人を呪わば……

「良かったですね、お二人とも」


「ありがとうございます。――でもアイナ、あなた、呪術なんて使えたのね」


「ううん、私じゃないの。前々から、サックの町に住む黒呪術師さんにお手紙で相談していたのよ」


「い……?」


 再びシャリィの顔が引きつる。しかしアイナにはそれが目に入らず、説明を続ける。


「最初のお手紙の時に、初回サービスというので『一度だけ呪いを任意の相手にそらす事が出来る札』という物を返信と一緒に貰ったの。それで、どんな人の呪いでも必ずそらせると書かれてあったから、私自身に呪いがかかるようにお願いして、アナにそらしたのよ。あなたの名前では、断られるかと思って。確か、シャリィ・ルクルシスさんと仰る方だったかしら?」


 アナとロビンの視線がシャリィに集まる。しかし当の彼女は汗を一筋流しながら、早々に帰り支度を始めていた。


「そ、それじゃ、私達はこの辺で。今回は初回サービスで前金だけで結構ですので、お邪魔しまし――」


 慌てて退室しようとするシャリィだが、ガシッと肩をロビンに掴まれ制止させられる。


「詳しくお話を伺う必要がありそうですな。おい誰か、この方を地下室にお連れしなさい」


「はっ!」


 ロビンの声に反応して、衛兵が入室する。ロビンの目の合図ですぐさまシャリィの両脇を抱え、部屋の外へと連行していった。


「え? ちょ、まっ、シャケちゃ~ん! 助けて~!」


「あの、えっと、ロビンさん? アイナさんが抜ける分、こちらで働かせて頂けませんでしょうか? 天然猫耳ですので当主様が喜ばれる事請け合いかと。ナ、ナターシャ頑張りまーす☆」


「なっ? ちょっ、裏切者ぉぉ――……」


 懇願も虚しく、黒呪術師は暗い地下室へと運ばれ、その声は決して外には届かない物になった。




 シャリィ・ルクルシス


 近い未来。彼女の存在と活躍により、このエマードエ王国は建国史上最大級の厄災から救われる事になるのだが、それはまた、別の機会で。


      おしまい

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サービス過剰な黒呪術師と魔痣の令嬢 なぎの みや @nagino_miya

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