いていた。朝、日が出ずるまでずっと。



鳥の囀る声が聞こえる。


目を開けると、朝日が目に突き刺さる。


朧気な視界を白くし、頭が痛くなる。


目を瞑り、頭をブルブル振る。


もう一度目を開けると、まだ視界の霞が晴れないものの波音の部屋にいることを認識する。


波音「くー……」


波音はまだ眠っているようだ。寝息をたてている。


私は波音が起きるまで暇を持て余してしまう。


どうしようか、もう一眠りしようか……。


波音「んぅ、かつおぶし……?」


波音が寝ぼけまなこで私を探している。


かつおぶし「ニャアー」


私は返事をした。目の前にいるのだけどね。


波音「かつおぶしー」


波音が手を伸ばし、私を抱え顔を近づける。


波音「びっくりしたぞ~……いなくなったかと思ったぞ~……」


ウトウトしながら彼女は私に頬擦りする。


波音「ん~、ふわふわ。朝も寂しくなーい」


私の毛が乱れる。


波音「起きよっか。ご飯にしましょ」


かつおぶし「ニャア!」


波音と共に食事する初めての日である。


波音は私を抱き上げ、テーブルの上に乗せる。


波音「朝起きたら、まず水を飲まないとね。

   脱水症状は危険なんだよ。さぁ、かつおぶしも飲んで」


私の目の前に、昨日も差し出してくれた容器が置かれ、水が注がれた。


私は水を舐め掬い取る。寝起きの乾いた喉が潤っていく。


波音「さぁ、ご飯にしましょう。かつおぶしには、またねこまんまだよ!」


昨日と同じ水と鰹のすり身を混ぜたねこまんまが入った容器が差し出される。


私は、夢中でかぶりつく。


波音も、自分の食事を準備している。


そのものは、私が食べているものと似ていた。


波音「あ、だめよ。私の食べる分よ。

   それに、これはお湯と混ぜているから、あなたには熱いわ」


かつおぶし「ニ”ャア!!」


覗いてたら湯気で顔が熱くなってしまった。


慌てて、顔をぐしぐし洗う。


波音「熱かったでしょう。みそ汁が飲みたいの?

   なら、あなたのねこまんまに冷ましてから入れてあげるわ。

   まず、かつおぶしの顔、飲み水で冷やして」


私は、波音の言う通り、水の容器に顔を突っ込む。


コンコン


食事中に来客である。



「あ、――さん、来てくださったのですね!! 今、お茶用意しますね」


思い出したくない名前。伏せて回想されている。


奴は、波音の向かいに座った。


「やぁ、波音。野菜に肉に魚に充実しているだろう。豊作だよ。

また、分けに来たよ」


「本当だ。美味しそう。あ、そういえばですね。昨日家族が増えたんです。

紹介します。猫のかつおぶしです!!」


「ニャー!!」


この時の私は完全に警戒することを忘れて気を許してしまった。


私が警戒していれば波音を守れたのに……


「猫なのに、かつおぶしって……はははははっ!!!!!」


「おかしいですかね、だけど、武士ともかけてるんです。凛々しいお顔でしょう」


「そういえば、そうだな。なるほど、安直な名前ではなさそうだな」


「ニャー!!」


波音がつけた私の名前をバカにするな!!


「ははは、怒るなよ、猫君。君の分の食事もこんだけあれば十分あるからさ」


それからは、波音とそいつが楽しそうに会話していた。


何だか気に食わない。


「おっと、もうこんな時間か。来週また来るよ。その時、絶対居てくれ、大事な用があるから」


「わかりました。大事な用って何でしょう?」


「来週まで秘密だ。じゃあね」


「はい、また」


「ニャー!」


来るな!!食べ物だけ置いていけ!!



「ね、かつおぶし、――さん、カッコイイでしょう?それに大事な用だって、何だろう?

村でお祭りがあるから、そのことかな?」


「ニャー?」


お祭りとは……?


