第2話

エル・モント卿とリンクスはその様子を伺っていた。しかし、その顔には何故か落ち着き払った表情を浮かべていた。

「次が君の番だな・・・手加減してやれよ。」と公爵の言葉に

「まぁ相手がそれほどの実力があればね」と言い放った。



6人のバトルロワイヤル方式の予選。6人中1人しか次の戦いに進めない・・・そこに謎の青年、そして、今年の優勝候補のハンズ・フリークがこの試合で剣を交える。闘技場内に入場した六人にもう隣で始まっている他の試合を見るものは殆どいない。

高まる緊張感の中、やはりその若い剣士は余裕の表情で対戦相手を伺っていた。彼のその自信の表れはどこから来るのか?それは2日前に遡る。



(予選最終日2日前、大会初日)

会場周辺、そして町全体は人でごった返し今から始まるこの地域いや国最大の祭り「クランケット・ソース」が始まろうとしていた。そして、そのローガイエ領「ライガント」の地に1人の若い剣士がいた。


「“ブラケット・ブラケッツ”か・・・入るのは久しぶりだな。やっとここで戦えるのか」

だがその若者の予想通りに行かず

「修練生以外は推薦状か推薦者が必要です」

「推薦・・・そんなものが必要だったのか・・・誰でもいいのですか」

「いえ。それなりの名家の方の推薦が無ければ・・」と受付嬢は半分あきれていた。

周りではすすり笑う声がしていた。1人の少年剣士・・・だが周りからはただの美男子にしか見られず女性は近づいてくるが男どもはあまり相手にしていなかった。


推薦人を探し回ったがそう簡単に見つかるハズもなく闘技場近くの食堂で昼食を摂ることにした。会場近くだけあり参加者や観客で店はごった返していた。その中で気になる席があった。

「お前、本当にエル・モント卿に会いに行ったのか?」

「あぁ、もうその事は言うなよ。まさか公爵の近衛兵と戦って勝たないといけないなんて」

「馬鹿な話だよな。そんなこと出来たらとっくの昔に子爵のお抱えにでもなっているよ!」


その女性剣士たちの話に彼は吸い寄せられるように近づいていった。

「すいません、あなた達はエル・モント卿の館を知っているんですか!」

急にやって来た彼に

「何だぃ、ボーヤ。どこのよそ者か知らないけどまさか公爵の処に行くのか」と少し、

あきれた様に小馬鹿にして言うと何を思ったのか

「えぇ、もちろん。何処に行けばいいんですか」

少し動揺したが信じていない彼女たちは軽い気持ちで教えた。

「知らないのか?あの有名なアルバットンの砦だよ」



食事も早々に済ませすぐにエル・モント卿のいる「アルバットンの砦」と呼ばれるこの辺りでは最も有名な館の前に立っていた。この城はあの“アセンゲル紛争”の時に前線の砦として活躍した場所で当時の領主「ロシリナ・アルバットン」の出城だった場所だ。そんな歴史的にも、そして現在もやはり歴史を動かし得うる名家がある。

「ここがエル・モント卿の館か・・・やっぱりごつい建物だな。公爵邸らしい」


そんなことを思っているとやはり衛兵がこちらの方へと近づいてきた。この領地を守るのは、私兵は私兵でも近衛兵だ。これを持つ事を許されるのは王国でも12の子爵と公爵のみでこれは所謂「王国軍」の正規戦力であり各地の守護兵として平時は各砦に駐屯している。そのひとつローガイエ兵団アルバットン隊といえば誰もが一度は聞いたことがある部隊の1つだ。

「何をしている。ここは公爵邸だ。早々に立ち去れ!」そんな近衛兵に

「だから来たんですよ。僕の推薦人になってくれるのはここの主人のエル・モント卿しかいないのです!!」すると奥の方から

「そうか、お前もあの大会に出るのか」

というと扉の向こうへと歩いていった。


そんな話を真に受けたのか、いや・・・奥からは多くのごつい甲冑を身に纏った近衛兵が出てきた。だが、その時ついに目当ての人物が出てきた。

「諸君。まずは彼の話を聞いてからだ。」玄関前の広場の上のベランダに現れたのは例の公爵・・・


そう、あの「エル・モント卿」だった。彼は男を見るなり近くにあった短剣を投げ渡した。


  「その短剣で戦い、勝つことが出来れば私が推薦人になってやろう。」

と言い放った。この無謀だと思える注文に男は即答で

「あぁ、いい。その代わりここにいる10人全員を3分以内に倒せたら、もうひとつ聞いてくれるのでしょうか?」といい始めた。男の顔には何の揺らぎもなく落ち着き払っていた。この男の言葉にも卿は表情を変えず

「ほう、では見せてもらおうか・・・」そういうと兵は剣を構えた。


 アルバットン隊・・・近衛兵でも「エロア隊」(ドラゴン騎兵混成近衛兵隊)と並ぶ精鋭部隊でありこの二十年はそう大きな戦いはなったが35年前の戦いでも大きな戦果をキルド王国軍に与えた。その衛兵と言え他の「お抱え剣士」とは訳が違う。彼は俯いて固まったまま動こうとはしなかった。

「口ほどにもない・・・ひびって動けもしないじゃないか!やれ」と兵の一人が言った瞬間、その兵士の近くにいた者が切り倒された。


驚いたが近衛兵の端くれ・・・反撃に出たが装備の違いはスピードに大きく差をつける。兵士たちも他の兵よりは早く剣の腕も一般の者達よりは遥かに優れていたがそれをも超える俊足、それに剣の才能も桁外れだった。わずか一分を過ぎた辺りで三人を倒した。どの剣士でもこの速さで「みね打ち」に出来るものはそうはいない。さらに残った七人の兵をキッと見た。大剣を振り回してくる衛兵たちだが易々と交わされ反対にどこの馬とも知らない若い剣士に次々と倒されていった。そして、けなした兵に一言だけ放った言葉に恐怖心が沸々と湧き上がってきた。


「君は最後にしておくよ・・さぁ、あと1分45秒・・・持つかな?」


あまりにも冷静すぎる。まだ七人の兵に囲まれているのにも関わらずその落ち着きようはアルバットン隊をも怯えさせる。だが怯んでばかりもいられない。さらに二人の重装備の兵士が一人の若者に襲い掛かった。すぐにもう一人も挟み撃ちにするようにして斬りかかった。しかし、その刃は決してその若者には触れる気配すらない。全て寸手で交わしている・・・いや、まるで「剣が避けている」かの様にその太刀は交わされていった。


これにはさすがのエル・モント卿も少々予想外の腕のよさに驚くどころか感心している。この状況下で冷静なのは公爵と下にいる若い剣士だけのようだ。


“「ほざくほどはある。私の館でこれほどのものを見れるとはな。

しかし、近衛兵相手にここまでとは・・・」”

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グローズ・ファイア レッドフレーム ハイド博士 @mazuki64

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