わたしは、少女
「……東京、戻りたくないなあ」
新幹線のチケットは予約してある。あと半時間もすれば、わたしはここから再び旅立つ。
用事は、済ませたから。
ああ、寒い、寒いなあ。あんなに出たかった、牢獄のような雪国なのに。
雪は、わたしを足止めするほど、今でもこうして美しい。
わたしは、煙草をもう一本吸った。たっぷり、たっぷりと。
でも、帰らなければいけない。
あの子の魂を、肉片ひとつたりとも、雪の地に遺してはいけないのだ。
スーツケースのなかには、あの子だったものが詰まっている。わたしは黒光りするスーツケースを愛おしく撫でて、旧友に語りかけた。
「……ほら、あなたのせいだよ。あなたのせいで、わたしはもう二十八歳の非処女になってしまった。けれど」
あなたを殺したんだから、今わたしがこの街でいちばん――美しい雪に愛されるに相応しい、少女でしょう?
しのび、いたみ、とむらう。~ゆきんこの場合~ 柳なつき @natsuki0710
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