「お祭りって、楽しいことだよ。豊作を神様にお祈りしたり、収穫物を皆でパーッと食べたり……」


「ニャー」


魚が食べ放題なのは楽しそうだ。来週が楽しみだ。


だが、その来週の用があのようなことになるとはこの時の私は知る由もない。



その来週はあっという間に訪れた。


コンコン


この時、私が一目散に扉を開け、奴を切り刻んでしまえば波音は助かったのに……


「はーい、――さん、お待ちしておりましたよ。それで、大事な用とは……」


「波音、今から儀式をするよ」


奴の右手には謎の金属が握られていた。


リーン、ゴーン。リーン、ゴーン。


鳴り終えると、波音の目から光が消えた。


「女よ、命を孕め。贄の数を増やすために。

 そして、守り神様にその命と宿った命を捧げ、村に安寧をもたらせ。

 繁栄の象徴である贄をやせ細らせてはいけない。故に、

 お前の腹を満たし続けた。さらに膨らませ、腹の命を育てろ。

 守り神様が満足する肥ゆる贄を。

 お前達の犠牲がさらなる命をつくりだすのだ!」


波音は服を脱ぎ始めた。


彼女は想い人と体が交わっていた。


だが、そこには冷たさしか流れていないだろう。


だから、それを受けた彼女の涙は冷たかった。


表情に喜びがない。


男は、彼女をもう用はないと投げ捨てた。



私の舌は彼女の受けた冷たさと辛辣さを掬い取る。


もう、この行為では彼女を救えない。


彼女はそこにあるのに、そこに彼女はいない。


奴は波音の心を殺したのだ。


なぜ、波音は奴を振りきらなかったのだ。


相応しくない雄を振り切るのは、雌の本能だろう。


それとも、好きの感情だけで波音は受け入れ続けていたというのか!?


バカだ。波音はバカだ。命を削ってまでする交尾など必要ないのに。


交尾は命を繋ぐものだというのに。



私はなりふり構わず、奴に突っ込んだ。


だが、あっけなく奴に振り払われた。


私に力があれば……


薄れゆく景色の中、波音は奴に連れ去られた。


私はそのまま、しばらく眠ってしまった。


意識が目覚めると波音の家に私だけ。


奴を探し出さねば。波音を取り返さないと。



――力が欲しいか



「誰だ。私に語り掛けてくるのは。この空間には私しかいないはず……」


――上だ。上を見よ。


上を見た。そこには、金属が浮いていた。


「何だ、これは。人間の創作物か?」


――我は鎧。血を欲する呪われた鎧。


「鎧、鎧なのか!?これが、波音が言っていた武士が着ていたという鎧なのか?」


――違う、我を着ていたのは、武士ではなく騎士である。


「違いがよくわからないが、とにかく鎧なのだな。その鎧が私にどう力をくれるというのだ?

私では、あなたを着ることができない」


――大丈夫だ、我はどのような動物でも着こなすことができる。埋まらない部分は闇が埋まる。

だから、隙間ができない。



「そうか、ならば私はあなたが欲しい。人間に仕返しをしたいのだ」



――わかるぞ、憎悪が。目から、オーラから。人間への復讐に駆られている。

我を纏えばその願い、叶えられよう。さぁ、我の中へ入るがいい……

ただし、取引だ。その体は我のものになる。一生我から離れることはできない。

そして、定期的に人間や動物の生き血を我に提供するのだ。

それが条件だ。


「わかった。私に波音を救う力があるのならば構わない」


かつおぶしは、跳び、鎧の頭の部分に入り込んだ。



一日程、眠り込んだだろうか。体に鎧が馴染んだ。


目線が変わった。大分、背が伸びた。


これが人間の目線……


さぁ、波音を探さねば。


――人間の探知など容易い。任せるがいい。


頭の中に、波音のいる場所が流れ込んでくる。奴の村の祭壇に祀られている。



マントを翻して、天翔けた。


呪いの鎧のおかげで瞬く間に村に到着する。


波音、波音……!!


