第2話 ロボット牛

 その日のワシは、久しぶりに映画を観たのじゃ。

 原始人のまだマンモスの狩りに参加したことがない半人前の少年が主人公だった。

 だが、彼はいくつもの苦難を乗り越えて、大人たちとともに、ついに1頭のでっかいマンモスを仕留めたのだった。

 その時の肉をダイナミックに焼いて食うシーンが頭にこびりついたワシは、その夜、眠りにつく前にバーチャル異次元マシンのヘルメットを被り、ベッドに潜り込んだ。

「ひゃー寒い! ブルブル」

 ちょっと部屋の暖房を節約してたのでな。なにせ、研究開発費の占める割合が、ワシの全出費の70%もあるからのう。


 ワシは、時空合流点を検知するマシンの設定を時間指標(マイナス7万年)、3次元指標(イタリア北部の範囲で最もすぐ現れる合流点)、時空変異度=ワシが今いる世界とどれだけ歴史が相違してるか(宇宙全体の0.003%未満=できるだけ変わってない世界)にセットしたつもりで眠りについた。


 しかし、ワシは時間指標をなぜかプラス70年にしておった。ワシはマンモスの肉をダイナミックに焼いて食いたかったのにだ。

 それで、ワシはイタリア北部の町、ボローニャという所に飛んでいた。70年後の世界だったので、ワシはすでにこの世界には、いなかった。それで、ワシはこの世界のマルコという少年に合体しておった。


 合体したワシはキョトンとしておったが、間違って来てしまったものは仕方ない。ここでも、まあイタリア料理で肉ぐらいは食えるじゃろうと簡単に考えておった。


 ところがじゃ、この世界では世界的に広まった新興宗教として、動物愛護を教義にしているラブリー教が席巻していたのじゃ。そのため、人類は動物を殺すことを放棄しておった。

 なので人類が食べていい物は、ほぼ、植物性の物に限るとされた。ただ例外として、電子頭脳に牛と豚と羊の肉体をそれぞれ合体させた、3種類のサイボーグ化による生産肉だけは、食せるのじゃ。


 ワシは、とある料理店に入った。見かけが中学生ぐらいになってしまったので、それに見合った言い方にした。

「あのー」

「はい。いらっしゃい!」

 店のウエイターがあいさつしてくれた。

「何かボリュームのあるステーキなんかを食べたいんですけど…… 」

「はい。それでは、ボロージャンなんかが、美味しいですよ。

 でも、その前に…… あなたの身分証を見せてください」


「えっ、身分証? 」

 ワシは一瞬焦りながら、ポケットをまさぐった。(おっ、これかも)

 ワシは確かに身分証らしい顔写真入りのカードを持ってたので、ウエイターに見せた。

「はい。マルコ君ですね。

 では、あなた専用のロボット牛のパスワードをこのオーダー画面に入力してください」


「えっ、パスワード? 」

「そうですよ。中学生なら、それぐらい知ってるでしょ?

 ほら、国民50人ごとにそれぞれ専用のロボット牛やロボット豚やロボット羊が1頭づつ有料で割り当てられて、成長したら、その肉の部分だけをなじみの料理店に預けておくシステムを。それとも、もしかしたらロボット肉をここに預けてないのかな? 」


 ウエイターの説明を聞いてワシは困った。

 そもそも、ワシはどこの子かも分らんし、この世界の記憶がないのじゃから。

(ああ、そんなこと、いいじゃんか! ワシは空腹なんじゃ! 

 腹一杯、食いたいよー! )


「博士! 博士! 」

 ワシはベッドで、うなされてる所を助手の翔青しょうせいに起こされた。


 ワシは、ベッドで起き上がって、しばらく放心状態になっていた。

(70年後の未来はグルメがいなくなる寂しい未来なんじゃろか? )


 と思ったが、これはバーチャルなんだと気がついてホッとため息をついたのじゃ。


 第2話 終わり









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