グラムロック探偵

naka-motoo

探偵は短編で戻ってくる

 こんばんは。緋糸ひいとだよ。

 早く話に入りたいからアタシがまず状況を解説するね。


 今アタシが居るのはテレビ局。週末深夜の音楽番組の収録スタジオだよ。

 イギリスから1970年ぐらいのグラムロックをモチーフに活動するバンドが日本でツアーをしてるんだけど、MVを撮影するためにスタジオライブもやるってことでオーディエンスを応募してたんだよね。でね、当たったのよ!


 まあ・・・アタシの仲間四人とも全員当選してるから、まだまだ売れてないってことだよね。


 じゃあ、まずアタシの自己紹介から。


 アタシは緋糸。中卒で就職した。15歳で。なんと就職先は探偵事務所なんだよね。


 それから、アタシの妹の5歳の桜花おうか。母親には内緒でアタシの職場である探偵事務所に一緒に連れてってる。


 そして探偵事務所のNo2、コワモテの田代たしろさん。


 最後に我らが『王子おうじ探偵事務所』の社長でまるで女性と見まがうような美しい顔立ちにグラマラスな極彩色の袖が物凄く細いトップスにスリムなペラペラ布地のパンツ。そして必然のロンドンブーツ。

 グラムロック探偵、『加ノ谷 王子カノヤ オウジ

 アタシらは王子様、って呼んでる。


「わー。かわいい」


 四人並んで客席に座ってイギリスからやってきたバンドの演奏を待っていると高校生ぐらいの女子がアタシたちに反応している。

 そっとそれを伝えてあげたよ。


「桜花。かわいい、って言われてるよ」

「やだぁ、お姉ちゃん。わたしかわいくなんてないよー」


 いやいや、そういうところがまたカワイイ!

 しかも今日は王子様のコーディネートでグラムロック・ファッションで桜花はとってもキュートだよ。

 王子様は桜花の女の子らしさを強調するためにパープル・レインのアルバムジャケットの裏面みたいな花びらが散りばめられたようなシルクのシャツを合わせてくれて、しかもそれには襟にも袖にもふりふりのフリルがしつらえてある。


「大丈夫?転ばない?」


 そして女子たちは桜花の履いている小ぶりの可憐なロンドンブーツの高さを心配してるけど、桜花はインライン・スケートの名手でもあるからこの程度でバランスを崩すようなことはないんだよね。


「お・・・かわいい・・・」


 アタシは決して自意識過剰じゃないけれど、スタジオにいる男子たちはアタシの服装に反応してるようだ。

 王子様はややシックにということでアタシのトップスはモスグリーンの革ジャンを用意してくれた。

 そして、どういうわけか、ボトムは赤いレザーのタイトスカート。

 ロンドンブーツではなくって、黒のレザーブーツ。


 あーあ。

 だからこんな服装したくなかったのに。


「田代。なんであなただけ普通のカッコなのよ。バンドに失礼でしょ!」


 田代さんはノータイのダークスーツ。渋いよね。


「うるさいな。俺はこれがいいんだよ」

「田代、ときめかないわね」


 あ。

 番組のMCがバンドをコールするよ。


「レディス・アンド・ジェントルメン。まずはカバー曲から。T-REXのZIP GUN BOOGIE !」


 すかさず王子様が反応したよ。


「素晴らしい選曲だわね!さあ、踊るわよ!緋糸クン、桜花クン!」


 踊るつもりなんてなかったのに。王子様の有無を言わさぬような声と、それからもちろんこの曲のあまりのカッコよさに体が反応する。


 スタジオの客席フロアがダンス・フロアに変貌したよ。


「桜花!かーわいい!♡」

「お、お姉ちゃん、からかわないで」

「ううん。桜花クン。とても可憐なステップ!」


 アタシと王子様から褒められると照れてステップの幅をやや狭めて、ちょこちょこって踊る桜花。それもまたかわいかった。


 踊り続けるアタシたちだったけど、何か違和感を感じ始めた。

 それは会場全体がロンドンブーツやらヒールやらソリッドな厚底スニーカーでガコガコガコとフロアを削るように鳴らすアタシたちのステップからグルーヴが削がれるような感覚。

 突然踊りづらくなるような、感覚。


「ああ!?」


 ベースの音が、消えていた。

 なぜなら、ベースの姿がステージから忽然と消えていたから。


「あのー、この会場に探偵の方はいらっしゃいませんか?」

「あらあ。わたしたちがそうよー」


 この状況でついつい名乗り出てしまう王子様。

 そもそも『探偵はいるか』などと訊くMCがそもそも異次元の発想だって思うけどな。でも次の瞬間に田代さんのセンサーが働いた。


「謝金はいたします」

「やるぞ、社長」

「あーあ。でもバンドのためよね。じゃあ、一人ずつお話を伺うから」


 王子様は瞬時に仕事モードに入って、ソフトな尋問を始めた。


 ヒアリングその1:ヴォーカル

「まるでロックンロールの魔術のように瞬時に消えてたぜ・・・奴の演奏があまりにも凄まじすぎて燃え尽きたんだぜ、きっと」


 なんのこっちゃ・・・


 ヒアリングその2:ギター

「ウチのベースはスラップが得意たったね・・・彼の指は神業だった・・・もしかしたら彼の才能を見初めた天使が天に召したのさ・・・きっと」


 きれいだけど・・・よく考えたらおかしい論法だ。


 ヒアリングその3:ドラム

「ウチのベース、バンドを辞めたいってヴォーカルと喧嘩してたんだよね、実は。ヴォーカルは黒魔術にはまっててね。ベースを消し去る呪文を歌詞の中に混ぜ込んで歌ったのかもしれない」


 そうかあ?それともアタシが想像力がないってだけなのかなあ。


「「「探偵さん!犯人を!」」」


「お待たせした・・・」


 声に振り返ると痩身のベースが入り口に立っていたよ。


「べ、ベース!」

「心配したぞ!」

「一体、何があったんだ!」


 彼が自分のベースを抱えながら言ったよ。


「トイレに行かせてもらってた」








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