波音は……死んでいた。


お腹が少し膨らんで。私は数ヶ月ぐらい眠り込んでしまったらしい。


波音の体には、奴との子供が宿ったのだ。


だが。その子供も生贄に差し出されていた。


「何者だ、供物に手を出す部外者は同じく供物にする。覚悟!!」


奴だった。ちょうどいい。


右手の剣を薙ぎ払うと、奴の首が飛んだ。


私は……いや、我は確かに力を手に入れたのだ。


彼女が癒してくれた傷は再び開きだす。


もう、塞いでくれる存在はいないだろう。


傷を見えなくする鎧を纏ってしまったから。


もう、誰も私の傷を気づく者はいない。



さらにかつて彼女が愛していた男を突き刺した。


そして、次にこの男を仕向けた村の住人を、残らず血祭にあげた。



――どうだ、我の力は……


「良い。我は愛する者を失った。もうこの力は不要であるが、生きる理由もまたなし。

ならば、鎧の為に生きよう」


かつて愛する者がくれた名を捨て、新たな名で生きよう。


「我はこれからは、ニャイト。ニャルラト・ニャイトと名乗ろう……」



ニャイト「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


ニャイトは現実に戻り、頭を抱えてもがきだす。


鎧「大人しく篭絡されていれば良かったものを」


まるで、追体験しているようであった。かつて自分が経験した記憶であるのに。


でも、彼女の声だけははっきり覚えていた、


他の人間の声はくぐもっていて、朧気な記憶しかない。


優唯「そう、それはあなたがかつてのあなたと乖離しているから」


天使が語りかけてくる。胸の奥の光が少し漏れ出してくる。


優唯「思い出してください。ニャイトさん。いえ、かつおぶしさん。あなたはかつて愛されていたのだと」


優唯は胸の前で手をかざす。その中には光が生まれる。


優唯「私の新たな力が溢れてくる。受けてください。カタルシス――」


解放する光がニャイトに浴びせられる。


ニャイト「波音……!!波音なのか……!!私を迎えに……!!」


ニャイトはその場で棒立ちになる。


鎧「馬鹿な、我が消える……!!」


鎧からは呪いが消失する。


ニャイトは、落ちていく。


優唯はニャイトを受け止める。


またたび「やったね、優唯ちゃん」


優唯「うん、お仕事完了だね。あとはニャイトさんが目を覚ますのを待とう」


――しばらくして。


ニャイト「はっ、私は……!! 波音、波音…!!」


優唯「ごめんなさい。先程の波音さんは、私のカタルシスという技が見せた幻影です」


ニャイト「そうだったのか……申し訳ありませんでした。あなた達を傷つけてしまい」


優唯「大丈夫です。波音さんは天国に居ます。一緒に行きましょう。あなたも寿命を迎えていますから」


ニャイト「そうか……やっと、波音に再会できるのだな。天国にも地獄にも行けないかと思っていた」


凛「優唯!」


優唯「凛ちゃん、やったよ私」


マナー「気絶してて、見逃してしまったのが残念だっぜ☆彡」


紗理奈「私もだわ」


ガオル「私もだ」


凛「お手柄ね、優唯。どうやって呪いの鎧に打ち勝ったのかしら」


優唯「ほぇ? えとね、カタルシスっていう技で勝ったよ」


紗理奈「カタルシス……ですって……。優唯が、まさか伝説の……」


天使達は天国へニャイトと共に帰る。


ミカエル「皆、お疲れ様、呪いの鎧と出会えたようね。無事、連れ帰り任務完了ね!」


天使一同「はい!!!!!」


ミカエル「ニャルラト・ニャイト、もとい、かつおぶし。あなたの主人はこの天国に居ます。

     あなたの罪については問いません。天国でゆっくり余生を過ごしなさい」


ニャイト「はい。ありがとうございます……波音……!!波音……!!」


ニャイトはお礼を言ってから、波音に意識を集中した。


そうして、探知したのであった。波音の居る場所へ向かう。


ニャイト「波音……!!」


波音「その声は……かつおぶしなの……!? 武士ではなく騎士になっちゃって……」


ニャイト「会いたかった……」


波音「しばらく離れてしまってたけど、これからはまたずっと一緒だよ……」


2人は抱きしめあった。


ニャイト「優唯殿。助けてくださり、ありがとうございました。あなたが波音との思い出を

     思い出させてくださったおかげで私は自我を取り戻すことができたのです」


優唯「いえいえ、どういたしまして」


ニャイト「何か困りごとがありましたら、私をお呼びください。この鎧の力を振るいましょう。

     呪いがなくなっても十分、騎士みたくお守りすることができるでしょう」


優唯「その時はお願いするね」


呪われた騎士の呪いは解かれ、頼れる聖騎士が誕生した。


ニャイトが仲間になった。

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bless you!! シィータソルト @Shixi_taSolt

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