第3話 潜入
夜
教団施設裏門
暗闇の中ペンライトが回っている。
華原と冴子が身を低くして草むらから現れる。
人1人通れるくらいの木製のドアを開けて中に入る。
案内役の中年男が待っている。
「これから案内するので、速やかに隠し撮りしてすぐ立ち去るように」
鋭い目にいかにも精鋭の秘密警察のような口調だ。
施設は塀に囲まれた大きめの2階建の雑居ビル。
薄暗闇のなかビル裏口のドアをあけ中に入ると、赤い非常灯が暗い廊下に灯っている。
3人ひっそりと歩みを進める。
そに先遠くに明かりが漏れ人々の声が聞こえる。
入り口から出入りする多くの人影。
子供だろうか廊下を走る姿も見える。
すれ違う人も多くなってきた。
3人そこに紛れるようにして大部屋へ立ち入る。
広い会議室だろうか多くの人々で賑わっている。
壁には「共生共存」の大きな文字。
作務衣姿もいれば普通の服装の人もいる。
老若男女小さな子供もたくさん走る回っている。
中央の長テーブルに炊飯器が置かれてその隣にはいくつもの大鍋。
夕食時だろうか まるで炊き出し風景のように見える。
皆笑っている 楽しそうである。
勢いよく走って着た数人の子供たちが華原にぶつかる。
「おにいさんごめん」
はしゃぐように走り去る
緊張がとけたように苦笑いして華原
「なんか、普通じゃね」
ジャケット下に隠した付けた携帯カメラを押し続ける冴子。
「これが今世間を騒がすエルフィンの内部とはねえ、ちょっと拍子抜けか」
「言ったでしょ、こんなものだって」
冷静に辺りを撮り続ける。
二人しばらく歩いて様子を見る。
中央で円陣を組んで子供たちがご飯を食べている。
華原どこか懐かしいようにそれを眺めている。
「俺たちもこんなかんじだったよな」
うつむき目を閉じるように冴子
「そうね」
背後から大鍋を重たそうに持った中年女性
「見慣れない顔ね、新人さん?」
「あ、そーなんです昨日入信したばかりで」
華原調子にのって
「あ、手伝いましょうか」
と手をかす
華原の腕時計には録音機能がついている
ぬかりなく生の声をひろう。
「ところで教祖様はどこに?」
中年女性気さくに答える
「教祖様はこの時間は中庭で祈祷の最中よ」
一人の少女が冴子に歩み寄る
「おねえちゃん、はいこれ」
と花を差し出す。
アマリリスだろうか数本が輪ゴムでまとめられ、小さな花束のようだ。
冴子一瞬気後れするがすぐにしゃがみこんで少女の目線に合わせる。
「ありがとう」
少女の純粋な瞳に冴子も顔が和らぐ。
「きれいね、どうしたのこれ?」
少女目を輝かせる。
「昼間お外でつくったの」
「教祖様と一緒に作ったの」
「教祖様いい子いい子するの」
「たくさんいい子すると教祖様と赤の部屋へ行けるの」
冴子、一瞬訝る
「赤の部屋?」
「おねえちゃんしらないの?」
「こっちだよ」
少女導くように走り出す。
明るく賑やかな大部屋を出ると、薄暗い廊下にでる。そのずっと突き当たり、薄らぼんやりと赤く靄がかった扉が見える。
突然走り寄ってきた女性が話しかける。
少女の母だろうか少女の肩を抱いている。
「エルフィンにとって幼子は宝です。選ばられし幼子は天道への道標として教祖様と共に生活します」
「この子も頑張っているのですが・・・」
冴子何かしら胸騒ぎのような不安をもって扉を凝視する。
大部屋夕食が終わったのかかたずけが始まり慌ただしい。
「そろそろか?」
華原が冴子に促す。
二人大部屋を出ると来た道を戻る。
薄暗闇の廊下がどこまでも続く。
人影はもうどこにもない。
出口近くまで来て急に華原が立ち止まる。
「おい、何か聞こえないか?」
低く鈍く響くような音
「声?」
向かいの部屋からである。
冴子ドアに手をやる。
