5.キツネと日本文化① 毛色

【⚠注意! この項も前回に引き続き比較的マジメでタイクツな回となってます。ご注意を!】


 キツネは日本の文化に多くの影響を及ぼしてきました。いや、勝手にキツネが入り込んできたのでしょうかね!? どちらにしても日本人と狐は切っても切れない縁にあります。考えてみてください。狐憑き、狐の嫁入り、お稲荷様、きつねうどん……、植物であればキツネアザミやキツネノオなどがあります。

 

 このように、書くときりがないというくらいに日本に根付いてきたというのはとても面白いですが、ではいつ頃からキツネは「化ける」とかいわれるようになったのでしょう。また、稲荷神との融合はなぜ起きたのか。それらをこの「キツネと日本文化」シリーズで探っていきたいと思います。①は、毛の色です。



 〈古代のキツネ〉

  平安時代になるともうすでにキツネは文献に出てくるようになりますが、実はそれ以前の奈良時代などにはあまり書かれません。例えば我が国最古の歌集である「万葉集」は和歌だけでも四二〇〇首ほどあります。文字数にすれば4200*31で簡単な概算でも十三万もの文字量になるわけです。それなのに、「狐」はわずか一種にしか出てきていません(三八二四番歌)。

 ではその他の文献はどうかというと、これまた面白いのがということです。国の正史『日本書紀』の六互七年の条には


 ー岩見の国まをさく、白狐見ゆー


 と記されていま(1)。ただ狐、としないで白狐とした理由は、その色が大変珍しく国史に記すに値するからだ、といえばそれまでなのですが、実は面白いデータがあります。太田善麿という学者さんがまとめた統計で、古代の書物に出てくる動物などの「色」を集めたところ、


・シロ 一七〇

・アカ 九〇

・アオ 五八

・クロ 五二

・キ 四七    ――(2)


 となったといいます。この統計はキツネにだけ反映するものではなく、様々なものに対応させてその「希少価値」を示すもので、色に対応した希少さが見て取れるわけですが(シロが最も希少で、キが最も下位)、偶然にもすべてキツネに当てはめることができます。

 シロは恐らくアルビノ個体か、もしくはプラチナギツネと考えられますが、後者は人為的な交配の末に生まれるものであ(3)、可能性は極めて低いと思います。とはいえ、アルビノもやはり希少性が高く、古代人が果たして見ることができたのかも疑問ですが、ほかにも白雉や白(4)など、アルビノと思われる他動物を見たとの報告があるため、頭ごなしに否定はできません。まあ文字ですから、書けばそれで終わりなんですけどね。なお、日本にはいませんが、世界に目を向けると極北に住む「ホッキョクギツネ」という真っ白なかわい~キツネさんがいます。一目見てくださいな。

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/images/animals/800/arctic-fox.jpg(5)

 アカは、実は一番迷います。というのも、日本に生息するキツネの種類はホンドギツネとキタキツネであり、古代の中央政権が奈良だとするとホンドギツネしか見られません。そしてホンドギツネは大体毛が黄色あるいは褐色色で、とてもアカとは言えません。これは特別赤い毛の血を持ったキツネたちがいて、交配してアカいキツネが生まれたか、勝手にアカのキツネを見た! と報告したまででしょう。

 アオというのは普通の観点からすれば最もありえなさそうな色ですが、実はこれにはからくりがあります。古代日本の色は、まず基本的に四色しかありません。「アカ・クロ・シロ」です。そして、その三色の間にあるような・あるいはそれ以外のあいまいな色をすべて「アオ」と呼んでいたのでした。だから、アオガエルとか青信号とか言いながら、それが指す色は緑だったするのです。あるいは青馬と書いて「淡灰色の馬」を指したりしま(6)。だから、現実的に考えればアオのキツネというのは灰色のキツネということになります。そして灰色のキツネとなると、ギンギツネが日本だと当てはまります。これはアカギツネの毛皮が黒と灰色に変化したキツネで、地方によって出現率が異なり、日本はわかりませんがカナダでは2~17%のアカギツネが「ギンギツネ」だったともいわれていま(7)。また黒と灰色の配色割合は個体によっても異なるので、ギンギツネの中でも灰色の割合が多いものがアオのキツネといわれたのでしょう。

 クロは、アオの説明を見たみなさんならもうわかりますね? そう、ギンギツネの毛皮のなかで黒い割合が多い個体を言ったのだと私は思います(あるいは確率は少ないけど、メラニズム個体?)。ちなみに『続日本紀しょくにほんぎ』では、黒いキツネを「玄狐」と表記しています。かっこい(8)~! ちなみにギンギツネはこちらです。なんかタヌキみたいでこれもまた愛くるしいですね。

https://bigpicture.ru/wp-content/uploads/2012/10/Steffen-Sailor-4.jpg(9)このギンギツネは比較的クロが多く、日本で一般的にみられるような「銀(灰色)」がほぼなく、代わりに黄色い毛が少し生えてます。かわいい。

 キなんてもっと簡単です。これは普通のホンドギツネです。コモンレアです。


 ちょっとまた長く書きすぎましたね。さて、では最後。上の色というのは、結局古代日本ではどのように思われいたかということですが、これはまず参考にしている本から引用してみましょう。


・アカ 呪力

・シロ 清純無垢

・クロ 幽静深玄


 となるようです。アカが呪力というのは、民俗学的な考えらしいです。私は門外漢なのであまり適当なことを言えないのですが、例えば「丹塗り矢」などがその例なのではないでしょうか。

 シロが無垢というのは、今も昔も変わらないんですね。面白い……。でも今の時代は、例えば紙が白いから白はキレイで何もないみたいな認識があるのだろうと思いますが、古代にはまっさらな紙などまだない時代です。それでもシロをそうとらえるというのは、人間のさがなんでしょうか。

 さて、クロが幽玄というのが、実は日本文化に浅学な私にはわかりかねますね……。どうしましょう。何か思いついた方は、一言お願いします!


 それでは、そろそろ文字数も二七〇〇字を超えだしたので、ここまでにしたいと思います! 本日紹介したキツネについての記事が古代人の想像でないとしたら、古代日本はまさにキツネパラダイスだったのだなあという印象を深く受けました! ああ、キツネのためだけにタイプスリップしたい気分です。

 




(1)p.13 星野五彦『狐の文学史』 内容は『日本書紀』より

(2)p.122 二-古事記の考察- 太田善麿『古代日本文学思潮論』

(3)キツネ>「プラチナギツネ」 キツネ写真館

http://fox-info.net/vulpes

(4)p.13(1)に同じ 白雉は「推古七年九月の条」・白雀は「皇極元年七月二三日」

(5)「ホッキョクギツネ」NATIONAL GEOGRAPHIC

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/428902/

(6)『デジタル大辞泉』より コトバンク

https://kotobank.jp/word/%E9%9D%92%E9%A6%AC-422190

(7)p.29 【形態】 今泉忠明『野生イヌの百科』

(8)p.16(1)に同じ 内容は『続日本紀』「和銅五年七月十五日」より

(9)「Фотосессия любопытной чёрно-бурой лисицы」 BIG picture

https://bigpicture.ru/?p=338007

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キツネ🦊のすべて! 凪常サツキ @sa-na-e

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