番外編その3 バレンタインデー番外編(アリア視点) 

 

 カレンダーをふと見ると赤い丸がつけてあった。

 世間は間も無くバレンタイン。

 女性から異性の友人や恋人に感謝を込めて贈り物をするというイベント。

 元々は夫婦が結婚式で立てた愛を確かめ合う日だったのですけど、今はその辺がかなりルーズになっています。

 異性じゃなくて同性同士でも贈り物を交換するのも一般的ですし、お姉様にわたしがプレゼントを渡しても全然オッケーなはず。

 去年は渾身の等身大アリアちゃんチョコに秘密のエッセンスを混入させて渡そうとしたら火魔法で溶かされてしまいました。

 三日ほど徹夜して制作した渾身の一品だったのに……ぐすん。

 髪飾りは嬉しそうに受け取って貰えましたけど。


 なので今回はそのリベンジをしたいと思うわけですよ。


「よろしくお願いしますね王子」

「うん。まぁ、いつでも来てくれと言ったのは俺なんだけど……」


 現在地はトランプ王国のお城。その厨房。

 学園が長期休みに入る前に好きな時にお城に来てもいいと許可をいただいたので早速訪ねました。

 ここにお邪魔した理由はお城の広い厨房を借りるため。

 自宅だと狭くて目的のものを作れないんですよね。前回はクローバー邸の厨房をお借りしたんですけど今年はお城にも顔を出さないといけないのでそのついでに。


「おっ、エースと婚約者殿じゃないか。二人で仲良く何をしているんだ?」


 材料の確認をしているともう一人の王子がひょっこり顔を出しました。

 銀髪で同級生の彼はこちらを見てニヤニヤと笑っています。


「バレンタインデーのチョコ作りです」

「直接手渡すどころか作る所から一緒だとはお熱いことだな」

「ジャック。あまりからかわないでくれ」


 弟から面白がられるのが嫌なのか恥ずかしいのかテキパキと用意をするエース王子。


「良いんじゃないか? 婚約者同士なんだし」

「ジャック様。わたしとエース王子は確かに婚約者同士ですけどそれはお互いの利益のため。政略婚約ですからそんなにちょっかい出しても何も出ませんよ」


 要領はいいけどお菓子作りなんてした事ないエース王子に指示を出しながらわたしは市販チョコレートを溶かしていきます。

 お姉様に渡す本命の他にも友人達に配る友チョコやお世話になった人への義理チョコも用意しないといけないのでかなり大変なんです。当日は配るだけに専念したいので早く準備しないと。


「……なぁ、エース」

「何も言わなくていいよジャック。それでいいと受け入れたのは俺だ」


 肩を落とす兄を気の毒そうな目で見る弟。

 何かあったんですかね?


 わたしとエース王子は婚約をした。

 二年生末のダンスパーティーで突然婚約を申し込まれた時は周りの雰囲気に呑まれてオッケーを出してしまった。

 エース王子のことが嫌いかと言われたらそうでは無いんだけれど、王族と平民という身分の差があって雲の上の人みたいに思えてしまうんです。

 生徒会でもご一緒してたので、男性の中では一番気軽に話し合える仲ではあるけど夫婦になるという実感はまだ湧きません。


 あぁ、今頃お姉様はマーリン先生と一緒にクローバー領で楽しく過ごしていらっしゃるのでしょう。

 わたしもさっさとあちらに行きたいなぁ。


「これはかなり手首が疲れるね」

「お菓子作りってかなり大変なんですよ。分量は正確に量らないといけないですし、レシピ通りにしないで変にアレンジしたらひどい結果になりますよ」


 わたしは小さい頃から家の手伝いをしてお母さんに色々と料理を教わりました。

 元々甘い食べ物が好きだったのでお菓子作りは特に熱心に学びました。

 友達少なかったから他にする事無かったですし。


「いつも君が差し入れてくれたお菓子もこうして作ってくれていたんだね」

「貴族の人達のお口に合うかは微妙なんですけどね」


 友達からはお菓子作りが上手だとは言われたけれど所詮は趣味の延長。

 有名店やプロの料理人が作ったものを日常的に食べている人からすれば安っぽい味でしょう。


「そんなことはないよ。君が作ってくれたものはとても美味しい。正直、飾りの凝った料理は食べ飽きていてね。栄養管理もキッチリされていて好きな時に好きな物を食べられないんだ」