華原慌てて遮るように
「おい!」
冴子小声だが落ち着いている
「スクープだろ」
ドアを開けると青白い月明かりが差し込むなか、一人の男が背を向け佇んでいる。
冴子ゆっくりと近づく。
無表情に正気の抜けたような目。
男の顔を認め一瞬はっとする
「雄二!」
冴子、雄二のもとに駆け寄ると男の顔に目をやる。
「写真の大学生!」
華原、一瞬驚き後ずさるがゆっくり近づきなんとか絞り出すように
「おい!君、ご両親が心配しているよ」
説得するような華原の声。
その時突然男床に崩れるよううずくまる
息苦しそうである
低く鈍い声が白い息とともに流れ出す。
低いうめき声が蒸気のようにどろりとこちらに流れ込む。
冴子後ずさるが男の目が一瞬赤く鋭く点滅するのをはっきりと見る。
すると傍らの華原が男に同調するように苦しげに床に崩れる。
「雄二どうした!」
冴子雄二の体を揺さぶる。
苦しそうに顔が歪んでいく華原
「冴子先に戻れ 俺は大丈夫」
「俺はこいつともう少し・・・」
「でも雄二」
「いいから先に行け!!」
冴子、一瞬躊躇するが、得体の知れない恐怖と、華原の気迫に押されて冴子後ずさるように部屋を飛び出るとそのまま出口を目指して走る。
開け放たれたドア
中でうずくまる二人の男
走り去る女
これら一部始終を眺める一人の男がいた。
襟付きの黒い不気味な外套、首には大きな勾玉のような数珠が巻かれている。
大柄の強固な体躯で、その眼光は深く窪み闇のように邪悪に満ちている。
やっとの思いで外にでる冴子。
あとは草むらを抜けて塀の小さな扉まで走るだけだ。
来るときは見えなかった月明かりがビル裏手の広い草はらを映し出す。
その真ん中に人影が見える。
そこには白衣を着て祈るように佇む一人の少女の姿があった。
エルフィンの園の教祖「北条霧香」だった。
以前に写真で一度だけ見たことのあった冴子はすぐにそれを確信した。
色白で線が細く少女のような顔立ちをしている。
髪は純白で肩にかかっている。
地面にひざまずきまるで天上の月に話しかけるように必死で何かを訴えている。
どこか悲しげにも見える。
その姿は神聖というよりむしろ人間、それも純粋な普通の少女の祈りそのものだった。
少女の必死の祈りの姿に冴子は強く心を打たれた。
物音に気がついたのか教祖ははっとなり祈りを止め振り返った。
冴子と目が合うと教祖の表情はにわかに豹変していく。
それまでの慈しみと悲しみが失せ無表情のまるで正気のない氷のような冷たいものへと変わる。
そしてその突き通すような視線に見つめられ冴子の体は凍りついたように動くこちができない。
わなわなと震えるように地面に崩れ落ちた衝撃で一瞬視線から解かれた。
残りの力を全て出し切るように草むらを転がりながら出口にたどり着く。
外へ出ると逃げるように走り出す。
氷のような突き刺す視線がどこまでも追いかけてくる恐怖感が背後にまとわりつく。
どこをどう走ったか覚えていない
なんとかマンションにたどり着く。
息が激しくきれている。
マンション入り口
そこに腕組みして待っていたかのように立ちつくす一人の男。
「遅かったな」
「心配なのでここで待った」
おろしたての白いシャツが驚くほどに似合っている。
その瞬間安堵とともにそれまでの恐怖が消えていく。
そしてその姿をなぜかうっとりと見つめながらも、はっと我にかえる。
「外に出ちゃダメって言ったでしょ!」
言ったはいいがそのまま力尽きて男の胸に崩れる落ちる。
孤高の大鳥三姉妹に捧げるRequiem nana @yokyok1214
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