 王族も大変なんだなと思いながらわたしは話の続きを聞く。


「そんな中で君の用意してくれたお菓子は特別だったんだ。寮の自室で夜中に書類作業したりする時もいい糖分補給になったよ」

「ふ〜ん。それならまぁ……良かったです」


 いつも偽りの仮面を被り、民の前では決して笑顔を絶やさない彼が珍しく見せる年相応の笑顔にちょっとむず痒くなります。

 普段は意地悪なくせにポロッと恥ずかしい事を言うのはズルいと思います。


「じゃあ次はこのタルト生地に溶かしたチョコレートと流し込んでください」

「了解。これから俺もたまには料理してみようかな?」

「ダメです。……それだとわたしが有利な点が減っちゃいますから」


 その後もお城でのバレンタインチョコ作りは雑談を交えながら順調に進みました。

 出来上がったものを彼に味見して貰いながら友チョコと義理チョコは完成しました。

 遠方の実家に帰省している友達には荷物として送るとして、王都近辺の人へは手渡しをしましょう。

 ユニコーンに乗ればわたしの魔力が続く限りはどこまでも早く移動できますし。



 ……さて、ここから大好きな人への本命チョコの用意をしましょう。

 とびっきりのを今年こそお姉様に食べていただくために…………けけっ。


















「お師匠様。これ、アリアから貰ったチョコレートなんですけど眩しくて直視出来ないんですが……」

「ふむ。これは光魔法というか、光の巫女であるアリア君の魔力が凄まじい量込められているな」

「食べちゃっても大丈夫なんです?」

「……恐らくだが、エリクサーに匹敵する効果があるだろうな。一口食べれば体のありとあらゆる不調が吹っ飛ぶ。全部食べれば一週間は疲れ知らずで睡眠も不要だろう」

「たかが友チョコで伝説級のアイテムに並ぶんですか!? 何作ってんのよアリア!?」

「君が作った魔除けのアクセサリーも中々だと思うぞ? 懐に入れておけばどんな致命傷も一度は防げるだろう」










「おい! 臣下が心配しているからそろそろ休んでくれエース!!」

「心配いらないよジャック。今の俺は凄く調子が良くてね。このところ婚約の打ち合わせで遅れていた公務の書類がどんどん減っていくんだ。いけるとこまで終わらせて時間を作るために頑張らせてくれ!」

「四日間も全身をピカピカ光らせながら目を据わらせてる時点で異常しかないだろ!!」













「ちょっとやり過ぎちゃいましたかね?」


 バレンタインデー終了後、一週間したくらいでエース王子が倒れたと連絡が入ったのでお城にお見舞いに行きました。

 お姉様へ渡すついでに作ったチョコが原因らしいとお見舞いに来たマーリン先生から教わりました。

 クローバー領ではお姉様のお父様が同じ症状になったそうです。

 折角のチョコなのに他人に毒見させるなんてズルいですよお姉様!!

 一緒に渡したお揃いのピアスはしてくれていたので嬉しいですけど。


「仕事が……王族としての役目が……」

「わたしが看病しているからすぐ治りますよ。普段から頑張りすぎなんだから少しくらいゆっくり休んでくださいね」


 布団の中で唸る王子に光の魔法をかける。

 ちょっと楽になったのかエース王子はわたしに向かってこう言った。


「……療養が終わったらデートしてくれるかい?」

「な、何を言ってるんですか!?」

「俺がこうなったのは君のせいでもあるんだけど?」

「喜んでチョコ食べたじゃないですか」

「………………………………………………」

「わかりましたよ! デートでもなんでも付き合いますからジーっと見ないでください!」

「約束だよアリア」




 やっぱりわたしはこの腹黒王子様が苦手かもしれません。


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逆に考えて、最低最悪の悪役令嬢になりましょう!〜悪役令嬢転生。破滅フラグを回避しつつゴリ押してみた結果〜 天笠すいとん @re_kapi-bara

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